日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 111
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発表要旨
東京都区部西部における接地逆転層上端の気温変動と地上風系との関係
*高橋 日出男瀬戸 芳一菅原 広史常松 展充中島 虹
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抄録

◆はじめに

 東京都区部西部(杉並)に設置した温度プロファイラ(Attex社製MTP-5H)の鉛直気温観測結果により,前回の報告(要旨集98: 21)では以下のことが指摘された。晴天弱風の冬季夜間には,高度300mほどを上端とする気温逆転層がしばしば形成される。最下層の逆転強度は3℃/100mを超えることも少なくなく,逆転が強いと都区部西部における水平気温傾度(気温急変域)も顕著となる。逆転層上端の気温は1℃程度の昇降を繰り返し,気温が上昇した場合に逆転強度が大きくなる。温位(乾燥断熱減率で平均海面高度まで気塊を下降させた場合の温度)の高度時間断面を求めると,この気温上昇は上空の高温位空気の高度低下に対応しており,逆転強度などの変化に局地循環(の下降流)が関与している可能性がある。本報告では下降流の存在を間接的に確認することを目的とし,合わせて下降流が現れる空間的な広がりの見当を付けるために,上空の気温と地上風系場の時間変動における関係性を解析した。

◆解析事例と資料

 本解析では,上記の特徴が現れた2019年11月15-〜16日の事例をまず対象とした。用いた地上観測資料は,東京都大気汚染常時監視測定局(常監局)一般局と都内に設置した明星電気POTEKAによる風向風速で,風速の東西成分と南北成分とに分けて扱い,いずれも毎正10分の値として前後5分を含めた11個の1分値の平均を求めた。上空の気温については,地上約270m(海抜約315m)における前10分との気温差の時系列(図1)を用い,概ねこの高度が逆転層上端となっていた16日0:00から6:30までを対象期間とした。

◆解析結果と考察

 常監局とPOTEKAの風(東西成分,南北成分)について,タイムラグ(1時間前から30分後)を考慮して地上約270mの前10分気温差との相関係数を求めたところ,同時相関の場合に1%〜10%水準で有意となる地点がまとまって認められた(図2)。これによると,都区部西部の温度プロファイラ設置点(Ps)付近において,北側では風の南北成分が正相関(上空の気温上昇時に南風成分が強くなる/北風成分が弱くなる)で,南側ではその逆(負相関)となっている。すなわち,上空の気温上昇時には地上風の発散をもたらす下降流の存在が想定される。また,このような発散域は30分後においても不明瞭ながら都区部北西部に認められた。これらの地域は都区部西部の水平気温傾度が大きい気温急変域のすぐ郊外側に位置している。今回の解析では収束域(上昇流域)の検出はできなかったが,下降流が局地循環の一部であるならば,かなり局所的で間欠的な循環と考えられる。今後,多数事例で解析を行い現象の一般性を確認するとともに,陸風吹走や東京のヒートアイランド循環との関連性を検討したい。

 本研究の実施にあたり,科学研究費補助金基盤研究A(研究代表者:高橋日出男,課題番号:17H00838)を使用した。

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