日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 274
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発表要旨
中山間地における家族介護者の日常生活と行動
長野県飯田市の事例
*木下 礼子
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抄録

1、研究の背景と目的

 日本における高齢化率は上昇を続け、総務省によれば28.7%(2020年9月)である。高齢者介護について現在「施設から在宅へ」の方針が進められ、在宅要介護者に対する様々な福祉・医療サービスが提供されているが、それだけではすべての要介護高齢者が自立した生活を営むことは不可能である。なぜならこれらのサービスの利用には家族介護者の在宅が前提となっていて、それゆえ家族介護者の日常生活や行動は大幅に制約される。

 このような状態が長期にわたると「介護に疲れて」「追い詰められた」家族介護者による虐待につながる。長野県では養護者による高齢者虐待は2019年度に353件認定されている。

本研究では、家族介護者の日常生活と行動に焦点を当て、行動が制約される要因を明らかにする。また制約の中で家族介護者がどのように「自分の時間」を作り出していくかについても言及する。

2、調査概要

調査対象地の長野県飯田市の高齢化率は2020年4月現在32.3%であるが、市内でも中山間地に位置するA地区は46.6%に達する。この地区の要支援・要介護認定者は102人で、要介護3以上は39人である。地区内には高齢者施設が全くないのですべて在宅であり、家族介護者または介護事業者またはその双方による介護を受けている。

 本報告では、発表者は家族介護の当事者であり、被介護者は母(86歳 要介護5)、父(87歳 非要介護)が同居している。発表者が介護のためUターンした2019年4月から在宅で看取った2020年4月までを調査期間とする。

 発表者は従来主にアンケート調査によって特定の集団を絞り込み、該当者にインタビューを行う調査方法を採ってきた。しかしインタビュー調査では「語られなかったことは解らない」という調査の限界がある。一方で当事者研究では「語られなかったこと」は無く詳細なデータが得られるが、そこで得られた知見が普遍性を持つかは保証がない。したがって本研究では①発表者自身の経験を調査、②Uターンした家族介護者にインタビュー調査を行う計画である。本報告では①のみに基づく。

3、家族介護者の行動を制約する要因

 家族介護者の行動を制約する最大要因は、毎日複数存在するマーカーである。ホームヘルパー・訪問看護師・デイサービス等の支援は在宅介護に必要不可欠であるが、反面、訪問がマーカーとなって毎日の時間を切り刻み、家族介護者はまとまった時間が取れない。中山間地では買い物や図書館等の施設へのアクセシビリティが低く、次のマーカーまでの時間ではこれらの施設にアクセスすることが困難である。また被介護者の体調による当日キャンセルも起こり、結果的に外出行動は非常に少ない。これを補填していたのがインターネットの利用であった。

参考文献

内閣府(2020)『令和2年度版高齢社会白書』

飯田市(2018)「平成28年度 高齢者生活・介護に関する実態調査結果報告書」

森津純子(1997)『母を看取るすべての娘へ—在宅介護の700日』朝日新聞社

松岡英子,大泉伊奈美(2017)「家族介護者のストレスと情報収集」日本家政学会研究発表要旨集

石原孝二(2013)『当事者研究の研究 シリーズケアをひらく』医学書院

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