近年、地球規模の温暖化が進行しており、特に北半球の
高緯度地域ではその影響が顕著に現れている。2005 年から
2008 年にかけて、東シベリア・レナ川中流域では夏季から
秋季にかけての降水量の増加がみられた。夏季の降水量の
増加は、永久凍土表層の融解を伴って活動層を厚くすると
共に、活動層内の土壌水分量の大幅な増加をもたらした。
その結果、土壌の過剰な湿潤化によって湛水状態が続き、
地表面上に生育する北方林の生育環境を悪化させ、森林の
荒廃が進行した(Iijima et al.,2014)。
飯島ほか(2013)では、永久凍土並びに森林の荒廃をもた
らす一連の現象を継続的・広域的に捉える手法として、異
なる年代(2007 年から 2009 年)の ALOS/PALSAR 画像の
後方散乱係数を使用した解析が有効である可能性を示した。
しかし、2010 年以降の情報を加えて広域的な水域・植生変
化域を抽出はされていない。そこで、本研究では、上記の解
析手法を用いて東シベリア・レナ川・中流域の 2007 年から
2017 年までの時系列水域・植生変化域図を作成することを
目的とし、経年的な解析の有効性について検討を行った。
本研究では、JAXA が打ち上げた人工衛星 ALOS/ALOS-2
に搭載されている合成開口レーダ PALSAR/PALSAR-2 が取
得した 2007 年から 2017 年のデータのうち、夏季(7 月か
ら 9 月)に取得された計 16 シーンのデータを用いた。
ALOS/PALSAR および ALOS-2/PALSAR-2 が取得したデ
ータから後方散乱強度画像(dB 値)を作成し、スペックル
ノイズを軽減するために平滑化処理を行った。平滑化処理
は 5×5 ピクセルの平均値を求め、平均値を中心ピクセルに
付与した。平滑化処理後、2007 年時点の画像と、2009 年と
2007 年の差分画像および 2009 年時点の画像と、2015 年・
2017 年と 2009 年の差分画像の閾値に基づき、水域・植生変
化域の抽出を行った。閾値には、飯島ほか(2013)が設定し
たものを使用した。
マイクロ波の後方散乱係数の閾値をもとに、解析対象地
域の ALOS/PALSAR および ALOS-2/PALSAR-2 画像を分類
し、2007 年から 2009 年および 2009 年から 2015 年・2017
年の時系列水域・植生変化域図を作成した(図 1)。加えて、
水域・植生変化域の凡例別の面積割合を算出した。
夏季降水量の増加に伴い、永久凍土の融解が進み、土壌
の湿潤化がみられた 2007 年から 2009 年においては、森林
(湛水弱+衰退)の割合が最も高い結果となった。以降、経
年的に森林(湛水弱+衰退)の割合は減少し、2009 年から
2017 年には、森林(湛水なし+回復)の割合が最も高くな
った。これは、2005 年から続いたような湿潤年が近年は起
こっていないことが要因として考えられる。一方で、回復
傾向にある 2009 年から 2017 年においてもレナ川右岸では
森林(湛水強+枯死衰退)に分類される地域が一部見られた。
この地域において水域・植生変化の時空間特性をさらに
明らかにするため、高解像度の DEM データによる地形解
析や NDVI のトレンド解析を行うとともに ALOS シリーズ
の他時期の画像を整備し、凍土荒廃と水域・植生判別の精
度向上、変化域図の広域化を図りたい。
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