日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P158
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発表要旨
台湾系留学生の移動傾向と生活様式に関する考察
*李 政宏
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抄録

1.はじめに

江・山下(2005)によると、中国出身者は「集住→拡散→集住」という行動様式を呈している。また、林ら(2019)は日本語学習者の空間的状況の把握について、第二言語を学習する際、聴解、読解を通して学習するのが可能であると指摘した。留学生は来日前に日本語ならびに日本に関する学習歴を有することから、日本社会に対して一定の認識を持ち、空間認識もその基礎に基づき構築されていると考えられる。

近年来日した中国留学生に「集住→拡散→集住」との傾向がそれほど見られないのは、中国の大学での日本語学科の設立や日本語塾の増加によって日本語教育がある程度中国国内で浸透しているため、留学生は一定の生活知識を持って来日することから、同郷団体への依存程度が減少していると推測できる。

2020年3月公表された在留者数統計によると、日本における台湾出身者総数は6万人を越えている。1990年代に台湾出身者総数は4万人を越え、2015年までは5万人前後を維持してきた。しかし、2000年以降、毎年の新規の留学生数は約5000人前後で推移していたが、前述のとおり台湾出身者総数は5万人前後のままで顕著な増加は見られなかった。したがって、2015年までの台湾出身の留学生は卒業後、日本を離れる選択をした人が多かったと考えられる。

1980年代から台湾は高度経済発展期に入り、留学生に大量の就職の機会を提供してきた。2000年以降においても、経済が衰退局面に入ったとはいえ、台湾企業は日本企業と緊密な提携関係を保っており、日本語が話せる人材を必要としていたため、留学生の帰国を促してきた。

また、台湾における日本語教育の面においては、1970年代後半以降、各地の大学で日本語学科が設立され始め、そして1990年代後期に教育改革によって多数の大学が開校し、日本語学科も多く設立された。そのことにより、2010年までの20数年間、学位取得者にはさまざまな就職先が提供された。大学教員になれなくても、民間の日本語塾に就職した人も少なくない。

経済の発展にもたらされた金銭的な余裕や授業などを通じて日本への留学経験のある教員が伝授してきた知識などの要素によって、留学生にとって日本への留学の準備は出身地(台湾)で完遂することが可能になった結果、来日初期における同郷団体への「集住」などによる依存程度は逓減してきた。これらの点が、1980年代以降台湾出身者が来日後にホスト地域において集住傾向にない原因だと考えられる。

2.研究対象と研究方法

本研究では、日本への留学経験を有し、台湾の大学に就職した教員、計11人を研究対象にした。インタービューを通じて、留学動機や来日前の準備、留学当時の行動様式などを聞き取り、ライフヒストリーの構築を試みる。インフォーマントのライフヒストリーの構築や比較分析を通して彼らの生活、進学、帰国に至る移動傾向・選択を整理し、考察する。

3.考察

11名の留学経験者を来日時の年代によって、1980年代5人、1990年代2人、2000年以降4人の3グループに分けられる。3グループの共通点として、来日前後とも同郷団体に頼らない点や、集住しない点が挙げられる。また、結果的に11人全員が大学教員の職を得たが、個々の留学生が留学や滞在継続、帰国を選択する際の意思決定に影響を与えた社会・経済状況の要因は年代によって異なることが指摘できる。

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