日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P042
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発表要旨
吟味する力を育む地理的分野の授業開発と実践
-中学校社会科における市民としての基礎力育成をめざして-
*伊藤 直之光山 明典
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抄録

1.はじめに

様々な変化が短期間で起こる現代社会において,「市民的資質・能力」の育成など市民教育の充実が求められている。しかし,こうした資質・能力の育成のための学習は,中学校社会科においては公民的分野の学習に重点が置かれ,特に地理的分野においては研究事例数も少ない。また,中学初期段階における社会認識のレベルは不充分な状態であり,なおかつ社会科や地理自体に苦手・嫌いという意見が多く,授業でもあまり意欲的ではないことが見受けられる。

そこで,現代社会の現状課題をふまえて,地理的分野における価値判断学習のあり方について検討する。価値判断力育成のための授業構成を分類し分析することを通して,価値判断力を育成するための吟味学習の有効性について明らかにし,授業案計画および実践を提示していく。

2.研究仮説

 中学1・2年で学習する地理的分野では個人的決定に相当する価値判断育成授業(主観的判断学習)を行うべきであり,二項対立型の設定で自分と反対の意見の立場を納得させるアプローチを提案する。そのうえで,「主観的判断を念頭に置いた地理的分野の授業を,二項対立型の吟味学習で展開することにより,生徒に市民としての基礎力が育成し始める」という研究仮説を提唱する。

吟味学習については,他者(授業で取り上げた社会的問題に関わる当事者)が選択した結果を見て,その判断結果について吟味を進める場合を「他者吟味」とする。また,自分(生徒)自身の判断についてメタ認識を通して吟味する場合を「自己吟味」とする。研究仮説に基づく授業を実践するにあたって,まずは他者吟味を行い,次に自己吟味を行う展開を提示する。

3.吟味学習の計画と実践

二項対立型の吟味学習を地理的分野で実践するための授業設計として,地理的な環境作用や社会的背景などの因果関係をもとに現地の人物が行った判断結果について吟味する他者吟味を行い,次に生徒自身が関わる内容での自己吟味を行う展開としている。生徒に吟味作業を慣れさせるため,同じような学習方法を繰り返す単元での実施をねらい,大単元「世界の諸地域」でカリキュラム・マネジメントを行っての実践を計画している。具体的には,アジア州の学習(西アジアにおける経済政策決定)で他者吟味学習を行い,次にアフリカ州の学習(アフリカの食糧問題)で自己吟味学習を行うという展開で提案する。

アジアでの他者吟味の課題は「ドバイの街はなぜ発展することができたのか?〜サウジアラビアと比較してドバイの経済発展戦略の有効性を検証せよ!〜」であり,ドバイの首相が観光・金融業に経済の軸を移した政策決定の理由について様々な資料を根拠として吟味する問題である。

アフリカ州での学習(全5時間)は,「人口増加中のアフリカにおける食糧問題を考えよう」を「単元を貫く問い」としている。第3時でアフリカ開発提案に対する他者吟味をふまえた説得学習を政策反対の立場から行った後,第5時で自身の説得内容に対する自己吟味活動を行っている。第3時の他者吟味では,提案内容に対するメリットとデメリットを整理することで吟味を行わせている。また第5時では,生徒の意見を分析して7つのカテゴリーに分類し,それを活用して自己吟味を行わせている。その際に生徒自身の価値観を序列化・可視化させる目的でダイヤモンドランキングを作成させる。

 研究の具体的な成果については,当日のポスターにて報告する。

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