主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2020/03/27 - 2020/03/29
1.はじめに
2019年7月に開催された第29回国際地図学会議(ICC2019)東京大会では,キーノートセッション(https://www.icc2019.org/keynote_presentations.html)において,4名の講演者が登壇した.講演者の顔ぶれは,大阪市立大学教授のVenkatesh Raghavan,ヨーロッパで主にカーナビ開発を行う企業TomTomの地図部門副社長であるSteve Coast,国連の地理情報担当官の加川文子,ウェブ地図サービスを提供する企業であるMapboxのCEOであるEric Gundersenであり,1日1名ずつが講演を行った.
本発表では,これらのキーノートセッションでの共通項であるクラウドソース型ウェブ地図について取り上げ,ICC2019で行われた関連の研究発表もあわせて,地理・地図学分野で浸透しつつあるクラウドソース型ウェブ地図の意義について考察したい.
2.クラウドソース型ウェブ地図とは
クラウドソース型ウェブ地図とは,近年さまざまな分野でその利用が活発化しているクラウドソーシング(crowdsourcing)と呼ばれる一般市民からの情報によって,インターネット上の地図を編集するプロジェクトによって作成されたインターネット上のデジタル地図のことを指す.クラウドソーシングとは,一般的には,インターネットなどの通信技術を用いて,業務の公募や受発注を不特定多数の者の間で行うなどの新たな労働形態のことを指すが,広義には必ずしもそのような雇用関係を前提とせず,不特定多数の者の間で行われる,主にインターネット上で進められるプロジェクトを意味する.そのようなプロジェクトのひとつの分野としてクラウドソース型ウェブ地図が,近年その勢力を拡大してきた(瀬戸, 2017).
3.キーノートにおけるクラウドソース型ウェブ地図
キーノートでは,Steve CoastとEric Gundersenが,クラウドソース型ウェブ地図の中核的なプロジェクトのひとつであるOpenStreetMap(OSM)に深く関わる内容の講演を行った.Steve Coastは2004年8月に始まった同プロジェクトの創始者であることから,これまでのOSMに関する歴史的経緯と功績について振り返り,オープンな地図の重要性やプロジェクトにおけるマッピング・コミュニティの形成,さらにそのベースにあるマッピングの楽しさが現在のOSMでも重要であることを示した.また,Eric Gundersenは民間企業の立場から、自社で開発したOSMデータをベースとしたウェブ地図の営利・非営利それぞれのセクターへの提供や高度にカスタマイズ可能なウェブ地図について,今後の展望として、特に日本における事業展開や日本のマッピング・コミュニティとの連携について述べた.
また,加川文子は,グローバルなウェブ地図プラットホームとしてのOSMの可能性,とりわけ災害や疾病などに関する国際援助に関わる地図としての重要性を改めて示した.一方で,Venkatesh Raghavanは,オープンな地理情報システムに関わる国際的なプロジェクトとして,OSGeo財団の活動,特に世界中のだれもが,自由に地理情報を取り扱うことのできる世界を目指した活動である「Geo for All」を取り上げ,オープンな地理情報ソフトウェアであるFOSS4G,ならびにオープンな地理情報(データ)の代表としてOSMという,ソフトウェアとデータの両輪が基盤となることを示した.
4.おわりに
以上のキーノートセッションから示されるクラウドソース型ウェブ地図の意義として,以下の点が挙げられる.
唯一のグローバルなクラウドソース型ウェブ地図プラットホーム商用含め,だれもが自由に利用可能なライセンス形態ウェブ地図のない地域でのマッピング・コミュニティによる地図作成の可能性・国際援助における重要性世界中のだれもが自由に地理情報を取り扱うことのできる世界に向けた,オープンな地理情報システムとオープンな地理情報データベースの重要性「楽しさ」をモチベーションとしたマッピング・コミュニティのグローバルな拡大
ICC2019で行われたクラウドソース型ウェブ地図に関する研究発表もあわせて,地理学・地図学に与えているインパクトや意義について,当日報告を行う.
文献
瀬戸寿一 2017.地理空間情報のクラウドソーシング化.若林芳樹・今井修・瀬戸寿一・西村雄一郎編『参加型GISの理論と応用』34-37,古今書院.