主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2021年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2021/03/26 - 2021/03/28
Ⅰ.はじめに
屋内外の通路におけるわずかな段差や起伏が,障害者や高齢者にとって行動の妨げになることが少なくない.このようなバリアと人々の行動の関係を把握し排除することはバリアフリー社会の実現に不可欠である.このため,身の回りにあるバリア情報をいかに効率的に把握するかは,今後極めて重要な課題となる.田中(2018)はSfM-MVS技術を用いて面的なバリア情報の取得方法を検討しているが,より簡易的な取得方法を検証する中で2020年10月23日に発売されたLiDAR機能搭載のスマートフォン「iPhone 12 Pro・12 Pro Max」(Apple)用いて,障害となる通路の起伏や形状の把握を試みた.本発表ではiPhone LiDARから点群データの取得・作成の具体的な方法を提案し,取得したDSMの精度検証を行うことを目的とする.
Ⅱ.iPhone LiDARからDSMを作成する方法
2-1 iPhone LiDARの特徴
一般的なLiDARは,レーザ光が対象物から戻るまでの時間を計測するToF方式が用いられている.iPhone 12 Proには2種類あるToF方式のうち,レーザ光が反射して戻るまでの時間を計測し対象物との距離を計算するdToF方式が採用されており,屋外や長距離計測(iPhoneでは5mまでに制限)に優れている.そのため,通路の起伏計測などには適している.
2-2 LiDAR計測に用いたアプリ
LiDAR計測を行うことができるiPhoneアプリは数多く提供されている.アプリの操作性や作成できる3Dモデルの精度などを考慮した結果,「3D Scaner App」(Laan Labs)の無料アプリを採用した.このアプリは対象物にカメラを向けてアプリを起動すると,LiDAR計測と同時に背面カメラの画像記録を開始し,容易にテクスチャ付きの3Dモデルを作成することができる.また,画面上にはリアルタイムで計測した場所が表示されるため,効率的にデータの取得状況を把握することができる.このアプリでは取得できる解像度は5~20mmとなっており,作成目的に応じてユーザ側で適切な解像度を決める必要がある.作成した3Dモデルは,USDZ,OBJ,STLなど様々なフォーマットに出力することができるが,本発表では点群データのPLY(Stanford Triangle Format)を採用した.
2-3 点群データの編集・変換
出力したファイルは点群データの読込および編集が可能なフリーソフト「CloudCompare」(Girardeau-Montaut et al., 2005)を利用し,GISで読込可能なLASに変換を行った.LASはLiDARデータを格納する業界標準形式である.そのため,多くのGISソフトはLASに対応している.例えば,ArcGIS(3D AnalystまたはSpatial Analystが必要)やGlobal Mapper,QGISなどである.本発表では無償利用できるQGISを用いて解析を行った.LASのままではQGISに表示できないため,点群データに特化したプラグイン「FUSION」(McGaughey, 2014)を用いた.FUSIONは米国農務省森林局で開発されたLiDAR解析ソフトであり,森林計測に関する機能が豊富に用意されている.このプラグインの一部の機能を用いることで,点群データをDSMに変換することができた.
Ⅲ.計測精度の検証
コロナ禍による移動自粛もあり,まずは自宅近くにある木材を粉砕してできたチップ置場を地形と見立てて,LiDAR計測したDSMとドローンの空撮画像から作成したDSMの比較検証を行った.両者を差分したところ,平均1.01cm,標準偏差2.53cmとほぼ同等の精度を有する結果を示した.ただし,iPhone LiDARの解像度の設定の違いによって,微小な地物を捉えられず,DSMに表現されないこともあった.しかし,DSMの作成時間はドローンが約3時間かかったのに対して,iPhone LiDARは約10分と非常に短い時間で作成でき,さらに計測するためにはiPhoneだけを準備すればよいことから,新たな計測のツールとして有効であると考える.発表では,障害者や高齢者の行動の妨げになる可能性の高い道路などの起伏や段差について,iPhone LiDAR機能を用いた具体的な事例を紹介する.