主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2020/03/27 - 2020/03/29
はじめに,晴天静穏時の気温日変化は太陽南中後3時間で日最高気温を迎えると考えられる.しかし,実際には総監場や局地循環などの様々な現象に伴う移流が影響し,時として影響地域の気温日変化を変化させる.例えば渡来ほか(2009)によると,2007年8月16日の最高気温が埼玉県熊谷市で40.9℃を観測した時刻は日本標準時間で14時42分だった.一方,熊谷市の北西に約40km離れている群馬県前橋市では最高気温38.1℃を観測した時刻は日本標準時間で13時21分であり,前橋は熊谷と比較して日最高気温の出現時刻が81分早かった.また,この日の太陽南中時刻は群馬県前橋市で11時48分,埼玉県熊谷市で11時45分頃だった.この要因として,フェーンに伴うギャップ流の影響が指摘されている.他にも,太平洋の沿岸部では海風の影響によって日最高気温出現時刻が前橋・熊谷より早い地点も見られた.しかし,これは2007年8月15日〜8月16日の事例であり,日々の大気の状態や地域性により,各地の気温日変化が変調しているものと考えられる.このような晴天日の気温日変化について,日最高気温出現時刻に着目してその気候学的特徴を調査した研究は多くない.今回の目的は,関東地方平野部における晴天日の日最高気温出現時刻の特徴について調査したので,その結果を報告する.
解析対象期間は,11年間(2009年1月1日〜2018年12月31日)とし,気象庁の気象官署,特別地域気象観測所およびAMeDAS観測所データを使用する.使用したデータは,日別値の日最高気温出現時刻・日照時間の2つと時別値の風向・風速である.解析対象地域は,関東地方82地点と風上側の信越地方の新潟県・長野県の54地点(関東と信越地方共に島嶼部は除く)とする.解析方法は,晴天日は日別値の日照時間を用い,11月〜1月は7時間以上,5月〜7月は10時間以上,それ以外は8.5時間以上と定義した.晴天日であり移流等の影響がなければ,太陽南中時刻の3時間後頃(日本標準時間:15時)が日最高気温となり,日出頃に日最低気温となるような気温日変化の指標として,季節毎の晴天日特徴や地上風向・風速による特徴の違いなどを調査する.関東地方・信越地方の地上風時別値を元に,日中の平均風速や卓越風向を元に調査を行う予定である.
今回は,関東地方82地点中14地点(北茨城・水戸・つくば(館野)・宇都宮・佐野・前橋・熊谷・さいたま・銚子・千葉・館山・東京・横浜・小田原)に関して晴天日における日最高気温出現時刻の特徴に示す.その結果,全3652事例中447事例が14地点全てにおいて晴天日を観測した.季節毎では春季が159事例,夏季が41事例,秋季が73事例,冬季が174事例となった.また,14地点における日最高気温の平均出現時刻についても調査を行った.その結果,関東内陸部では,平均で13時50分〜14時30分,関東沿岸部では平均で13時〜14時に日最高気温が出現していた.また,14地点中日最高気温出現時刻が最も早い地点は北茨城で,最も遅い地点はさいたまとなった.次に,上記の14地点のうち特徴的な7地点(熊谷・前橋・北茨城・佐野・さいたま・銚子・東京)について,晴天日の日最高気温出現時刻の頻度分布を示した.その結果,北茨城・銚子の関東沿岸部では約12時〜14時半,関東内陸部の前橋や熊谷などは約13時半〜15時半と内陸部の方が幾分日最高気温出現時刻が遅かった.今回得られた結果は,14地点で最も日最高気温が遅かった地点はさいたまであり,全体的に関東沿岸部より内陸部の方が日最高気温出現時刻が遅い特徴が見られた.
今回の結果において得られたことは,目的で晴天静穏日の気温日変化は南中後3時間(日本標準時間:15時)で日最高気温が迎えると考えていたが,関東地方14地点の結果を見ても,関東内陸部の一部の地点しかピークに達していないことが考えられる.また,関東沿岸部では海風侵入による寒気移流が吹走し,日最高気温出現時間が早傾向になったことが考えられる.一方,関東内陸部の前橋,熊谷の地点では山風侵入による移流が吹走し,日最高気温出現時刻が早傾向になることが考えるが,佐野・さいたまでは移流の影響があまり見受けられず,静穏日の日数が比較的多かったことが考えられる.
今後は,関東地方全地点における気象庁の地上観測データを用いて,同様に晴天日を観測した日数について調査する.そして,晴天日が観測された日数に基づいて,地上風系を使用して移流が吹走しているか調査も行う.