日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
選択された号の論文の128件中1~50を表示しています
発表要旨
  • 中川 清隆, 渡来 靖
    セッションID: 210
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    定常状態における水平方向の運動方程式は,気圧系努力、コリオリ力,摩擦力の3力の釣り合いとして表される.摩擦力・加速度が存在しない時に吹走する仮想の風である地衡風????(????, ????)は気象・気候教育で最も重視される概念である.

     摩擦力の影響を無視できない大気境界層においては,摩擦力の具体的な姿が重要となる.多くの気象学の教科書は,摩擦力は風ベクトルと真反対の方向を向いているとしており、風は、摩擦力??が存在しなければ地衡風となるが,摩擦力が強くなるほど非地衡風が強くなり,等圧線を大きな角度で横切って高圧側から低圧側に吹走する、と説明する.しかし,このような説明は読者に摩擦力が運動方向とは真反対に作用するとの誤謬を与えることが懸念される.

     島貫(1980)は摩擦力 が風とは真反対方向の場合のホドグラフは円となり決して螺旋にはならないことを幾何学的に証明し,摩擦力は運動方向と真反対ではない旨警鐘を鳴らした.小倉(1999)は,風ベクトルと方向がずれている場合の摩擦力の作図法を示した.

     そこで本研究は,小倉(1999)が示す風ベクトルの非地衡風と摩擦力が直交することを幾何学的に示した.

  • 広島市の老人クラブ会員を対象とした調査から
    和田 崇
    セッションID: 633
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1. 研究目的

     COVID-19パンデミック(以下,コロナ禍)において政府は,人が密に集まって過ごす空間や不特定多数の人が接触するおそれが高い場所を避けることを要請し,その要請を受けた自治体や事業者はスポーツ施設の休館や休業を選択し,人びとはそれらの施設で運動・スポーツ活動を行うことを制限された.こうした中で,人びとはどこで運動・スポーツ活動を行っていたのか,あるいは運動する場所を失い,健康を損なったのか.こうした問題意識をもとに本研究は,コロナ禍において高齢者の運動・スポーツ活動を行う場所がどのように変化したか,そしてそのことが高齢者の健康にどのような影響を及ぼしたかを解明することを目的とした.

    2. 研究方法

     本研究の対象地域は地方中核都市の広島市とし,研究方法は資料調査と聞取り調査,アンケート調査を併用した.資料調査では,広島市の健康推進,スポーツ振興,高齢福祉に関する資料を収集した.聞取り調査では,2021年8月から9月にかけて,広島市健康福祉局健康推進課および高齢福祉課から所管する施策の方針や内容を,広島市老人クラブ連合会事務局から老人クラブの活動状況等を聴取した.アンケート調査は,コロナ禍における日常生活および運動・スポーツ活動の変化を把握することを目的に,2021年9月22日から10月8日にかけて広島市老人クラブ連合会に加盟する単位老人クラブ等の会員403名を対象に郵送法により実施し,84.4%にあたる340名から回答を得た.

    3. 分析結果

     外出をともなう生活行動の実施頻度をコロナ禍前後で比較すると,コロナ禍には「通院」などを除くほとんどの生活行動の実施頻度が低下した.中でも「趣味・習い事」「食事」「旅行」「地域・ボランティア活動」など,余暇活動や生きがいを感じる活動の実施頻度が特に大きく低下した.

     次に,運動・スポーツ活動の種目別実施頻度をみると,コロナ禍にはすべての種目の実施頻度が低下した.特に,集団で行うグランドゴルフなど「球技」の実施頻度が大幅に低下した.また,「散歩・ウォーキング」の実施頻度も大きく低下しており,高齢者は仲間と一緒に会話をしながら「散歩・ウォーキング」を楽しむ傾向にあることから,COVID-19への感染リスクを考慮して活動を自粛した結果だと考えられる.

     さらに,運動・スポーツ活動の場所別実施頻度をコロナ禍前後で比較すると,「自宅(屋内)」と「自宅(屋外)」を除くすべての場所での実施頻度が低下した.特に,グランドゴルフ等「球技」で使用する「中くらいの公園」「公営屋外施設」「公営屋内施設」の低下が顕著であった.また,「散歩・ウォーキング」の実施場所と考えられる「自宅近くの道路」も低下していた.このことについて,広島市老人クラブ連合会事務局への聞取り調査によれば,「中くらいの公園」で行う「球技」や「自宅近くの道路」などで行う「散歩・ウォーキング」はCOVID-19への感染リスクは疫学的には高いといえないが,コロナ禍において複数人で活動することへの近隣住民等からの懸念や非難のまなざしを避けるために,活動を自粛する傾向が郊外・農村地域を中心にみられたという.

     最後に,コロナ禍前後の体調・生活習慣の変化をみると,「体力が低下した」と「楽しいと感じることがなくなった」,「生活のリズムがくずれた」が上位にあり,コロナ禍における身体活動量の減少が体力低下と精神的ストレス,生活リズムの乱れを引き起こした実態が浮かび上がる.特に,「楽しいことがなくなった」という回答が2番目に多かったことからは,高齢者にとって運動・スポーツ活動が仲間との交流を通じた楽しみや生きがいとなっており,その喪失が精神的ストレスを増大させた可能性が高いと考えられる.

  • 田部 俊充
    セッションID: S201
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    本発表は,2022年日本地理学会秋季学術大会公開シンポジウムS1(第42回日本地理学会地理教育公開講座)として開催するものである。

    【企画趣旨】 GIGAスクール構想の実現によって小中高等学校のICT教育は飛躍的に発展した。今,ICTを活用した地理授業は効果的な取り組みとなっているのか。小学校,中学校社会科地理的分野の地誌学習,高等学校地理総合におけるICTを活用した地理授業を中心に検討したい。また,今後に向けて,魅力的な実践(ドローンの活用)を例に検討したうえで,次の改訂に向けた方向性,系統と地誌とのバランスを考えたい。「地理総合」は「地誌学習ではない」とされていることで,中学校社会科地理的分野とも高校「地理探究」とも学習がつながりにくい,という課題を抱えている。 今後に向けて,コンテンツベース(地誌)とコンピテンシーベース(地理的見方・考え方)は対立概念ではなく,系統性を重視しながら工夫によりどちらの育成も必要なのではないか,と考え,小中高等学校の地誌学習について再検討したい。

     発表者は 授業におけるICT活用と地誌学習について初等教員養成を中心に論じたい。コロナ渦におけるオンライン授業の実施と地理院地図の活用(田部2021),学校現場の出前授業における実践(田部ほか2022a),企業との連携による地図プログラミング学習の実践(田部ほか2022b)について試行的に取り組んだことの成果と課題を論じたい。 【文献】 田部俊充(2021):新・地図指導と地理院地図の活用に関する理論的研究 人間研究,57,pp.15-23. 田部俊充・飯塚耕治・本澤優果(2022a):地理院地図を活用したハイブリッド型出前授業による防災教育―春日部市立幸松小学校第4学年「総合的な学習の時間」における試み―.人間研究,58,pp.3-11. 田部俊充・飯塚耕治・末吉実・大西さくら・郭明・本澤優果・東実優(2022b):小学校防災教育のための地図を活用したプログラミング教育の実践-春日部市立幸松小学校第4 学年「総合的な学習の時間」における試み-.日本女子大学教職教育開発センター年報,第8号,pp.17-25.

