日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P158
会議情報

発表要旨
ミズナラ二次林の20年間の林分構造の変化
*吉田 圭一郎濱 侃木澤 遼武富 元希宮﨑 泰成大澤 むつき宋 丹馬橋 雄大
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

I はじめに

八ヶ岳南東麓にはミズナラ林が広く分布する.この森林は,薪炭林として繰り返し伐採され利用されてきたものが,その後放置されて成立した落葉広葉二次林である.

これまでの遷移や更新動態についての研究では,発達度合いの異なる別々の林分を,時系列上に並べることで復元されてきた.しかし,森林の成立過程は,地形や土壌などの立地条件により差異が生じる可能性が指摘されている.そのため,森林の成立機構を検討するためには,大面積の永久調査区などを用いた,同一の場所での長期的な森林変化の実証的な調査が必要である.

そこで本研究では,八ヶ岳南東麓のミズナラ二次林について,1999年に実施された植生調査(持田ほか 2000)の再調査を2019年に実施し,過去20年間におよぶ落葉広葉二次林の変化を実証的に明らかにし,この森林の遷移過程を考察することを目的とした.

II 調査地と方法

調査地は,山梨県北杜市高根町清里の横浜国立大学教育学部附属野外実習施設敷地内にみられるミズナラ二次林である.この森林は,1940年代半ばまでは薪炭林として利用されていたが,その後現在まで放置されてきた.

1999年に設置された調査区と同じ位置に,20×140mの調査区を設置し,出現する胸高直径5cm以上の個体を対象として,毎木調査を行なった.タグと立木位置から個体識別を行い,主要な構成樹種の相対生長量を算出した.

III 結果と考察

過去20年間で,ミズナラ二次林の種組成には大きな変化はみられず,ミズナラやヤエガワカンバなどの落葉広葉樹が林冠層を構成していた.一方で,林分構造は変化しており,樹木の個体数は73%に減少し,胸高断面積合計(BA)は7.65㎡から8.46㎡へと増加していた(Table 1).

林冠構成種では,ミズナラ以外の樹種の個体数がほぼ半減し,BAもミズナラとカラマツ以外の樹種は減少していた.林分全体でのBAの増加は主としてミズナラによるものであり,ミズナラの相対優占度は1999年の23.0%から2019年には35.3%へと大きくなった.過去20年間のミズナラの相対生長量は,アカマツやミヤマザクラなどに比べて有意に大きく,胸高直径5cm以上の新規加入個体のほとんどはミズナラであった.

これらのことは,伐採直後には多くの樹種が混在した森林が成立したものの(佐野ほか 2016),二次遷移の進行とともに,アカマツやミヤマザクラなどの遷移初期種が,耐陰性が高い遷移後期種のミズナラと競合し,淘汰されてきたことを示している.また,ミズナラ以外の林冠構成種の更新は進んでおらず,種組成や林分構造が単純化しつつあることが示唆された.ただし,二次遷移の過程では,林冠ギャップの形成などをきっかけに複雑化する可能性もあることから,今後も調査を継続することで,二次遷移におけるミズナラ二次林の構造変化やそのプロセスを明らかにしていく必要がある.

著者関連情報
© 2020 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top