日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S403
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発表要旨
地理教育への期待
*橋本 幸三
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抄録

1 はじめに

地理の科目が必修ないし必履修となるのは,実に40年以上前のことであろう。学校教育における地理の学習は,日本史や世界史同様に,暗記科目のイメージが強い。しかし,数年前に高等学校地理歴史科地理Bの参考書を見る機会があり,地理の幅広さ,面白さに初めて気付いた。また,地理は考える学びであるという印象を感じた。本報告では,必履修科目となる地理総合の設置を踏まえて,教育長,中央教育審議会委員の経験等からこれからの地理教育への期待について述べることとする。

2 地理を学ぶ意義と地理総合の評価

現代の社会や世界の状況を幅広く視野に入れ,社会や世界に向き合い関わり合うため,また,グローバルなものの見方を養うために地理の学習は不可欠である。中教審答申では,SDGsなどを踏まえ,「自然環境や資源の有効性,貧困など地域や地球規模の諸課題について,子ども一人一人が自らの課題として考え,持続可能な社会づくりにつなげていく力を育むことが求められ・・・」と指摘されている。また,新学習指導要領前文には,「様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。」とある。高等学校の普通科改革に関しても,新しい学科の例として,SDGsの実現やSociety5.0の到来に伴う諸課題に対応するため,学際的・複合的な学問分野や新たな学問領域に即した最先端の知見を活かし,魅力ある学びに重点的に取り組む学科が示されている。SDGsなど現代的な諸課題を踏まえた持続可能な社会づくりにつなげる力の育成が重視されており,地理は一層重要になると考えられる。

3 ICT活用能力の育成と地理教育

様々な資料やデータから情報を適切に読み取ることや,コンピュータの情報活用能力の育成が期待される中で,地図やGISを活用する地理学習は,きわめて重要である。中教審答申は,言語能力に関し,教科書を含む多様なテキスト及びグラフや図表等の各種資料を適切に読み取る力の育成や,コンピュータ等を用いて必要な情報を得たり,得られた情報を整理・比較してわかりやすく発信・伝達できる力の育成が重要とされている。とくに,GISは,これまでの紙ベースの地図よりデータの活用や分析,考察,表現に大きな成果を期待できる。

4 「社会に開かれた教育課程」と地理教育

新学習指導要領では,「社会に開かれた教育課程」の実現を目指している。社会や世界の状況を幅広く視野に入れ,学校教育を通じてよりよい社会を創るという観点から,地理の学習は,地球規模から生活圏に至る地域まで多様な地域スケールを活用し,地域に関する様々な領域を対象としており,課題解決型学習になじみやすい。また,人文・自然の各分野に関わって他教科との関連も深く,防災や国際理解など教科横断的な学習にも親和性が高い。探究的な学びを進める地理総合は,その重要性に応えるもので非常に意義深いことと認識している。

5 地理教育の充実に向けて

現状,地理学習の必要性にかかる意識が未だ希薄であることは否めない。地理を学ぶ意義の浸透を図るとともに暗記科目のイメージを払拭すべく授業実践の一層の改善を進めることが求められる。GISの指導方法,フィールドワークの実施,用語や地名の知識量を重視する学力観の見直し,地理を選択可能とする文系大学入試の改善など,解決すべき課題は枚挙にいとまがない。

京都府では他府県同様に,地理履修者数の低迷が続いた。コロナ禍にあって,教育にも多様性が求められる時代である。ICTの利活用は,多様な地域や特色ある学校で学ぶ生徒たちを誰一人取り残すことなく,個々の資質・能力が一層確実に育成できる教育環境を実現する。地理教育もまた,グローバルな視点で様々な地域を理解し,課題解決に向けた探究的な学びを各校で展開することが求められる。京都府においても,学術会議や学協会において蓄積された研究成果を活用し,質の高い教育改革や時宜を得た授業の工夫改善に資する教員研修等に取り組んでいきたい。

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