  • 黒木 貴一
    セッションID: 237
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    令和2年7月豪雨では,甚大な被害となった.被害は球磨川沿いの人吉市~八代市に集中したが,被害程度には差が生じた.その差の原因を検討するために,洪水時の流速を求めた.流速の測定方法は様々あるが,ステレオペア写真の移動する観察対象が持つ視差のカメロン効果を利用する方法もある.そこでは空中写真の撮影条件は,直線的な河川に沿う一定の時間間隔が求められる.しかし令和2年7月豪雨での球磨川流域に対する国土地理院の空中写真は,蛇行する球磨川に対し不規則な飛行コースで斜め撮影され,撮影間隔もさほど均一ではなかった.発表では,斜め空中写真を活用し漂流物から流速に加え流向も推定し,被害と洪水流の関連を考察した既報告内容を紹介する.

  • 保育所等を利用する子育て世帯へのアンケート調査から
    久木元 美琴
    セッションID: P020
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    世界的なCovid-19のパンデミック以降,感染拡大防止を目的とした社会経済活動の停止,他人との近接回避などの行動変容を伴う感染対策が浸透した.外出自粛を意味する「ステイホーム」と連動する形でICTを活用し自宅等で業務を行うテレワークが急速に普及する一方で,「ホーム」に着目するフェミニスト地理学が指摘するように,家庭や自宅は必ずしも万人にとって安全な居場所ではなく,生産労働と再生産労働の二重負担の問題も顕在化してきている.また,保育や介護などのケアを提供する施設では,感染拡大防止対策としての休園や休所の措置がとられ,保育所等における臨時休園によって育児・家事・仕事との両立に苦慮するケースも報道されている.しかし,休園中の対応実態や,外出自粛等による子育て世帯の保育や家庭内のケアへの影響は必ずしも明らかにされていない.

    以上から本研究では,いわゆるコロナ禍における外出自粛や休園の下で,保育を必要とする子どもの過ごした場所,保育を含む家庭内のケアワークへの影響を明らかにする.方法としては,インターネット調査会社を通じ,全国の保育所等へ通う未就学児を持つ世帯を対象にアンケート調査を行った(配信期間2022年3月10~13日,回収数1,000票).設問は,保育所等の休園や登園自粛要請(以下,休園と略記)の有無と世帯の対応状況,コロナ禍の育児についての負担感や利点について主に尋ねた.なお,世帯内での主な育児担当が女性である現状を鑑み,配信対象は女性を多めに設定した(女性回答:742票).調査の特性上,今回の結果を保育所等利用世帯一般に敷衍できるわけではないことに留意を要する.

    結果は以下の通りである.回収総数1,000票のうち,新型コロナウイルスによる保育所等の休園を経験したのは777票あった.休園時期は厚生労働省が公表する全国の休園数の動向とほぼ一致している.休園を経験した人が保育所に通えなかった期間は「6日以上」が6割超と最多であった.保育所に通えない期間の子どもの居場所の1位では「自宅」(86%)が最多で,2位以下では「あてはまるものがない」が最多であった.自宅以外の居場所としては「祖父母の家」が最も多く,他の施設や近所・友人は10%未満であった. いわゆるコロナ禍の育児について負担に感じることについては,「公共施設や公園を利用できず困る」「外出自粛による子どもの精神的ストレスのケア」が上位を占めた.他方,コロナ禍の利点に関する設問では全体として該当率が低いものの,「子どもと一緒に過ごす時間が嬉しい,と思うことが増えた」「配偶者・パートナーと一緒に過ごす時間が嬉しい,と思うことが増えた」が上位であった.また,外出自粛やテレワークを念頭に「家事を配偶者・パートナーと分担しやすくなった」「家事と仕事の両立がしやすくなった」の項目を設定したが,該当率はそれぞれ30%,23%であった.

    本研究にはJSPS科研費JP19H01383,JP16K16957の助成を受けた.

  • 吉田 一希
    セッションID: 234
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1. 火山土地条件図「浅間山」の作成・公開

     国土地理院では,火山土地条件図「浅間山」及び火山地形分類データ「浅間山」を作成し,令和4年3月に公開した.本図の地形分類の判読には,航空レーザ測量による1mメッシュDEM(令和元年測量)を用いた.これにより,詳細な地形判読が可能となり,本図では土石なだれや火砕流による微地形などを表現した.このうち,浅間山北麓に分布する鎌原土石なだれ堆積地は,大小の溶岩塊や小丘が多く分布し,凹凸の変化が大きな地形面として認識できた.今回,従来の鎌原土石なだれ堆積地の分布域(荒牧, 1993)よりも広い範囲で類似の特徴をもつ地形面が認められた.本図ではこのうち,浅間火山地質図(荒牧, 1993)による「鎌原火砕流/岩屑流堆積物」の分布域を「鎌原岩屑(土石)なだれ地形面Ⅱ」(Ⅱ面)とし,残りの領域を 「鎌原岩屑(土石)なだれ地形面Ⅰ」(Ⅰ面)として示した。Ⅱ面には平板状(周縁部が急崖で,中央部が平坦)の溶岩塊が多く分布するが,Ⅰ面には認められない.

    2. 鎌原土石なだれ地形面Ⅰの分布

    (1) 西部(青山周辺)

     青山(標高1130.0m)は,従来の地質図では鎌原土石なだれの堆積地とされてきた(荒牧,1993; 早川, 2018).しかし、青山は,鎌原土石なだれの流れ山と比較して平滑な形状を示し,北方約1.3km以北に分布する古い土石なだれによる流れ山(早川, 2018)と地形的に類似する.また,青山の東半分は南南東からの土石なだれの流下によって削剥侵食された形状を示し,青山の北縁と西縁には,土石なだれ流下時に形成されたと思われる自然堤防状の高まりが北西方面に二本(比高約6m及び比高約4m)延びており,北西縁にはこれらに囲まれた平坦面がある.したがって,青山は鎌原土石なだれに侵食されつつキプカ状に取り残された,より古い時代の流れ山と考える.

