日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P107
会議情報

発表要旨
首都圏郊外における駅前景観の類型と地域差
―画像上でのピクセル数を単位とした広告割合に着目してー
*宇井 直将
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

古くから鉄道が発達し駅を中心に市街地が形成されてきた首都圏において,駅前景観というのは特徴的で非常に重要な景観と言える。都市工学の既往研究では,駅前に存在する「建物の視覚的な違い」が駅前の印象を決めるのに重要な要素の一つだと明らかにされているものの,建物のデザイン的側面が必ずしも地理的な要素と関係があるとは言えない。そこで本研究では,建物の一部であり,かつ地理的指標とも関係が考えられる要素として「広告・看板類」に着目した。

景観研究は,地理学よりも都市工学で盛んであるものの,両者には景観の捉え方に明確な違いがあり,駅前景観にどのような地理的要素が関係しているか,またそれにはどのような地理的差異が生じているか明らかにした例は少ない。   

以上を踏まえ,首都圏郊外の駅前を対象に,景観中の広告割合に着目し,「駅舎及び付帯する建物から出た地点」から見える景観を「駅前景観」と定め,視覚的要素の背後にどんな地理的要素が関係しているか明らかにすると共に,類型化を行い,首都圏郊外における駅前景観の地理的な差異についても考察する事を目的とした。

 都心から10〜50㎞圏内におけるJR5路線20駅計40駅前を対象に駅前景観の写真を撮影し,その画像内における面積比をピクセル数を単位に算出,各駅前の「広告割合」とした。次に,乗降客数や土地利用割合など,計14の地理的要素を算出し,両者の関係を計量的な手法で分析した。その結果、以下の事実が判明した。

 (1)重回帰分析の結果,「広告割合」には,地理的要素を因子分析する事によって抽出された因子の一つである,「駅前の商業中心性を表す因子」と正の相関が,「郊外性を表す因子」と負の相関が認められた。特に小売業事業所割合と最も強い正の相関が認められた

 (2)類型化の結果,同一駅でも中心市街地側の駅前の方が広告割合(全体)・商業中心性ともに高い傾向が見られた。この理由として,固定資産税路線価最高額が中心市街地側の駅前で高いことが考えられる。

 (3)広告割合と商業中心性はおおむね正の相関が認められるものの,駅前の再開発等による整備状況の違いによって広告割合は左右されることが判明した。

 (4)都心から離れるほど各駅前の広告割合のばらつきは収束し,商業中心性の値は逓減していく傾向にある。

 (5)首都圏全体での傾向を大まかに見ると,広告割合・商業中心性共にその値が西高東低となる傾向がある。

以上のことから、広告割合に見る駅前景観は、商業的側面と深く関係しているものの、駅前の整備状況にも左右される。これらの要素が関係しつつ、都心から郊外に向かうにつれて各方面ともに同質的になる傾向があるものの、首都圏全体で見ると西高東低の関係にあるといえる。

著者関連情報
© 2020 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top