本研究は,過疎地域における学校統廃合を議論するに際し,新たな観点として,地域の人口維持や将来性との関係性という観点の導入を試みる点に特徴がある.今回の研究報告では,1995〜2015年の和歌山県の小学校の統廃合や人口動態をベンチマークとして進めてきた成果を報告したい.
屋敷(2003)によれば,少子化時代において避けることのできない学校統廃合問題に対する考え方には「教育の論理」と「地域の論理」の二つがある.前者は,子どもの数が減少する中で幾つかの学校をまとめ,できるだけ大きな集団を形成することで教育効果・効率を高めようとするもので教育関係者や行政が支持することが多く,後者は,学校は地域活動の拠点や住民の心の拠り所となるため無くすべきではないというもので,地域住民や議員が支持することが多いという.これまでの学校統廃合の研究は,上記の考え方を踏まえて,この二つの論理のいずれか,または両者の対立や折り合いという観点で検討されており,地理学だけでなく社会学や教育学などで,多くの学術的蓄積がある.
こうした観点を踏まえつつ,本研究では新たな観点での議論の必要性を唱えたい.それが地域の人口維持や将来性という観点である.例えば平成26年度の国土交通白書では,人口減少に伴い,地域の生活サービスやインフラが縮小されることで,その後さらなる人口減少に繋がるという悪循環への懸念が述べられている.この複数の事例の中に地域における学校の存廃が含まれている.一方でこれとは逆に,人口減少下にある地域において,なんとか学校を維持することで,地域の将来の担い手となり得る子育て世帯の人口獲得に繋がるという明るい可能性もある.また実際には小学校存廃が将来の人口維持と関係がなく,意図的であるかに関わらず学校統廃合が地域の将来性がない地域でなされている可能性があるかもしれない.本研究は以上のように,地域の社会インフラである小学校の存廃が,地域の人口維持や将来性とどのように関係するのか,という観点を新たに導入し議論をしようとするものである.
現段階では、ある年代に限れば小学校の統廃合が当該地域の将来の人口変化に影響を及ぼしていることや,ある時点での小学校の立地状況は,人口減少がある程度見込まれているかどうかによるということを示唆する結果が得られた.
今後の見通しとして,二つの論理の今後の選択における考え方について客観的な数値に基づくエビデンスの提示という現場への還元を追究する.例えば地域に将来性がないと住民側の力関係が弱く,行政側からの統廃合の要請を受容するなど,教育と地域の論理の対立や折り合いについて,地域の将来の人口維持可能性との関係から既往研究における二つの論理を再解釈するEBPM的貢献である.