主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2021年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2021/09/18 - 2021/09/20
報告者はこれまで、「再び流れ出す予感に満ちた人々」について考えてきた。久島(2019a)では,福島県の農山村に移住したシングル女性(=「織姫」)にみられる「いずれ村から離れる時が来るかもしれない」という緊張感に満ちた土地への感覚を,「刹那的な場所感覚」という言葉で表現した。そして,まさにこうした刹那的な存在を重要な媒体としながら,土地の文化が継承されていることを指摘した。また久島(2019b)では,織姫に見られる刹那性にさらに着目し,彼女たちを繋ぎとめる存在として「からむし」という植物に着目した。「時間についての物語」(岸2018:134)とされる生活史(およびライフストーリー)だが,そこにはある種の空間性,すなわち個人と人間ならざるものも含んだ他者との関係性も内在する。織姫に特徴的な生とは,身体を媒介とするそうした関係性のなかで「非」主体的に,「更新」的に達成されるものであることを示した。
織姫が示す場所感覚も,自然との関係の中で構成されるその生も,いずれも近代的で標準的な地図では描写が困難な,それゆえ地理学の対象としてとらえ難い性質をもっている。どちらにおいても,明確な境界線を見出せないからだ。主体同士を隔てる境界線も,移動を定義する際にしばしば前提となる境界付けられた「二つの地域」も,そこには見いだせない。本研究は,しかしこれらのとらえどころのない感覚,生のあり方から,場所をとらえ直してみたい。では「離脱の営みが居住場所に関わらず継続中」(冨山2013:79)であるような生はどのように構築され,いかに場所の構成に関わるのか。本研究では,フェミニスト身体理論,障害研究,環境人文学,科学研究らにおける議論から,「固体と液体の途上にあるもの」をとらえようとする,流体fluidsや粘性viscosityの概念を手掛かりとし,この問いに取り組む。