1. はじめに
上高地は水景観,山岳景観を誇る山岳景勝地である。大正池は景観美を誇る観光スポットとなっているが,1962年の焼岳の爆発以後,大正池に土砂の流入が増大したことにより池の面積が次第に縮小し,現在,土砂の浚渫が行われている。現在の大正池の景観は人為的に維持されており,この人為的に保持された大正池の景観が多くの観光客を魅了している。
土砂流出防止のための砂防工事も行われているが,人為的な工事により植生の破壊・河畔林の遷移などが起きているとの指摘がある(岩田・山本,2016,等)。自然景観を人工的に保持すべきか,自然にまかすべきかは,自然保護,防災,観光を含む広範な研究分野において検討すべき課題である。
発表者らは上高地を対象に観光客のニーズ(観光目的)と,自然環境保全に対する意識を分析し,自然環境を保持しつつ観光客に満足される観光地の在り方について検討する目的で,自然保護と観光に関してアンケート調査を実施し,観光客の意識動向を把握した。
回答者の10代20代比率が低いため,2019年9月に上高地で課外学習を実施した信州大学1年生(96人)を対象に同様のアンケートを実施し,大学生の回答傾向との比較も行った。
2.調査方法
2018年8月31日(以下では2018年)と2019年8月30日(以下では2019年)に上高地を実際に訪れた観光客,各日それぞれ150人を対象に意識調査(個別面接調査)を実施した。調査場所は上高地バスターミナル・インフォメーションセンター周辺,調査対象者はアンケート調査に承諾いただいた18歳以上の観光客である。アンケートは両日とも同じ設問(10問)で実施し,属性(5問,年代,性別等)も質問し,クロス集計により集計結果を分析した。
3. アンケート調査結果
観光客の属性には,調査日の天候の差異に起因すると考えられる違いがみられた。悪天候の2019年は,ツアー客の比率が2018年よりも有意に増加した。ツアー客は天候が悪くても上高地を訪れ,一方,悪天候のために旅行を取りやめた個人客・登山客がいた可能性が考えられる。ただし,調査対象者の年齢構成には,調査年による違いはみられなかった。2018年2019年調査の入域料に関する集計結果は以下の通りである。
上高地のオーバーユースに関する対策としての「入域料の徴収」の選択には3年齢階級別回答傾向に有意な差がみられた。選択率は60-70代が最も低く,40-50代が最も高かった(図1)。
上高地など自然地の利用料(入域料)について1回どの程度まで許容できるかに関しても,3年齢階級別回答傾向に有意差がみられた。60-70代は他の年代よりも「0円・200円」が多く,「1,000円程度」・「2,000円程度以上」が少ない。40-50代は他の年代よりも「2,000円程度以上」が多く,10-30代は「1,000円程度」が最も多い(図2)。
60代以上では入域料徴収対策が減少し,許容入域料の金額が低下傾向であるのに対し,40-50代は逆の傾向であることが確認された。
大学生の回答傾向については発表時に報告する。
上高地におけるアンケート調査は,信州大学経法学部の学生が,2018年度・2019年度の経済学演習Ⅱの一環として実施した。