日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S602
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発表要旨
世界地誌学習の可能性としての東南アジア・オセアニア
*菊地 俊夫
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抄録

何故、東南アジア・オセアニア地誌なのか 本報告の主要な目的は、東南アジアとオセアニアをまとめて、ひとつの地域として世界地誌を学ぶ可能性を検討することである。従来の世界地誌では、高等学校の地理の学習や大学の地誌学の講義において、あるいは観光のガイドブックでも、東南アジアとオセアニアはそれぞれ別個の地域として取り扱われている。しかも、多くの高等学校の地理の教科書では東南アジアは比較的最初に学び、オセアニアは最後に学ぶことになり、東南アジアとオセアニアは遠く離れた別個の地域のような印象を与えている。このような地誌の学びは世界を等質地域として区分して、具体的にはある属性(自然や社会・経済、あるいは歴史・文化)の等質性で区分された地域を静態地誌の方法で学ぶことを基本にしてきた。しかし、21世紀の世界は人・モノ・資本・情報がさまざまな境界を越えて即時的に流動する時代に直面しており、それらの流動は従来の地域区分の枠組みにとらわれることなく流動し、新たな地域の結びつきを生み出している。つまり、地域の結びつきに基づく機能地域としての地域区分も世界地誌を理解するために必要になっている。特に、東南アジアとオセアニア(オーストラリア)は人・モノ・資本・情報の交流が1990年代以降に急速に増加し、ひとまとまりの地域として扱うべき地域になっている。

東南アジアとオセアニアの比較地誌 世界地誌の理解に関連して、東南アジアとオセアニアをともに取り上げる試みは比較地誌でも行われた。例えば、菊地・小田(2014)では、自然環境、歴史・文化環境、社会環境、経済環境の項目に基づいて、東南アジアとオセアニアの特徴をまとめ比較し、項目別に類似性と対照性を明らかにした。例えば、歴史・文化環境に関する項目では、東南アジアとオセアニアには大きな違いがあるが、現在では多文化社会の形成という類似性もある。2つの地域の多文化社会はサラダボール型で特徴づけられ、多様な個々の文化が尊重されていることも類似している。このような比較地誌の試みの多くは、等質地域としてのそれぞれの地域の比較であり、ひとまとまりの機能地域としての議論は不足していた。

オーストラリアの動態地誌 オーストラリアの観光に焦点を当てた菊地(2009)によれば、オーストラリアのインバウンド観光では20世紀後半までイギリスやアメリカ合衆国、および日本からが中心としていたが、21世紀になると日本・中国・韓国とともに、マレーシア・シンガポール・インドネシア・タイの東南アジアからが中心となっている。観光を介した人の交流とともにモノや資本や情報の交流も東南アジアとオーストラリアで多くなり、機能地域としてひとまとまりの地域としてみなすことができる。このような機能地域で2つの地域を考えると、オーストラリアが「距離の暴虐」を克服するために北を向く姿や、サッカーのワールドカップの予選をアジアで戦う意味、あるいはAPECやTPPのつながりが理解できるようになる。

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