主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2022年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2022/09/23 - 2022/09/25
1.はじめに
地球温暖化が顕在化する以前の19世紀後半の気候については、気象庁の一部地点の観測データを使用した分析に加え、気象庁による観測開始以前の非公式な古気象記録を用いた解析が行われている(Zaiki et al., 2006)。しかし、先行研究では単一もしくは、数地点のデータにもとづく解析が多く、広域的な気候要素の分布に関する解析は困難であった。そこで本研究では、19世紀後半から広域で気象観測を行っていた灯台気象観測記録(饒村,2002)の気温と気圧のデータを使用し、1878~1886年冬季(12~2月)の気候について、西高東低型気圧配置の強弱と気温との関連性を明らかにすることを目的に解析を行う。
2.使用データと解析方法
灯台気象観測記録(以下、灯台気象記録)は、1878~1886年の気圧と気温の月平均値を使用した。月平均値は、9時と21時の観測値を平均した日平均値をもとに算出した。使用地点は、1878年から観測記録が存在する北海道から九州の13地点である(図1右)。 13地点の灯台気象記録から求めた気圧差や気温偏差をもとに冬季の気候について解析することの妥当性を判断するために、気象庁の1961~2020年の気温と海面気圧の月平均値も使用した。使用地点は、灯台気象記録の観測地点と近接し且つ長期的な記録が存在する13地点(図1左)である。 まず、冬季の月平均気圧から西高東低の冬型の気圧配置の強弱の指標を算出するために、1961年以降に関しては下関と函館の気圧差(下関―函館)、灯台に関しては部崎と函館(部崎-函館)の気圧差を算出した。これをもとに1961年以降に関しては気圧差の上位5年と下位5年を抽出し、各地点の月平均気温偏差(1961~2020年平均からの差)を算出した。1878~1886年に関しては、各年の月平均気温偏差(1878~1886年平均からの差)を算出し、気圧差との関係を気象庁データから求めた気温偏差分布と比較し考察した。
3.結果と考察
1961~2020年は正の気圧差が大きい年に、西日本を中心に気温の負偏差がみられた。この傾向は西高東低型気圧配置が強まり、平年よりも気温が低下した影響と考えられ、特に1月の分布に顕著にみられた(図1左)。一方、正の気圧差が小さい年や負の値を示す年には、全国的に気温の正偏差がみられた(図略)。この傾向は、西高東低型気圧配置が弱まる、もしくは不明瞭なことに伴う気温上昇に対応することが示唆される。一方、灯台気象記録では、正の気圧差が大きいほど気温が低下する傾向が2月を中心にみられ(図1右)、気圧差が小さい年や負の値を示す年には、気温の上昇傾向がみられた。 灯台気象記録と気象庁データを比較した結果、冬型気圧配置の強弱と気温変動との関連が明瞭になる月が異なることが判明した。今後はこの要因についての解明を目指す。