日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 269
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発表要旨
ネパール,サガルマータ(エベレスト山)国立公園およびバッファーゾーンにおける観光関連施設のエネルギー源の変化
*孫 玉潔渡辺 悌二
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抄録

1 、はじめに

 ネパールの主な観光形態は山岳観光(トレッキング観光)であり、ネパールでは主として保護地域(国立公園など)で山岳観光が行われている。これらの保護地域の中で、サガルマータ(エベレスト山)国立公園およびバッファーゾーンの観光客は3番目に多い。観光の発達は,従来の土地利用や自然資源管理手法に影響を与えた。森林は、エネルギー源やロッジの資材として地域住民にとって必要であっただけではなく、登山遠征隊にも必要であった。しかし実際には、国立公園内では森林保護・回復が認められており森林伐採はそれほど行われていないという報告もある(Watanabe 2016)。

 現在では、観光客数の増加、物資輸送の改善、代替エネルギー利用の増加などにより、サガルマータ国立公園で使用されるエネルギー源が変化している。サガルマータ国立公園への2018年の観光客数は1980年の約10倍に増加した。このような観光客数の増加は、エネルギー需要の増加をもたらした。

 そこで、本研究では、国立公園内の観光関連施設で使用されているエネルギーに焦点をあてて、サガルマータ国立公園内の観光関連施設のエネルギー源ごとの使用割合、および観光関連施設とエネルギー源の関係を明らかにすることを目的として社会調査を行った。

2、方法

 本研究では、2017年から2019年にかけて、サガルマータ国立公園内の26の集落で観光関連施設に対し対面アンケート調査(515軒)ならびに地域のリーダーへのインタビュー調査(12人)を実施した。これらの調査では性別、年齢、民族の他に出身村,職業,施設の情報、施設のエネルギー使用状況に関して質問を行った。また、得られたデータは、バッファゾーンとコアゾーン(国立公園エリア)に分けて分析した。

3、 結果

 調査を行った515軒の観光関連施設のうち、バッファーゾーンには225軒があり、コアゾーンには290軒があった。施設ごとの軒数は、ポーターハウスが41軒、ティーショップは53軒、商店が103軒、ロッジが318軒であった。観光用のロッジはナムチェバザールで最多であった(2019年の現地調査時点で54軒)。   

 施設のエネルギー源については、ガスと電気が主に使用されていた。バッファーゾーンの調査対象施設はすべて電気を使用していて、次いでガス(98.2%)、薪(83.6%)となっていた。灯油は23.6%のみで使用されていた。ソーラーとヤクの糞を使用していたのは、ロッジのみであった。コアゾーンでは、ガスを使用する施設が最も多かった(98.3%)。バッファゾーンと比べて電気を使用する施設は少なく、そのかわりにソーラーを利用している施設が多かった(36.2%)。これは、Dole、Machhermo、Gokyoなどの高所(4000 m以上)にあるほとんどの村落に水力発電所がないためである。

 次に全体のエネルギーパターンからみた6つのクラス別の薪の使用割合を調べた。調査した515軒施設の31.9%(164軒)が薪を使用しておらず、その中で商店(44.5%)が大半を占めていた。バッファーゾーンでは、エネルギー使用割合でみると11〜20%の範囲で薪を使用している調査対象施設が最も多く(36.4%)、そのほとんどがティーショップ(46.7%)であった。ポーターハウスでは主に調理や酒づくりに薪を使用していた。ロッジでは主にダイニングルームでの暖房用として、1〜10%の範囲内で薪を使用していた。コアゾーンでは、バッファゾーンに比べて薪を使用している施設が少なかった。ロッジではほとんどが1〜10%の範囲で薪を使用しており、バッファゾーンと同様の状況であった。ポーターハウス、ティーショップ、商店の多くでは、薪の使用割合は20%以下がほとんどで、バッファゾーンとは異なっていた。

 このようなエネルギー源の利用の変化は、次の3つと関係している。第一に、薪だけでは増え続ける観光客の大きな需要を満たすことはできない。第二に、厳格な国立公園管理ルールの導入と地域コミュニティの森林管理システムの維持が森林資源の消費の制限に繋がっている。第三に、もはやガスは薪に比べて安価になってしまった。

4、終わりに

 サガルマータ(エベレスト山)国立公園およびバッファーゾーンでは、観光関連施設で使用されるエネルギー源としては、ガスや電気が一般的になってきており、高所ではソーラーの使用も認められるようになり、多様化している。施設でのエネルギー源の多様化は施設の立地にも影響される。

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