主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2020/03/27 - 2020/03/29
Ⅰ 「新しいコミュニティ」の議論と地域運営組織
地域運営組織が総務省で議論されはじめたのは2013年ころからであるが,その前後から(昭和/平成)合併前の旧市町村や小学校区など,町内会や自治会など従来のコミュニティを超える範域を基盤とする広域的な地域マネジメントの枠組みを構築する取り組みが市町村行政により積極的に行われ,農山村再生のプラットフォームとして重要な機能を担う組織として期待されてきた。筆者はその動向に注目し,2012年に共同調査を実施しその状況を把握した(坂本・小林・筒井2013)。
しかし山浦(2017)も指摘する通り,地域運営組織の標準的な仕組みの採用,また行政による一般的な支援を受けたとしても,それだけで活発な取り組みが生まれるわけではない。重要なのは「新しいコミュニティ」の議論におけるその本質であろう。「新しいコミュニティ」の議論は,地域運営組織の名称が広まるその10年ほど前,2003年あたりからの議論がはじまっている。その背景は,平成の市町村合併に伴い行政主体が消滅する旧市町村への対応に加えて,いわゆる「限界集落」問題を突き付けられた農山村コミュニティの持続性への挑戦に関わる議論であった。
町内会や自治会など既存のコミュニティの特徴が「世帯を基本単位(=イエ連合)」と「一戸一票制=男性世帯主が一票を行使」という仕組みのもとで地域を維持する活動=「守りの自治」が中心であったのに対して,「新しいコミュニティ」の特徴として「活動内容の総合性」,「自治組織と経済組織の二面性」,「既存のコミュニティとの補完関係」,そして地域内の女性や若者の参加を促進する仕組み再編の「革新性」であり,既存のコミュニティとは異なる「攻めの自治」となる活動が中心であるとされる(小田切2009)。
本報告では「新しいコミュニティ」の特徴を念頭に置き,「攻めの自治」としての地域運営組織の可能性と,設立から10年以上を経過して生じてきた課題について,各地で展開される地域運営組織のトピックスから考えてみたい。
Ⅱ コミュニティが行うビジネスの可能性
「攻めの自治」の可能性の一つとして経済活動がある。買い物難民やGS難民といった言葉が生まれ,それに対応する生活インフラとしての経済活動(商店などの経営)が注目されてきたが,それ以外にも再生エネルギーへの取り組みや企業のCSV活動との連携など新しい取り組みが始まっている。
山形県鶴岡市三瀬(さんぜ)地区の三瀬自治会(自治会と名乗っているが鶴岡市内の他地域では自治振興会と称しているおおよそ小学校区単位の広域的なコミュニティ組織)と,2015年に住民有志が設立した木質バイオマス利用や地元産品による加工食品の製造販売などを行う(株)フォワードさんぜの連携の取り組み,及び山形県酒田市日向(にっこう)地区の日向コミュニティ振興会が大手企業のCSV活動と連携して2019年に開設した「日向里(にっこり)かふぇ」の取り組みから,コミュニティがビジネスにどうかかわるか,その可能性を考える。
Ⅲ コミュニティにおける「2025年問題」
団塊の世代の多くが75歳以上となる「2025年問題」が迫る中,農山村コミュニティの担い手不足に大きな懸念が生まれてきている。特に自治会などは範域が小さい上に居住者(定住人口)を主体に限定をした運営が基本であるため,自治会活動の担い手不足は深刻である。鳥取県日南町は2005年と2006年に昭和の市町村合併前の旧町村単位に7つのまちづくり協議会を設立し,公民館を廃止し地域振興センターとしてまちづくり協議会の活動拠点に位置づけた。このなかの一つ,阿毘縁(あびれ)むらづくり協議会は3つあった自治会を2014年に合併して一つの阿毘縁自治会として,実質的にむらづくり協議会と一体化した運営を始めている。一方,長野県飯山市などではコミュニティの単位で他出子など居住者以外の担い手(関係人口)を積極的に活用する例も生まれてきている(小林・筒井2018)。これらの事例を通して,今後のコミュニティの維持のあり方について検討をしてみたい。
【文献】
小田切徳美2009.『農山村再生—「限界集落」問題を超えて』岩波書店.
小林悠歩・筒井一伸2018.他出子との共同による農山村集落維持活動の実態—長野県飯山市西大滝区を事例として.農村計画学会誌37:320-327.
坂本誠・小林元・筒井一伸2013.全市区町村アンケートによる地域運営組織の設置・運営状況に関する全国的傾向の把握.JC総研レポート27:28-33.
山浦陽一2017.『地域運営組織の課題と模索』筑波書房.