    (2) 北西部(小屋ヶ沢・大堀沢周辺)

     青山西縁から大堀沢の滝の南東約200m地点にかけて,ローブ状の堆積地形(長さ約1.2km,幅約300m)が認められ,約3mの末端・側端崖と,多数の流れ山(長径約10~45m,比高約2~7m)が分布する.この地形は早川(2018)でも「鎌原土石なだれ」と示されている.Ⅰ面はこの末端から大堀沢左岸の下流側にさらに分布し,流れ山状の小丘(長径約10~20m,比高約1~2m)が点在する.

     小屋ヶ沢上流部の左岸から大堀沢下流部の右岸にかけての台地面上にⅠ面が認められ,その西縁には自然堤防状の高まり(比高1~2m)が長さ約1kmにかけて断続的に分布し,面上には流れ山状の小丘(比高約1~2m)が点在する.Ⅰ面の北端は嬬恋中学校付近や大前駅付近まで分布する.周辺は人工改変地が多く,原地形が不明瞭な箇所が多い.

    (3) 東部(赤川周辺)、北東部(常林寺周辺)

     Ⅰ面の東端は,荒牧(1993)の東端よりも約700m東に位置し,早川(2018)の東端とはほぼ一致するが,赤川右岸の台地面(標高約1020m地点)では,早川(2018)の東端よりも約150m西に位置する.この地点では,鎌原土石なだれが応桑岩屑なだれの流れ山に乗り上げて停止した形状を示す.この地点から下流約2kmまで断続的に約2~5mの側端崖が認められる.多数の流れ山状の小丘(長径約10~40m,比高約1~3m)が分布し,周辺のⅡ面よりも凹凸の多い地形面を示す.

     常林寺の北方約300mに位置する台地面上では,ローブ状の堆積地形が認められ,複数の流れ山(長径約10~40m,比高約2~5m)と,自然堤防状の高まりが分布する.

    引用文献:荒牧重雄(1993)浅間火山地質図.早川由紀夫(2018)浅間火山北麓の2万5000分の1地質図(第三版).

  • 石濱 歩奈
    セッションID: 511
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    本研究は外食ローカルチェーンに注目することで、ナショナルチェーンとの差異やローカルチェーンが地域内で果たす役割を検討するものである。特に、香川県の讃岐うどんチェーンを事例に発表する。各店舗の立地を見ると、ナショナルチェーンの店舗は商業地やその周辺に立地している一方で、ローカルチェーンの店舗は住宅地や事業所の周辺に立地していることが分かった。この立地の差異には香川県の生活様式が関係しており、ローカルチェーンより香川県特有の生活スタイルを反映した展開を行っていると考えられた。以上より、ローカルチェーンはナショナルチェーンと比較して地域住民が日常的に利用しやすい場所に立地しており、地域特有の生活スタイルを支える存在して優位性を保持していると推察される。

  • 大上 隆史, 丸山 正, 細矢 卓志
    セッションID: 235
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに

    島原湾(有明海)は九州最大の内湾であり,河川の河口部には筑紫平野や熊本平野に代表される臨海平野が形成されている.これらの臨海平野の地形発達については,陸上(沖積低地)におけるボーリング調査等にもとづく検討が進められてきたが,沿岸域における地形発達過程をシームレスに理解するためには,その海域延長部を含めた検討も重要であると考えられる.島原湾においては平成21年度,令和元〜3年度に海底活断層調査が実施され,音波探査や海上ボーリング調査が行われた.本発表では,島原湾に分布する雲仙断層群(南東部)の近傍で実施された海上ボーリング調査の結果の概要と,陸域を含めたデータにもとづいて熊本平野とその海域延長部の発達過程を検討した結果を報告する.

    海上ボーリング調査の概要

    雲仙断層群南東部(海域部)の活動性を明らかにすることを目的として,断層の低下側(UTO1:水深46.69 m)および隆起側(UTO2:水深33.07 m)において海上ボーリング調査を実施し,それぞれ長さ40.00 mおよび35.25 mの堆積物コア試料を採取した(文科省・産総研,2020).採取された堆積物コア試料を対象に,肉眼観察,放射性炭素年代測定,火山灰分析にもとづいて,層序を検討した.UTO1地点においては,海底面下18.80 mまでが主に完新世の年代(1.42-11.73 ka)を示す海成堆積物,29.90mまでが後氷期の年代(13.18-16.57 ka)を示す陸成の細粒堆積物,33.20 mまでがいわゆる基底礫層に対比される砂礫,44.00m までは最終氷期最盛期(LGM)に相当する年代(22.49 ka)を示す有機質堆積物およびAT火山灰を挟在する陸成の細粒堆積物によって構成されている.UTO2地点においては,海底面下5.20 mまでが後氷期の年代(3.17-18.23 ka)を示す堆積物,8.15 mまでがLGMに対比される可能性のある砂礫,14.80 mまではAso-4の火砕物,35.25mまでは最終間氷期の細粒堆積物によって構成されている.既往研究では,本海域における完新世の堆積物の層厚は10 m程度と推定されていた.海上ボーリング調査の結果,断層の低下側では沖積層の層厚が約30 mに達していることや,断層の隆起側におけるAso-4の分布高度などが明らかになった.

    熊本平野(白川・緑川デルタ)とその海域延長部の発達過程

    海上ボーリング調査(UTO1地点)と既存の陸上ボーリング調査(KA-1地点:産総研,2016)の結果,ならびに土木ボーリング資料(国土地盤情報検索サイト「KuniJiban」)から,熊本平野から島原湾に至る地形・地質断面図を作成した(図).詳細な堆積年代が求められている地点はUTO1地点およびKA-1地点に限定されるが,これらの地点における堆積年代をコントロールポイントとして,現在の地形および一般的なデルタのプロファイルを参考に,1,000年毎の同時間面を推定した. 復元した地形・地質断面図(図)から,一連の堆積体の発達過程を検討できる.島原湾では,後氷期の海水準上昇開始(16.5 ka)前後から細粒堆積物の形成が開始しており,12 ka前後に内湾化した後,海域の拡大(海岸線の陸側への移動)に伴って8 ka前後に堆積速度が急減している.内陸部(KA-1地点)に分布する海成砂層(7.99-7.24 kaの年代を示す)は,後氷期の海進に伴う海域の拡大範囲がこの地点に達していたことを示す.島原湾では,8ka前後から砂質な堆積物が分布しており,8 ka以前に形成された沖積層を侵食する谷状の地形が発達している.これらは,海域の拡大に伴って増大した潮流の営力によって海底面が侵食され,海底面で生産された粗粒な砕屑物が二次堆積したことを示唆している.

