日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P182
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発表要旨
鬼怒川低地帯南部で掘削された複数のボーリングコアに基づく堆積相解析と第四紀後期の古地理変遷
*宮本 樹須貝 俊彦木森 大我小松 哲也中西 利典
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抄録

関東平野は第四紀後期の地形発達研究が日本で最も進んでいる構造盆地の一つであるが,関東造盆地運動(貝塚1987)の沈降中心に近い鬼怒川低地帯南部(猿島台地〜宝木台地)は,最終間氷期以前の古地理の変遷については不明な点が多い.

本研究では,鬼怒川低地帯南部の宝木台地(宝木面)で掘削されたボーリングコアの堆積相解析に基づき,関東造盆地運動の沈降中心に近い場における中期更新世以降の古地理を明らかにする.

宝木面上で掘削された3本のオールコア(コア径は65mm):南から順にGC-NG-1(孔口標高20.57m;掘削深度74.60m),GC-OY-1(同29.45m;90.00m),GC-OY-2(同34.01m;86.00m)を対象に,観察・記載,レーザー回折式装置による粒度分析,WD-XRFによる元素分析,帯磁率測定,SEM-EDSを用いたテフラの火山ガラスの化学分析を行った.

 分析の結果,コアを深部に向かって以下の13 Unitに区分した.

Unit1:風成ローム層.すべてのコアからAg-KPが検出された.

Unit2:泥流堆積物.GC-OY-1のみに見られ,ローム質の粘土〜極細砂中に火山岩礫が点在する.

Unit3:扇状地礫層.最大径70mmの安山岩質礫主体の円〜亜円礫支持層.GC-OY-2,OY-1に見られる.

Unit4:氾濫原堆積物.砂-シルト互層.一部に細礫を挟在する.河川流路からの距離に応じて粒度が変化してきたと考えられる.

Unit5:貝殻片を含み,上方粗粒化するデルタフロント砂層.

Unit6:内湾泥層.GC-NG-1,OY-1,OY-2の順で北に向かって層厚が減少し,含砂率が増す.OY-2ではカキ礁が占めている.

Unit7:氾濫原堆積物.上方細粒化する砂-シルト互層.

Unit8:網状流路堆積物.最大径70mmの安山岩質主体の亜円〜円礫支持層.すべてのコアで見られる.

Unit9:貝殻片を含む海成層.GC-OY-2では細砂〜中砂で,NG-1ではシルト層が観察され,同時異相と考えられる.

Unit10:軽石を含む細砂〜中砂.

Unit11:貝殻片を含み,GC-OY-2,OY-1では砂層,NG-1では泥層からなる海成層.

Unit12:最大径40mmの砂礫層.GC-OY-2には見られない.

Unit13:半固結シルト層.GC-OY-2の基底付近でのみ見られる.

 Unit6~5はMIS 5eの海成層に対比される.GC-OY-2のUnit6は層厚4mで全てカキ礁によって構成され,その上限高度は+5mである.MIS 5eの最高海水準は+5m程度であったと考えられていることから,OY-2付近は,MIS 5eの海進域の北限で,過去12万年間の累積上下変動量はほぼゼロと推定される.Unit8は南へ急に下っており,MIS 6の低海水準期の礫層に対比される.Unit9,11の海成層はMIS 9,11に対比される可能性があり,その場合,当時の海域は,MIS 5eより広かったことが推定され,既存研究(松島ほか2009;須貝ほか2013;野口ほか2019)とも整合する.

謝辞:本報告には,経済産業省資源エネルギー庁委託業務「平成30年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」で実施された「隆起・沈降境界域における地殻変動評価技術の整備」に係る成果の一部を用いた.

参考文献:貝塚1987地学雑誌96, 51-68.;野口ほか2019第四紀学会要旨;松島ほか2009第四紀研究48, 59-74.;須貝ほか2013地学雑誌122,921-948

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