日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P041
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発表要旨
高校地理における地理的な見方・考え方を働かせる授業実践
―生徒GIS実践型授業を例として―
*金田 宏樹
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抄録

1 本研究の課題意識

 現代のように地域間の交流の盛んな時代においては,社会的事象を位置や空間的な広がりなどを考慮して地図上で捉えることは重要である。「地理的な見方・考え方」は,「位置や分布」「場所」「人間と自然環境との相互依存関係」「空間的相互依存作用」「地域」という5つの視点で構成され,授業のねらいに即して的確に活用し,自在に働かせるようになることが重要となる(永田 2017)。

 新指導要領の「地理総合」「地理探究」で大きく取り上げられているGISは,地理的考察のために地図化して情報を得る際の効果的な手段のひとつとして,現行の学習指導要領においても「地理的な見方・考え方」の育成における有効性が示されてきたが,学校の利用はそれほど進まなかった(國原2018)。GISは,地図上の位置や分布の正確な提示,複数の地図の重ね合わせによる事象間の関連の分析,統計的手法に基づいた空間的規則性と傾向性の図示を可能にする。日本学術会議でも地理空間情報やGISを活用した教育の重要性が今日的課題として提言され,平成19年に地理空間情報活用推進基本法が施行されるなど生活の中での身近な存在となっており,今後,「地理的な見方・考え方」の育成において,GISの活用は不可欠だと言えるだろう。しかし,これまで活用が進まなかった背景には,どの単元において,どのような使い方をすれば効果を発揮できるかが明らかでなかったことや学習内容に適したデータの準備の煩雑さなどの課題があった(佐藤2004)。

 本研究は,このような地理教育におけるGISの活用の現状に対し,生徒自らがGISを操作し活用する側面から効果を検証する。

2 授業実践

(1)題材に応じた視点の設定

 地理的な見方・考え方の5つの視点がそれぞれどのような単元に対応しているのかについては,新指導要領において「主体的・対話的で深い学び」の視点で整理された。また,秋本(2019)は,地図/GISの分析法と地理的な見方・考え方の関係性についてまとめている。これらをもとに授業のねらいや活用するGISを選定し,単元や授業を構成した。

(2)WebGISを活用した実践

 研究協力校のA高校2学年文系クラス地理B選択者18名を対象に計7時間の実践を行った。1時間目は単元の導入に位置づけていたので,様々なWebGISに触れさせた。2・3時間目では,主に「位置や分布」に着目させ,jSTATMAPを用いて統計地図を作成した。4・5時間目では主に「地域」に着目させ,地理院地図による地域調査を行った。6・7時間目には,重ねるハザードマップやGoogleストリートビューなどを用いて,被害予想範囲やグループごとに配布した避難条件をもとに避難経路を考えさせた後,Googleストリートビューを用いて避難経路を歩かせ,調べたことを避難マップにまとめさせた。

(3)アナログGIS教材を活用した実践

 研究協力校A高校2学年理系3クラス計109名を対象にそれぞれ1時間の実践を行った。ここでは地域の防災について,ICTを用いたデジタルな教材ではなく,OHPシートに地理院地図のレイヤーを印刷して生徒に配布し,生徒が手元でGISのレイヤー機能を体感しながら,提示を踏まえた問題点の考察と意見交換が行うことができるよう授業を構成した。また,ワークシートに今回活用した地理院地図の当該範囲のベースマップとレイヤーをQRコードで掲載した。

3 成果と課題

 こちらで設定した授業のねらいとGIS教材を通して,それに即した地理的な見方・考え方を生徒が働かせられていた。そして,こちらで設定したねらいに加え,他の視点からも考察する様子も見られ,生徒の学習状況やGISの活用方法によっては,多面的・多角的な視点から地理的事象を捉えさせることも可能であるといえる。また,単元を通してGISに関わる地理的技能の向上が見られた。そして,身に付けたGISの技能を次時以降で活用する姿が見られ,実際に操作することの有用性を生徒自身が感じているようであった。また,生徒にとって身近な地域や関心のある地域についてGISを用いて調べてみたいという記述も多く見られ,主体的に学習に取り組む態度の育成にも効果があったと考えられる。さらに避難マップの作成を通して,「意思決定」を伴う地理的探究活動を促す効果も見られた。アナログGISの実践では,実際に自分の手で地図のレイヤーを重ねたことにより,段階的(継次的)に処理することを実感させることができた。

 課題としては,用意したデータや地域,地図や機器の操作が生徒によってはイメージしづらいことである。これは生徒の実態に応じてデータを選定したり,作業時間を工夫する必要がある。

 今後は,こうした課題を踏まえながら,新たなGIS教材の活用の仕方や地理的な見方・考え方を通したさらなる授業改善に努めていきたい。

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