    謝辞:本研究の実施にあたり,文部科学省委託事業「活断層評価の高度化・効率化のための調査」の一環で取得したデータを使用させていただきました.

    参考文献:産総研 2016.「地域評価のための活断層調査(九州地域)」平成27年度成果報告書.文科省・産総研 2020.「活断層評価の高度化・効率化のための調査」令和元年度報告書.

  • 久井 情在
    セッションID: 635
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1. 研究の背景

     今日,地方圏の多くの自治体が,大都市圏からの住民の移住促進に取り組んでいる.自治体からみると,移住定住促進施策の対象は現時点で自治体領域外の住民であり,この点で,域内住民を対象とする他の多くの施策と異なっている.したがって,移住定住促進施策は,地理的範囲を所与とする従来型の「ガバメント」の枠組みではなく,多元的なアクターや空間スケールが関わる新型の「ガバナンス」として論じることが望ましい.一方,「田園回帰」の議論に代表される,大都市圏から地方への移住についての既存研究をみると,移住者個人のライフヒストリーや,小地域での取り組みが注目され,自治体行政のレベルでの取り組みは背景として扱われることが多い.以上を踏まえて本発表では,移住定住促進施策をめぐるアクター間の連携や役割分担について,事例研究を通じて描き出すことを目指す.なお,本事例研究は,兵庫県但馬地方の各自治体の移住定住促進担当部署や,各自治体が設置している移住相談員等を対象に,2021年10月~2022年6月にかけて実施した聞き取り調査に基づいている.

    2. 事例地域

     兵庫県は,移住定住促進について,全県的施策として取り組むだけでなく,県内10地域に置かれた県民局・県民センターごとに,それぞれの裁量で施策を展開している.その1つである但馬は,県北部の日本海に面し,神戸や大阪からみて県内で最も遠方に位置する地域にあたる.豊岡市,養父市,朝来市,香美町,新温泉町からなり,この5市町それぞれが移住定住促進に取り組んでいるため,但馬においては,県・県民局・市町という3重の実施主体が存在することになる.加えて,地域コミュニティや地域自治協議会といった小地域の単位でも,移住定住促進に取り組んでいるところが一部存在する.

    3. 考察

     但馬における移住定住促進をめぐるガバナンスの特徴は,以下の3点にまとめることができる.

     第1に,移住相談窓口の外部委託が積極的に活用されている.特に,兵庫県や但馬といった上位スケールでは,移住希望者の相談はほとんどすべて委託先が対応している.ここでは,移住相談業務の継続性や専門性を確保できることが委託の利点になっていると考えられる.一方,市町の場合も委託が目立つものの,行政職員が対応することもあり,委託を行っていない市町もみられる.

     第2に,国や県といった上位政府による地方創生・地域づくりの施策が,下位スケールでの移住定住促進に活用されている.具体的には,総務省の施策である地域おこし協力隊が挙げられる.協力隊の受け入れは,各市町で移住定住促進施策の柱の1つに位置づけられており,特に豊岡市で力が入れられている.また,協力隊OB・OGが,移住相談や移住に関する情報発信に携わる例もみられる.兵庫県の施策としては,小地域レベルでの地域づくりを補助する事業があり,小地域の中にはそれを利用して移住定住促進に取り組むところもある.

     第3に,「但馬」という中間スケールのガバナンスにより,県からの相対的な自立と,市町の取り組みの底上げがなされている.一般的に兵庫県は,神戸等の瀬戸内海沿岸地域の印象が強く,県の相談窓口を訪れた移住希望者が日本海側の地域に至る可能性は低いと考えられるため,「但馬」の枠組みで窓口を設け,ウェブやイベントで情報発信することで,知名度の低さを補っている.また,「但馬」で取り組むことで,規模が小さく移住定住促進施策に十分な財政的・人的リソースを割けない市町の取り組みの底上げを図る効果も認められる.

  • ―神奈川県横浜市を事例として―
    中川 紗智
    セッションID: 513
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    Ⅰ.研究の背景と目的

     地理学において動物と人の関係を考える研究の蓄積が見られる.しかしながら多くの場合,対象とされる動物は野生動物であり,最終的な目標とみなされるのは,共生あるいは動物の数の増加である.これに対して保護犬・保護猫活動は半野生化した動物を捕獲し,ペットとして新たな飼い主の元へ譲渡することが目標となる点で,他の動物保護とは大きく異なる.

     現在我が国では多くの人々が家庭で犬や猫などの動物を飼育しており,こうした動物は我々の社会に深い関わりを持つようになっている.一方で,飼育放棄や殺処分の問題などが継続的な課題として議論されている.これらのことから,保護犬・保護猫に注目した,動物と人の関係性についての新たな研究の枠組みの構築が急がれる.特に猫については,野良猫が多く繁殖しており,それによって地域でトラブルが起きたりと,多くの課題が山積している.

     そこで本研究では,近年増加している譲渡型猫カフェが保護猫活動に果たす役割について,地域との関わりを軸に検討する.対象地域として,特に譲渡型猫カフェの集積が見られる神奈川県横浜市をとりあげる.研究の手法としては,横浜市の譲渡型猫カフェ及び実際に猫の譲渡を受けた里親への聞き取り調査をおこなった.

    Ⅱ.分析の結果

    1)横浜市の譲渡型猫カフェの特徴

     横浜市に譲渡型猫カフェは11軒あり,経営者1名従業員なしの個人事業主から系列店を持つ株式会社まで幅広い形態がみられた.保護と譲渡の空間的範囲について分析すると,横浜市内での保護が多い店舗と,全国からの保護が多い店舗に分かれることがわかった.譲渡先はいずれも横浜市内が多かった.また開業以来の譲渡数は店舗ごとに大きく異なっていた.本研究では地域との関わりを考察するため,横浜市内での保護の割合が高い2店舗を詳細に検討し,特に譲渡数が多い店舗Aと少ない店舗Bを比較した.

