日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S503
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発表要旨
頻発する大規模水・土砂害に挑む流域管理地形学
*須貝 俊彦
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抄録

1. 頻発する大規模水・土砂災害が突きつけた課題

2014年広島豪雨、2015年関東・東北豪雨、2017年九州北部豪雨、2018年西日本豪雨、2019年台風19号による被災地を院生と訪ねた。2014、17年は斜面崩壊と土石流、2015年は鬼怒川で破堤氾濫、2018、19年は広域で土石流と外水氾濫が発生した。いずれも記録的な大雨が誘因となって地形が激変し、多くの人命が失われた。

大規模水・土砂災害を効果的に軽減し、なおかつ、一人の犠牲も出さないためには、御し難い自然から目をそらすことなく、地形に従い、地形を活かした暮らしを是とする、新しい常識が必要である。

2.流域管理のために不可欠な地形学的視点

破堤氾濫や土石流は、河川流域のどこかで突発的に生じる地形現象である。流域全体を俯瞰し、豪雨などの外力の変化に対して、地形が鋭敏に応答する場所を予測することが、減災の鍵となる。具体的には、① 河川流域システムの見方に立った、マルチスケールでの地形変化現象の観察・記載 ② 地形発達史的な見方に立った、過去の地形変化の痕跡の発見・記載 ③ 記載データの流域間比較に基づく規則性の抽出が予測の出発点になる。④ 流路地形の形成に最も効果的な流量、斜面崩壊の免疫性などの、地形プロセス論的な見方も取り入れ、虫・鳥・魚の目で流域を観察し、水・土砂の動きを隈なく想定できるようになることが流域管理のための地形学の基本課題であろう。

地形分類図は、この課題に取り組む手段であり、課題達成度の指標でもある。地形分類図上で水・土砂の動きを考え、現場で地形を具に観察し、再び地形分類図上で考えを巡らせ、図を改良する。図を3次元化して様々な角度から、縮尺自在に鳥瞰できると良い。これを可能にするのは高精細4次元位置情報である。

3.流域管理のための地形学の問題点

2019年台風19号災害では、治水地形分類図が未整備の地域で、河川の破堤氾濫が多数発生した。流域全体の水・土砂の動きを俯瞰できる地形分類図を全国整備することが、喫緊の課題である。

突発的な地形変化を記載するための地形用語が貧弱である。UAVを用いた写真測量によって超高精細DSM/DEMを取得し、新たに観察可能となる極微小地形を類型化し、それらの集合体として、突発的にできた地形の広がり方や内部構造を記載すべきである。体系的な記載は、多数の地形変化事例に潜む規則性をあぶり出し、外力と地形プロセスの関係の解明や、過去の外力の復元に貢献する。例えば、中規模河床形態の出水前後の変化や、破堤地形を構成する微小地形の分布パターンを体系的に記載することを通じて、河道の性格、流量変化と破堤との関係、河道と氾濫原の相互作用などの理解が深まるだろう12)

4.災害サイクルの各段階における流域管理地形学の役割と課題

発災時の役割は、第一に被災者救助に役立つ浸水推定段彩図(国土地理院)や土石流埋積深分布図などの災害地図の迅速な作製と提供であろう。発災前の高精細地形情報、発災直後の地形や洪水位の測量、災害地図の提供・利用体制の整備などが課題となる。

復旧・復興時の役割は、継続的な地形モニタリングによる2次災害の予知・予防、効率的な地形修復計画への貢献などであろう。突発的に形成された地形と、その後の地形の人工改変過程を超高精細DEMによってアーカイブ化するための体制づくりが課題となる。

平時の役割は、流域地形を備に観察しつつ、地形分類図の完成度を高めること、地形分類図を拠り所に上流から下流へと水や土砂の動きがつながるハザードマップづくりに貢献することだろう。次の災害に備え、高精細4次元DEMと地形分類図の早急な全国整備が課題である。

5.おわりに—国土への目配りが災害軽減の鍵

頻発する大規模水・土砂害に備え、均衡のとれた国土の保全・管理を考える場としての地形分類図の整備と、それを担う地形学の貢献が求められている。流域を単位として、隈なく国土の水や土砂の動きに目配りし続けることが、全ての住民の安全、都市の防災力強化、自然資源の持続的活用に必要である。

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