主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2020/03/27 - 2020/03/29
2000年代以降のインドネシア経済は,ジャワの工業発展が鈍化する中で,外島(スマトラやカリマンタンなど)の農園業や鉱業にも経済成長のエンジンが分散している.外島経済が自然資源開発に特化するかたちで展開する中で,近年とりわけ注目を集めているのが,世界的な油脂需要の増加によるパーム油産業の興隆である.本報告では,スマトラ中部のリアウ州を事例とした拙稿(小泉 2019)をもとに,パーム油産業の原動力となりつつある個人農園アブラヤシ栽培が,農村社会にいかなる構造変化をもたらしているのかを論じる.その上で,インドネシア外島における資源と社会の関係について,新たな視点から捉える枠組みを試論的に検討した.
インドネシア外島の特徴は,(1)土地を含めた未利用の資源が豊富で,(2)こうした資源を求める人口移動が頻繁に生じ,(3)さらに移住者によって新たに形成されたフロンティア社会では,労働者から地主への上昇といった社会的流動性が非常に高い,という3点にまとめられる.外島経済が資源産業に特化するかたちで展開する中で,少なくとも中期的には,フロンティア社会が各地で創出され,そこでの人口が飽和状態に達すると,また別の地域で新たなフロンティア社会が創出されるといったパターンが繰り返されるであろう.
一方,資源ブームが過ぎ去れば,それまで構築された社会が崩壊してしまう危険性を有する.従来の研究では,こうした原料輸出に依存した体質を常に危険視してきた.これに対し,政府による近年の新たな動きとして,原料輸出からの脱却と加工部門の強化を推進している.インドネシア外島の資源産業における今後の展開を適切に捉えるためには,フロンティア社会における個人農園経営者が,加工部門といかなる関係を構築するのか,あるいは農園労働者が加工部門の労働力として吸収されるのか,といった問いに答えていく必要があるだろう.