    2)譲渡型猫カフェの果たす役割

     主体間関係を検討すると,事例店舗Aでは横浜市内在住の不特定多数の個人からの保護依頼に応じて野良猫の保護をし,避妊去勢手術を含む医療を施しつつ,猫の展示を行っていた.猫の習性に合わせた行動展示が行われ,それを見たり触れ合ったりした客の中から里親希望者が現れ,マッチングがなされる.人馴れは譲渡後に徐々に進んでいくことが多い.

     事例店舗Bでは,横浜市内在住の個人保護活動家1名及び動物病院との連携により保護が行われている.個人保護活動家はT N R活動もしているため,店舗Bに来る猫はすでに避妊去勢手術が完了し,地域で餌やりなどがなされている猫が多くなっている.特に人馴れしていない猫を選んで受け入れており,店舗では日々,人馴れトレーニングがなされている.人馴れがほぼ完了した猫から譲渡されていく.

     「人馴れ」は動物と人の関係性を考える上で重要である.半野生動物である野良猫が人馴れを経てペットになっていくと考えられるためである.両店舗の大きな相違点として,人馴れを里親に委ねるのか店舗で完了するのかという点が挙げられる.また両店舗に共通するのは,避妊去勢手術の実施や譲渡後の完全室内飼育の誓約により,譲渡した猫がペットから再び半野生化することを防いでいる点である.これにより地域の野良猫の減少が目指される.

    Ⅲ.考察

     保護猫の譲渡を受けた里親のなかには,当初は保護猫への関心がほとんどなく譲渡も考えずに来店していた者も少なくない.譲渡型猫カフェは,同じ横浜市内という地域に存在しながらお互い認知することのなかった野良猫と人が出会い,触れ合うことで結びついていく空間であることが指摘できる.

  • ―大阪市港区における朗読劇の実践を事例に―
    市道 寛也
    セッションID: 514
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1.研究の背景と目的

     現代の日本社会では、少子高齢化や都心回帰に伴い、都市部では、活動の停滞という問題に頭を悩ませる町内会も少なくない。そのような中、人々のつながりをいかに維持するか、地域活動をいかに活性化させるかが喫緊の課題となっている。これを解決する手掛かりとして、ハイデン(2002)の「場所の力」という概念に着目する。場所の力は、場所の記憶を可視化するという活動を通じて、場所に対する市民の記憶を育む力であり、都市の再生に寄与するものである。ハイデン(2002)は、アメリカのロサンゼルスを対象に、多様な人種と文化を包摂する都市で生きたマイノリティに対する記憶を、都市再開発のプロジェクトに取り入れた事例を通じて、場所の力を示している。

     日本では、様々な分野で場所の力について議論されてきた。例えば山﨑(2005)は、多民族都市における実践は、外国人の定住化が進む日本社会においても、将来的なまちづくりの指針となることは疑いなかろうと述べており、場所と集合的記憶との関係から地理学が何を実践しうるかを考える上でも示唆に富む一冊であると評している。

     本研究では、大阪市港区における場所の記憶を基にした地域活動に着目し、日本の文脈で場所の力の議論を展開する可能性について提示する。

    2.大阪市港区における朗読劇の実践

     大阪市港区では2008年と2009年に、市岡パラダイス(大正末期から昭和初期まで大阪市港区にあった娯楽施設)を舞台とする朗読劇『お守りの言葉』が上演されている。この劇は、脚本を担当した舞台女優A氏と、港区役所職員、港区の住民、港区への通勤者で構成されるチームが制作した。出演者全員が港区に関係する人物であるように、朗読劇の制作と上演を通じて、地域活動の活性化が目指された。本研究では、朗読劇を制作したチームや、NPO法人南市岡地域活動協議会などに対して実施した聞き取り調査の情報を用いる。この情報から、港区の住民が市岡パラダイスに対し、どのような記憶を有していたか、作品がどのような経緯で誰によって作られたか、劇の制作者や鑑賞者がどのような場所の記憶を生み出し、地域への愛着を高め、地域活動へ積極的に参加するようになったかを明らかにする。

    3.考察

     地域活動の活性化を目指した朗読劇の実践は、場所の記憶を視覚化することを通じて、成功を収めた。日本の都市と、ハイデン(2002)が事例とするロサンゼルスとの間では、人種問題のように、社会背景が異なる面がある。日本では、戦災や再開発によって都市の景観が目まぐるしく変容する中で、忘れ去られた場所の記憶を掘り起こすという文脈がある。場所の力を日本の文脈で議論することは、日本における地域活動の活性化の手掛かりになると思われる。

  • ベトナム・メコンデルタのエビ養殖者を事例に
    皆木 香渚子
    セッションID: 334
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    Ⅰ.はじめに

     ベトナムにおけるエビ養殖業は、農村部の貧困緩和や雇用創出といった経済効果をもたらしてきた。一方、エビの感染症の蔓延、国際市場の価格変動に対する脆弱性、気候変動に伴う養殖環境の悪化等、経済的環境的なリスクへの対策が喫緊の課題である。 近年、南側諸国の農業分野ではデジタル技術を活用した課題解決アプローチが注目されている。本研究では、ベトナム・メコンデルタにおける主な生産主体である小規模養殖者が、どのようにデジタル技術を利用して経済的環境的なリスクを吸収しているのかを、彼らのSNSを介した情報交換の実態を分析し、考察した。

    Ⅱ.調査方法

     ベトナムで最も利用者人口が多いSNSであるFacebookを分析対象とした。Facebookのサイト内で「エビ養殖(nuôi tôm)」と検索し、ヒットした複数のグループの中から、養殖エビの生産量の上位3省であるカマウ省、バックリエウ省、ソクチャン省の省名がグループ名に入っており、参加者人数が最多のグループの投稿内容とコメントを取得した。その中から、「いいね」の件数が毎月上位10位までの投稿、全1088件を抽出し、その内容を分析した。 

    Ⅲ.結果

     投稿の内容に従うと、養殖資材の宣伝、エビの取引、養殖技術の共有、意見、求人の5つに分類ができ、さらに情報の流れに従うと、以下の3種類に分類することができた。 「フィードバック型」の情報の流れが養殖資材の宣伝とエビの取引に関する投稿で確認できた。企業による養殖資材の宣伝に対して、品質や使い勝手などの情報がフィードバックされていた。また、仲買人による取引条件を比較することができるだけでなく、コメント機能を用いて取引条件を交渉するケースも見られた。 養殖技術の共有、意見の投稿は「多方向型」に分類できた。気象変化に応じた適切な養殖池の管理方法やコロナ禍での国際的なエビ需要の変動についての情報が地域を越えて幅広く共有され、Facebook利用者は、自分自身が直面するリスクや生産条件に応じた情報を取捨選択することが可能であった。  「外部拡散型」の情報の流れは求人の投稿に顕著であった。メコンデルタ内外の水産加工会社もしくは養殖者による養殖池の季節労働者を求める投稿はFacebookグループ外に「シェア」される件数が多く、その結果、Facebook利用者は、ベトナム中南部という広域での求人情報を得ることが可能となっていた。

