日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P178
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発表要旨
インド亜大陸東北部における大気鉛直構造の季節変化
*木口 雅司江口 菜穂村田 文絵林 泰一
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抄録

アジアモンスーン域の一角であるインド亜大陸東北部は、世界最多降水量の記録を持つインド・メガラヤ州チェラプンジがあるシロン高地や、そのシロン高地からの雨が一気に流下するメグナ川流域、チベット高原から下るガンジス川、ブラマプトラ川という巨大河川の河口域に当たるバングラデシュ、そしてチベット高原から流下するブラマプトラ川の中流域にあたりアジアモンスーン域で最も早くから降水現象のあるインド・アッサム州を含み、多量の降水、世界的大河川の集まる、地球水循環をにおいて重要な地域である。また、対流活動が活発であり、竜巻を引き起こす小規模な積雲対流活動などの擾乱が成層圏に流入する水蒸気量に影響を与えている。本研究では、高層ゾンデ観測や高高度の水蒸気測定が精度よく観測できるSnow White、全球雷データなどの観測データと総観気象場とを組み合わせたマルチスケール解析を実施し、大気鉛直構造の解明を目指す。

官署の雨量観測データ、レーダ観測データなど地上観測データを用いて擾乱現象を捉え、積乱雲の存在の有無が分かる全球雷データ(WWLL、http://webflash.ess.washington.edu/)を用いて、その要因を検討する。集中高層気象観測による6時間データや上層の湿度測定が可能であるSnow Whiteを用いて取得された水蒸気データ、衛星データ(EOS MLS, AIRS等)を用いて、擾乱現象の有無による大気鉛直構造の差を調べる。さらにNCEP/NCARやERA40、JRA55を用いて総観気象場における擾乱現象の有無の差を示し、大気鉛直構造がどのように形成されるのかを解明する。

2005〜2013年の全球雷データ、降水強度、対流不安定を用いて、本研究対象領域を中心に解析した。降水強度の指標としてTRMM 3B42を、対流不安定の指標としてERA Interimの500hPa面の飽和相当温位と925hPa面の相当温位の差を用いた。5月初旬までは大気が不安定になると降水が見られ、雷も発生しているが、モンスーン期になるとそのような関係がまったく見られなくなる。このことは擾乱の特性の違いが関係していると考えられる。

雷発生数、降水活動、大気の安定度の関係(図)からは、大気が不安定のときに事例は多いが、降水強度との関係は明瞭でない。このことからモンスーン期の不安定度が小さいときの擾乱による降水強度との関係が不明瞭であることが推察される。

複数年における対流不安定性と物質輸送の観点に基づく解析を実施した。プレモンスーン期の大気が不安定な時期に間欠的に雷回数が増加し、その結果、降水強度も増加している関係が明瞭に見られた一方、モンスーン期がプレモンスーン期に比べて大気が安定しているにもかかわらず雷の回数が多かった。日周期の解析結果からは、年を通じて同じ高さの大気の状態の差を対流不安定の指標としていることが、明瞭な関係を示すことを妨げていることが考えられ、実際の鉛直構造をより詳細に解析する必要があることが分かった。

今後は、これらの季節内変動や経年変動を、ERA-interim、JRA55といった再解析データによる環境場や地上気象観測データやレーダデータによる発生機構を明らかにし、その積雲対流の発生する場の鉛直構造を総合的に解析する。

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