日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 635
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発表要旨
岩塊斜面の局地的永久凍土を対象とした2cm間隔のセンサーを用いた地温測定
*澤田 結基曽根 敏雄森 章一
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抄録

1.はじめに

 山岳永久凍土の下限付近では,岩塊斜面など空隙に富む堆積物からなる地形に永久凍土が分布する傾向にある.こうした永久凍土の成因として,礫層の空隙で生じる空気対流と地下氷の発達が重要であることが指摘されている。この空気対流は風穴の成因にもなり数多く研究されているが,地下氷に関する研究は極めて少ない.本研究では,地下氷の成長と融解を温度変化から検出することを目的として,温度センサーICを高密度(2cm間隔)に実装した温度センサーを用いた地温観測を行った。

2.調査方法

 温度測定には,温度センサーICのDS18B20を用いた。ICにはユニークなIDが割り振られており,個別のICの値を区別することができる。このICを,幅約1.5cmの細長いプリント基板に2cm間隔で配置し,基盤同士を縦方向に接続した。センサー基板の長さは1.5m,実装したセンサーの個数は76個である。

 観測地は東大雪山域の西ヌプカウシヌプリ(1254m)山頂付近にある岩塊斜面の末端部である。塩ビ管でつくられた地下氷の観測井(澤田・石川,2003)に,センサー基板を密閉したテフロンチューブを挿入し,固定した。埋設では,観測井の内部に形成されている地下氷をボーリングによって除去し,永久凍土の状態にある深度(-2.1m)までチューブを挿入した。センサーは小型コンピューターに接続し,1時間おきに測定を行った。2018年10月30日に測定を開始し,2019年9月に回収を行った。また,2019年5月から月1回,地下氷の深さをプローブで測定した。

3.調査結果と若干の考察

 同じ観測井を用いて岩塊斜面の空隙に形成される地下氷の深さを観測した澤田・石川(2003)によると,地下氷は気温が氷点下に留まる冬季にはまったく変動せず,気温が上昇して融雪が始まる春季に急成長し,その後夏季まで緩やかに成長,秋季に融解する。地温観測の結果,2019年4月16日までは測定した全層が氷点下(約−4〜−3℃)であったが,4月17日に深さ1.84mまでの地温が−0.5℃〜0.0℃まで急上昇するイベントが観測された(図1)。このイベントの最高温度である0.0℃は深さ1.84〜1.80mに出現した。この急上昇は,地下氷の成長に伴う潜熱放出の影響である可能性が高いと考えられる。すなわち,氷点下の温度状態にある岩塊層空隙に融雪水が流入して地温上昇が生じ,氷が成長した深さで最も大きく昇温したのであろう。4月17日以降,こうした全層にわたる地温上昇は複数回発生し,いずれもその下部に最高温度(0℃)の温度領域が現れる。また,0℃の温度領域の下限深度は,時間の経過とともに浅くなる傾向を示す。この傾向は,水の凍結潜熱が発生する深さが上方へ移動する,すなわち地下氷の成長を示すと考えられる。

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