    Ⅳ.考察・結論

     メコンデルタのエビ養殖者にとってSNSの利用は、従来のような政府による一元的・地域限定的な情報だけでなく、個別の世帯レベルで必要とされる情報へのアクセスを可能とした。このことが、小規模生産者が多数を占めるエビ養殖業にとって、世帯レベルでのリスク軽減に貢献していると考えられる。

  • 橋本 雄一
    セッションID: S303
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    本稿は「地理総合」における地図/GIS教育の実践と課題について報告する。日本学術会議の提言「地理教育におけるオープンデータの利活用と地図力/GIS技能の育成」では,現代社会において地図を活用する能力は不可欠であるため,国民の地図リテラシー教育が必要であることが指摘された。2022年度から始まった「地理総合」の「A 地図や地理情報システムで捉える現代世界」は,この要望に対応するものである。また,「C 持続可能な地域づくりと私たち」では,地図/GIS教育の成果を活用できる。しかし,「地理総合」の教科書では,地図/GIS関連のページ数は出版社ごとに異なり,内容もICT環境を活かしたものや,紙媒体を中心に概念を理解させるものなど様々である。そのため地図リテラシー教育も,教科書や授業にあわせたものとなり,どこまでの教育が必要かは議論が必要である。学校や生徒のPCにGISのソフトウェアをインストールすることは困難な場合が多い。しかし近年,地理院地図,RESAS,jSTAT MAP,MANDARA JSのような手軽にGIS教育に利用できるウェブサイトが整備され,教育用コンテンツは充実しつつある。このような中で,多くの高校では,身近で生徒の興味を引くテーマを設定し,工夫を凝らした授業が行われている。例えば,生徒に地図を見せたり描画させたりするだけではなく,作成した地図を用いて発表させたり,生徒同士で議論させたりして社会的な課題を抽出することなどが報告されている。新学習指導要領では指導と評価の一体化が推進されており,「知識・技能」,「思考・判断・表現」,「主体的に学習に取り組む態度」の3観点が設定されている。そのため今後は,「地理総合」や地図/GIS教育で,どのように3観点での評価を行うべきか議論が必要であり,特に「主体的に学習に取り組む態度」については授業実践の中での具体的な検討が求められている。大学における高校地歴の教員養成の授業では,必修科目が「地理総合」の内容に対応していることが望ましい。しかし,必修科目として「地理総合」に対応した地図/GIS教育を行う大学は一部であり,ほとんど学ぶ機会がない大学もある。また,地図/GIS教育を行う授業があるものの必修ではないため,地理に興味を持たない学生が履修しない場合がある。このように大学によって地図/GIS教育を行う環境には差があり,それが高校での授業の違いに結びつく可能性がある。そのため大学での教員養成では,高校地歴の教員免許を取得する学生に対して GISを含む「地理総合」の内容に対応した必修科目を用意し,最低限の地図/GIS教育を受けさせる体制が必要と思われる。「地理総合」の必履修化により高校生全員が地図やGISを学ぶようになって,地図リテラシーの向上を図る体制が整いつつあり,それは地理空間情報活用推進基本計画(第4期)などでも期待されている。社会的な期待が高まる中で,授業における地図/GIS教育の評価や,教員の養成について,実践を交えながら議論を積み重ねる必要がある。新学習指導要領ではコンピテンシー(competency)が重視されるようになり「何を知っているか」から「何ができるようになるか」への転換が図られようとしている。これに対応して「地理総合」では,地図/GISのリテラシーだけでなく,情報リテラシーやメディアリテラシーを組み込みながら知識活用や課題解決の力を修得させることが重要となっている。そのために教員養成の段階で知識活用や課題解決について考えさせる機会を作り,教育現場での観点別評価,特に「主体的に学習に取り組む態度」を適正に行えるようにすることが重要である。さらに,「地理総合」を核として,小中高大を通じて社会的に地図リテラシーを向上させる体制の構築が望まれる。

  • 秋本 弘章
    セッションID: S205
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    地誌学習は「暗記」中心であると,批判されてきた.もちろん基礎的な知識の暗記は重要ではあるが,それが地誌学習の本質ではない.変化の激しい現代社会においては、地理情報を収集・分析して、地域の解明を目指す地誌学習が重要になっている.こうした学習においては,ICTの活用が不可欠である.

  • 井田 仁康
    セッションID: S206
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

     地理的見方・考え方は、地理として事象をみる観点であり、地誌を学習するうえでも必要な観点を提供する。具体的には、位置・分布、場所、人間と自然環境との相互依存作用、空間的相互依存作用、地域の5つの観点が地理的見方・考え方となろう。この地理的見方・考え方は、地理における系統学習であっても地誌学習でもあっても共通する観点である。地誌学習というと日本および世界の地理的知識を習得するものと思われがちだが、地誌学習においても地理的見方・考え方は基盤となる観点である。

     地誌は、自然、人口、産業、文化などからその地域の地域的特性を明らかにしようとする。地理的見方・考え方は、それぞれの自然や人口、産業、文化などを分析、考察する際の観点を提示するものであり、むしろ地誌学習を構成するものの一つといよう。 地理的見方・考え方は、位置・分布、場所、人間と自然環境との相互依存関係、空間的相互依存作用、地域といった5つの観点からなるが、これらの観点は、地誌を分析する際の観点でもある。ある地域の特性を見出そうとする際には、まずは、その地域がどこにあり、その地域のある地理的事象はどのように分布しているのかを把握する。例えば、人口に着目すれば、その地域の人口分布をみることにより、なぜ人口が集中したり過疎化したりしているのか追究する糸口となる。さらには、自然環境といった自然的特性および産業、文化などの人文的特性からその場所の特性を明らかにしようとする。また、その地域の自然環境と人間の活動とのかかわり、その地域と他地域との交流などからその地域の特性を明らかにしようとするだろう。加えて、その地域がどのように変化してきたのかを追究しながら、その地域の特性を明らかにしようとする。こうした観点は、地理的な見方・考え方であり、そこで明らかにしようとしているのは、その地域の特性である。すなわち、それは地誌にほかならない。す なわち、地誌学習において、地理的見方・考え方は必然的に着目されるものなのである。

