主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2020/10/10 - 2020/11/22
夏季の日本における熱中症患者の数は増加傾向にあり、社会問題にまで発展している。この傾向は今後、都市のヒートアイランドや地球温暖化が進行することによる暑熱環境の悪化に伴い、さらなる増加が見込まれている。そのため、国内外で熱中症搬送者に関する定量的なリスク評価に関する研究が行われている(例えばCurriero, 2002 ; Fujibe et al., 2018)。また、近年では将来における熱中症搬送者数の予測もなされている(佐藤ほか 2019)。熱中症リスクに関する研究はリスクの高い気候帯や年齢、所得といった自然的・人的属性を把握する研究、または救急搬送者数そのものを予測する研究に分かれる。しかし、増加傾向にある熱中症患者が今後もスムーズに救急車で病院搬送され、治療を受けられるのか、といった善後策に関する研究はない。そこで本研究では将来における熱中症搬送者数予測データ及び、救急搬送に関わるデータ(救急車の台数・病床数)を用いて日本の各地域の救急医療体制への負荷を評価する。
本研究で使用した熱中症搬送者数予測データは佐藤ほか(2019)で開発された予測モデルを西森(2019)の将来気候データ(NARO2017-V2.7r)に適用させ、予測された各市区町村毎のデータセットを用いた。また、医療体制に関するデータについて、病床数は各都道府県が公表している第7次医療計画から、二次医療圏と呼ばれる地域単位ごとのデータを用いた。救急車台数は全国消防長会が公開している平成31年度消防現勢のデータを用いた。
救急車の稼働率は北海道や東北地方、首都圏、地方都市において100%を超えた。これは熱中症患者の搬送のみで二次医療圏内全ての救急車の出動が必要であることを示唆している。特に札幌市及びその周辺市町村を含む札幌医療圏は稼働率800%を超え、周辺の医療圏に属している消防署との連携が必要不可欠である。また、熱中症搬送者の空き病床占有率は高い地域で10%程度であった。
全国の各二次医療圏を対象に熱中症搬送者数予測データと救急医療体制データを用いて救急車稼働率や空き病床の占有率を求め、地域の医療体制への負荷を評価した。その結果、将来において特に熱中症搬送者が増加するとされている北海道において、救急車の台数が逼迫する可能性が高いことが分かった。また、病床数については逼迫する状態ではないが、将来の人口減少に伴い、病床数が減少すると病床が不足してしまう可能性がある。