主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2020/03/27 - 2020/03/29
Ⅰ はじめに
急激な都市化および人口増加が進むネパールの首都カトマンズでは、多くの社会・環境問題を抱えている。特に、上水道を中心とした水資源問題や不十分な排水処理による河川や地下水の汚染といった水環境問題については、早急に対応しなければならない課題として、国内外から注目されている(例えば、中村ほか,2014)。しかし、カトマンズ盆地における研究の多くは飲料水に直結する地下水に関するものが多く、河川に関する汚染問題については数少ない。この問題の解明を目指し、法政大学の水文地理学研究室ではネパールの水環境に関する総合的研究として、2020年から2025年にかけてカトマンズ盆地流域を中心とした水環境調査を実施する。そこで本研究では、2020年2月28日から31日かけて行ったにカトマンズ盆地流域での予察調査の結果を基に、カトマンズの都市域の水環境の現状について報告を行う。
Ⅱ 地域概要
カトマンズはネパールの中央部に位置する首都で、周辺が山で囲まれた盆地に位置する。周辺の山の平均標高は約2300mで、盆地底部の標高は約1300mである(中村ほか,2014)。盆地の面積は665km2で(Acers International, 2004)、カトマンズの都市域は盆地底部に位置し、その人口は2018年で133万人と見積もられている(UN DATA, 2018)。また、カトマンズの表層地質は更新世の河成・湖成堆積物に覆われており、浅層地下水は雨期の降雨が起源だと言われている(中村ほか,2014)。気候は大きく分けると、5月から9月までが雨季(モンスーン期)、10月から4月までが乾季となり、今回の調査は丁度乾季にあたる。地下水の汚染状況については、主に下水の混入により、硝酸イオンやアンモニアイオンが高濃度を示すことがわかっている(中村ほか,2014)。
Ⅲ 研究方法
2020年の2月28日〜31日かけて現地観測と試料採取をし、主要溶存化学成分の分析を行った。現地観測項目は、気温、水温、電気伝導度(Electrical conductivity: EC; HORIBA:LAQUA twinを使用), 水素イオン指数(pH・RpH)を測定した。現地調査時に採水した試料はその日のうちに簡易ろ過し(ADVANTEC製定性ろ紙、孔径5μmを使用)、帰国後にメンブランフィルターにて再度ろ過を行った(ADVANTEC製、孔径0。20μmを使用)。その後、主要化学成分(Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl−,HCO3-、SO42−、NO3−)と溶存有機炭素(Dissolved organic carbon: DOC)の測定を行った(島津:IC10ADVPおよび島津:TOC−VCSHを使用)。
Ⅳ おわりに
本研究プロジェクトは今年夏にも継続調査行う予定である。今後は、ネパールのトリブバン大学とも連携し、カトマンズ盆地流域の水質の1970年代からの長期変動についても考察を検討する。また、カトマンズ盆地全体の水環境を明らかにするには、河川のみならず、地下水の水質についても継続的な調査を行う必要がある。
参 考 文 献
中村高志, 西田継, 風間ふたば, 尾坂兼一, Saroj K. Chapagain(2014):ネパール・カトマンズ盆地における浅層地下水の窒素汚染. 日本水文科学会誌, 44(4), 197-206.
濱田浩美, 中村圭三, 駒井武, 大岡健三, 谷口智雅, 谷地隆, 松本太, 戸田真夏, 松尾宏(2013):ネパール・テライ低地における地下水ヒ素汚染〜乾季と雨季の水質変化〜, 2013年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集.