     地図やGISが、地誌学習の方法あるいは手段として必要不可欠なものであるように、地誌を分析、考察する際の必要不可欠な観点が、上述したように地理的な見方・考え方といえる。すなわち、地誌を学習する際の観点として地理的な見方・考え方があり、その見方・考え方の基盤に地図があり、見方・考え方を深めるGISがあり、それらが相まって地誌学習が深まっていくものと考えられよう(図1)。 地誌は、その地域の知識のみを学ぶものではなく、その地域の地域的特性を見出し、その地域を深く理解するものである。そのためには地理的見方・考え方という観点と地図やGISといった手段が有機的に結びついた地誌学習がもとめられるのである。 地理にとって地誌学習は系統地理学習とともに地理を支える主要なアプローチである。高等学校で必履修化になった「地理総合」は主題学習であるといわれる。主題学習は、地理では地誌学習と系統地理学習を基盤としているもので、さらには主題学習から、さらに専門性を高めるために、バージョアップした地誌学習や系統地理学習へと移っていくのである。

  • 井田 仁康, 村山 朝子, 久保 純子, 橋本 雄一, 竹内 裕一, 中澤 高志, 須貝 俊彦, 由井 義通
    セッションID: S301
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

     高等学校での必履修科目「地理総合」が今年度から始まった。一方で、高等学校における地理教育の新たな課題や、小学校から中学校、そして大学における地理教育の課題もでてきている。そこで、本シンポジウムでは、「地理総合」をはじめとする地理教育の課題を実施形態および自然地理・環境防災、地誌国際理解、地図/GISといった学習内容、さらには大学教育までを含めて整理し、持続可能な地理教育とするための議論をしていく。なお、本シンポジウムは令和2年(2020年)8月に日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会が発出した提言「「地理総合」で変わる新しい地理教育の充実に向けて-持続可能な社会づくりに貢献する地理的資質能力の育成-」の検証および学術会議第25期(2020年10月から2023年9月)の地理教育分科会としての意思の表出に向けた議論の意義をも持ち合わせている。

     上述した学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会は、地理教育が文系、理系の双方にかかわることから、文理融合の分科会となり、それぞれの課題に対応した5つの小委員会を有している。すなわち、学校地理教育小委員会、地図/GIS教育小委員会、地誌国際理解教育小委員会、自然地理学・環境防災教育小委員会、大学地理教育小委員会である。本シンポジウムでは、それぞれの小委員会が、地理教育の課題として議論してきた内容を発表し、さらに議論を踏まえ、意思の表出としてまとめたいと考えている。

     上記の5つの小委員会では、それぞれ焦点を絞って課題調査なども踏まえて課題を整理した。本シンポジウムでは、それぞれの課題を踏まえての5本のテーマの発表をおこなう。なお、( )内は関係する小委員会である。

    ・始まった地理総合の効果的な支援に向けて-地理総合に 関するWEBアンケート・カリキュラム調査の最終報告-(学校地理教育)

    ・地理総合におけるGIS教育(地図/GIS教育)

    ・報じられる地理総合、教えられる地理総合―国際理解と国際協力について―(地誌国際理解教育)

    ・自然地理教育の実践から明らかになった課題とそれをふまえた環境防災教育への展望(自然地理学・環境防災教育)

    ・私立大学の新課程入試への対応について-高等学校地理歴史科教員免許の課程認定を受けている大学の事例(大学地理教育)

     教育には終わりがない。地理が高等学校で「地理総合」として必履修化されても、高等学校の地理教育が完成したわけではない。制度、学習目的、学習内容、学習方法などからのさらなる課題がでてくる。高等学校だけでなく、小学校から大学までの地理教育の改善点はまだまだ多い。しかし、その時々の課題を克服し、新たな課題を見出していくことが教育としての進展であるともいえる。その時々の課題を検討し改善していくことで、持続可能な社会にとっての地理教育、子どもにとって意義の深い地理教育、人々がWell-beingとなる地理教育へと邁進していくことになる。

  • 小松原 琢
    セッションID: P002
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1. はじめに

     宇治川は音羽山地南部を横断しており,先行谷区間を中心として断片的ながら厚い堆積物をもつ段丘面が認められている.筆者は,大津市大石曽束から宇治市街に至る区間の段丘を対比し,段丘縦断面形を求めた.

     2. 方法

     断片的な段丘面を対比するため,踏査に当たっては特に,1)表土と基質の色調,2)礫の風化程度,3)堆積物の厚さ,4)段丘面の形態と礫種,に特に注意した.当地は狭い河谷中に発達する地形面であり,支流系ないし斜面性の地形面と本流系の段丘面を識別することが要求される.このため,国土地理院所有の高精度レーザースキャナー測量DEMデータをお借りして地形面の傾斜方向を確認すること,および本流より供給されたことが明らかな礫によって堆積物が構成されることを確認すること,に留意した.また,当地は必ずしも露頭に恵まれているとは言えないため,適宜鍬で露頭を作って堆積物の性状を確認した.

     3. 結果

     宇治川の段丘面は,高位より,①マンセル色表示で2.5~5YR4/8~5/8の色調の表土を伴い,クサリ礫を多く含む,厚さ3~5mの砂礫層によって構成される高位面群,②5~7.5YR5/8~6/8の色調の表土を伴い,クサリ礫をほとんど含まないものの,花崗岩礫は長石が強く風化して表面が凸凹しており,砂岩礫は表面数mmが酸化した礫を含み,厚さ10m以上(最大30m)に達する厚い砂礫および泥層によって構成される中位1面,③明褐色表土を伴い,厚さ数m以下の砂礫層によって構成される中位2面,に区分される.高位面群は,複数の面に細分できる可能性が否定できない。中位1面は礫の風化程度や厚い構成層によって形成されていることなどから,他の段丘面と明確に識別できる.

     4. 中位1面構成層の花粉分析結果

     平等院南の中位1面構成層中の弱有機質土より,温暖期の花粉群集が得られた.

     5. 変位地形と変動量

     宇治川河岸段丘は3つの並走する傾動帯・撓曲によって変位している.中位1面をKD-0ボーリング(木谷・加茂,2010)の最終間氷期層準(T.P. -25~29m)と対比すると,3つの活構造全体を併せた上下変位量は,約150~160mとなり,平均変位速度は1.3mm/年程度と推定される.この速度は現在得られている奈良盆地東縁断層帯の平均変位速度(文科省研究開発局・京大防災研究所,2022)の中で突出して大きな値である.

