近年、観光やまちづくり、文化芸術振興、オリンピックなどのメガイベントの文脈で地域伝統芸能の活用があらためて脚光を浴びている。にぎわい、すなわち祝祭的時空間を創出することで、認知の向上や経済効果が期待できるからである。だが、それは芸能に関わる人々や地域社会の活力の増進につながっているのだろうか。それとも、文化の消費的な傾向を助長し、活力を抑圧する制度の肥大化を促しているのだろうか。こうした問題意識をふまえ、本報告は越中民謡おわらに対する組織的取り組みに注目し、八尾町(富山市)の民謡行事おわら風の盆にどのような変化をもたらしたのかを考察する。一部の取り組みは「民謡おわらの街」という一種のブランドイメージを立ち上げ記号消費への回路を作ったが、民謡の“保存”を超えた、多岐にわたるおわらの組織的プロデュースは、それまでとは異なる祝祭的時空間を構築するようになったと考えられる。