主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2020/10/10 - 2020/11/22
地球温暖化と気象災害
2018年,熱波により1518名が,西日本豪雨により280名以上が死亡した.2019年,台風15号では千葉県で強風被害が,台風19号では東日本で多くの堤防が決壊し広範囲で冠水した.この予稿集を書いている2020年7月にも,上旬に熊本県の球磨川,下旬に山形県の最上川が,記録的な豪雨によって決壊した.
熱波や森林火災,豪雨やスーパー台風など極端気象による災害は,この10年ほどの間,世界の様々な地域で起こっており,その背景には地球温暖化がある.地球の平均気温は,産業革命前に比べてすでに+1℃上昇し,今世紀半ばには+1.5℃に達して,こうした極端気象の常態化が予想されている(IPCC +1.5℃特別報告書).
分野横断の必要性
気象災害は,河川の氾濫原や土石流の堆積面など,地学的な時間スケールで堆積や侵食がアクティブに起こっている.この半世紀の間,そうした自然の作用を堤防や堰堤で抑え込んで,市街地やインフラが作られた.しかし温暖化によって勢いを増した自然を抑え込みきれなくなり,災害が起こっている.
地球温暖化は,化石燃料をエネルギーの基盤とする人間活動が原因である.温暖化抑制のためには,再生可能エネルギーへの転換と,森林再生や炭素固定などのジオエンジニアリングが必須である.温暖化と極端気象は,気象学の研究課題である.脆弱な土地に市街地やインフラが立地することは,都市計画や社会設計の問題である.温暖化抑制と適応のためには,社会科学,気象学,生態学,地球化学など多分野の共創が必要である.
地理学の役割と海洋教育
自然と人文の2分野からなる地理学は,地球温暖化時代のサイエンス共創の場になり得る.そのためには,気候学・地形学など自然地理学と,エネルギー・土地利用,都市など人文地理学の融合が必要である.しかし両者を隔てる壁は以前高い.たとえば自然地理学は,極端気象の予報・警報と,脆弱な土地を指定するハザードマップの作成,避難行動までで,温暖化を抑制する社会や,災害に対する復元力の高い社会の構築までは至っていない.
地球温暖化と気象災害は海洋の問題である.海洋は人間が放出した二酸化炭素の3割,温暖化による熱の9割を吸収している.豪雨,台風,熱波などの極端気象の背景には海水温上昇がある.水害で脆弱な土地は,海面上昇に伴って氷期の谷を埋め立てて作られた沖積低地である.
東京大学海洋教育センターは,「生命」「環境」「安全」を海洋教育の3つの柱として,「地球規模」「社会経済」「文化」が柱を横断する横糸として,海洋教育の構築を進め,地球温暖化を海洋の危機と位置づけている.新しく構築する海洋教育は,最初から分野横断を目論むことができる.柱の構成要素には地理学と共通するものも多い.