日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 206
会議情報

発表要旨
高知県沿岸部における津波防災対策にみる共助の特徴
*中村 努
著者情報
キーワード: 共助, 津波, 防災対策, 高知県
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

Ⅰ.はじめに

 筆者らはこれまで南海トラフ地震発生後の救援物資輸送の脆弱性について地理学の観点から検討してきた(荒木ほか,2017)。高知県においては,地震発生後の津波による甚大な被害が想定されることから,これまで高知県や各市町村による,公助の防災対策が施されてきた。しかし,公助のみでは広域にわたる救援活動を行うことはきわめて困難であることから,民間企業や組織の協力のもと,事前に物資配送体制の充実と強化を図るとともに,要支援者が避難するための個別計画の作成を推進している。特に,高知県沿岸部における今後の津波防災対策の課題として,①津波による浸水が想定される沿岸部の救援物資ルートをいかにして確保すればよいのか,②避難行動要支援者に対して,誰がどのようにして避難を支援すればよいのかの2点が指摘できる。そこで,本発表では,津波の長期浸水が想定される高知県沿岸自治体の共助に基づく地域防災の取組みに焦点を当てる。具体的には,災害発生直後の要支援者に対する救援物資配送計画および避難行動計画のそれぞれを検討し,共助の果たす役割と限界,今後の課題解決に向けたアプローチを提示する。

Ⅱ.救援物資配送計画

 高知市は2019年3月,国や県,他市町村,協定先,ボランティア,個人から送られる救援物資の受け入れと避難所への配送体制についての基本的な考え方を示した物資配送計画を策定した。おおむね100年〜150年周期で発生するマグニチュード8クラスの地震(L1)による津波によって,高知市内は市街地の多くが浸水する想定されている。これらの地域では,想定避難者数を0とし,浸水エリア外の避難所への避難者数を小学校区ごとに想定している。高知市内には物資拠点が2カ所設定され,おおよそ10km以内に,市内避難所160カ所の9割,全避難所は,25km圏内に立地している。配送車両が時速30kmで運行した場合,ある1台の配送車両が物資拠点から一つの配送先避難所までの到達時間は,長くても1時間以内に収まる。しかし,1,000人以上の大規模収容施設12カ所へは,前提としている4トントラックでは一度の配送が困難であり,2トントラックではトラックの台数が不足する。また,配送ルートを最短距離で算定すると,ラストマイルの狭い幅員の道路では,トラックの通行が困難なケースが予想されるため,委託先の運輸業者とラストマイルの通行の実現可能性を検討しているという。さらに,優先度の低い指定避難所以外の避難先への配送は想定されていない。配送人員や車両が不足する場合,赤帽や郵便局を活用した中間物資拠点を設置するとしているものの,協力体制については今後の検討課題である。ただし,このような配送計画が実際に策定されているのは,高知県内で高知市のみである。他の小規模自治体では,人員や配送車両が容易に調達しにくいことから,マニュアル化が困難であると考えられる。

Ⅲ.避難行動要支援者対策

 東日本大震災の教訓を生かして,2014年4月に避難行動要支援者名簿の作成が義務化された。情報提供の同意を得た要支援者の名簿は,避難支援組織に提供され,個別計画の策定に生かされる。しかし2019年3月現在,市町村別の避難行動要支援者数に対する提供率は平均59.3%,避難支援等関係者に対する作成率は11.9%と低調である。四万十市や三原村ではいずれも100%を示す一方,東洋町や奈半利町,北川村ではいずれも0%と地域差も大きい。高知市では名簿作成が完了したものの,個別計画の策定は一部にとどまる。自主防災組織などの支援関係組織にとって,名簿の受け取りは病気の有無や病態を含めた支援内容の情報管理の責任を負うことを意味する。これらの責任を回避しようとする支援関係組織の行動が,名簿の受け取り拒否につながっているものと推測される。他方,34.4mの最大津波高の想定が公表された黒潮町では,提供率86.0%,作成率47.9%と相対的に高い値を示す。全職員が消防団の分団をそれぞれ担当し,防災隣組を決めるとともに,避難訓練で小中学生が要支援者に避難を呼びかける活動を行っている。従来,黒潮町では男性が出漁で長期不在となる家庭が多く,女性が自主防災の主体的役割を担っている。

文献

荒木一視・岩間信之・楮原京子・熊谷美香・田中耕市・中村 努・松多信尚 2017. 『救援物資輸送の地理学—被災地へのルートを確保せよ』ナカニシヤ出版.

著者関連情報
© 2020 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top