     出典

    木谷幹一・加茂祐介 2010.京都盆地南部で掘削されたKD-0コアの海成層層序の再検討.地球科学 64:99-109. 文部科学省研究開発局・京都大学防災研究所 2022.『奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測 令和元年度~3年度報告書』印刷中.

     謝辞:本調査は文部科学省研究開発局の委託による「奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測」の一環として行ったものである.詳細地形判読・段丘面高度測定に当たっては,国土交通省国土地理院からは同院が管理する航空レーザー測量データ利用の許可をいただいた.花粉分析は有限会社アルプス調査所の本郷美佐緒博士によってなされた.以上の関係者の皆様に感謝申し上げます.

  • 大久保 優, 赤坂 郁美, 平野 淳平, 財城 真寿美, 三上 岳彦
    セッションID: P008
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1.はじめに

     地球温暖化が顕在化する以前の19世紀後半の気候については、気象庁の一部地点の観測データを使用した分析に加え、気象庁による観測開始以前の非公式な古気象記録を用いた解析が行われている(Zaiki et al., 2006)。しかし、先行研究では単一もしくは、数地点のデータにもとづく解析が多く、広域的な気候要素の分布に関する解析は困難であった。そこで本研究では、19世紀後半から広域で気象観測を行っていた灯台気象観測記録(饒村,2002)の気温と気圧のデータを使用し、1878~1886年冬季(12~2月)の気候について、西高東低型気圧配置の強弱と気温との関連性を明らかにすることを目的に解析を行う。

    2.使用データと解析方法

     灯台気象観測記録(以下、灯台気象記録)は、1878~1886年の気圧と気温の月平均値を使用した。月平均値は、9時と21時の観測値を平均した日平均値をもとに算出した。使用地点は、1878年から観測記録が存在する北海道から九州の13地点である(図1右)。 13地点の灯台気象記録から求めた気圧差や気温偏差をもとに冬季の気候について解析することの妥当性を判断するために、気象庁の1961~2020年の気温と海面気圧の月平均値も使用した。使用地点は、灯台気象記録の観測地点と近接し且つ長期的な記録が存在する13地点(図1左)である。 まず、冬季の月平均気圧から西高東低の冬型の気圧配置の強弱の指標を算出するために、1961年以降に関しては下関と函館の気圧差(下関―函館)、灯台に関しては部崎と函館(部崎-函館)の気圧差を算出した。これをもとに1961年以降に関しては気圧差の上位5年と下位5年を抽出し、各地点の月平均気温偏差(1961~2020年平均からの差)を算出した。1878~1886年に関しては、各年の月平均気温偏差(1878~1886年平均からの差)を算出し、気圧差との関係を気象庁データから求めた気温偏差分布と比較し考察した。

    3.結果と考察

     1961~2020年は正の気圧差が大きい年に、西日本を中心に気温の負偏差がみられた。この傾向は西高東低型気圧配置が強まり、平年よりも気温が低下した影響と考えられ、特に1月の分布に顕著にみられた(図1左)。一方、正の気圧差が小さい年や負の値を示す年には、全国的に気温の正偏差がみられた(図略)。この傾向は、西高東低型気圧配置が弱まる、もしくは不明瞭なことに伴う気温上昇に対応することが示唆される。一方、灯台気象記録では、正の気圧差が大きいほど気温が低下する傾向が2月を中心にみられ(図1右)、気圧差が小さい年や負の値を示す年には、気温の上昇傾向がみられた。 灯台気象記録と気象庁データを比較した結果、冬型気圧配置の強弱と気温変動との関連が明瞭になる月が異なることが判明した。今後はこの要因についての解明を目指す。

  • ―広島県における1945年9月枕崎台風を事例に―
    岩佐 佳哉, 熊原 康博
    セッションID: 236
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1.はじめに 1940年から1960年までの日本では,死者が500人を超える土砂災害が頻発した。この時期の災害の多発や被害拡大の要因として,山地に生じた裸地(いわゆるハゲ山)や森林荒廃の存在が指摘されてきた(佐藤ほか,1949;河田ほか,1992など)。特に,1945年の枕崎台風は終戦直後に西日本を襲い,明治以降の土砂災害で最も多くの死者を出した。花崗岩が広く分布する広島県では6,000箇所以上で斜面崩壊が発生し(岩佐,2022),2,169人の死者が生じた(岩佐ほか,2021)。当時,花崗岩地域の山地には裸地が広がっていたことから,斜面崩壊が多発した要因の一つとして裸地の存在が指摘されてきたが(広島県土木部砂防課編,1951;河田ほか,1992),裸地と斜面崩壊との関係について定量的な検討は行われていない。 本発表では,斜面崩壊と裸地の分布を比較し,その関係を定量的に検討した。

    2.対象地域 枕崎台風の際に斜面崩壊の発生密度が大きかった広島県廿日市市,江田島市,東広島市のうち約130 km2を対象とする。このうち,廿日市市と江田島市の斜面崩壊の発生密度は最大で86個/km2,東広島市では最大で37個/km2であった。廿日市市と江田島市の地質は花崗岩からなり,東広島市には花崗岩と流紋岩が分布するため,地質による斜面崩壊と裸地の関係の違いを検討することができる。

    3.研究方法 裸地の分布を明らかにするために,1947年から1948年にかけて米軍が撮影した空中写真の実体視判読を行った。判読に使用した空中写真は約30,000〜40,000分の1である。判読の際には,尾根や斜面に広がる裸地をいわゆるハゲ山としての裸地として認定し,空中写真から生成したオルソ画像の上にその範囲をマッピングした。 岩佐(2022)による斜面崩壊のデータを使用し,斜面崩壊の発生密度と裸地の面積との関係を1 km2メッシュごとに集計した。また,崩壊源と裸地との最短距離を集計し,裸地と斜面崩壊との関係について検討した。

    4.斜面崩壊と裸地の分布との関係 対象地域において,裸地は約2,300箇所に分布し,その面積は約4 km2である。多くは尾根にのみ分布するが,廿日市市の中津岡川右岸では山地斜面にまで裸地が分布する。裸地は花崗岩地域に広く分布し,流紋岩地域では限られる。 斜面崩壊の発生密度と裸地の面積の相関関係を検討すると,弱い正の相関が認められ(相関係数r=0.347),裸地が広く分布するような荒廃した山地では斜面崩壊が発生しやすいことを示唆する。特に,廿日市市では,裸地が広く分布する中津岡川右岸で斜面崩壊が集中的に発生している。また,地質別にみると,流紋岩よりも花崗岩で相関係数が大きい。 斜面崩壊の崩壊源から裸地までの距離を集計すると,5 mから10 mまでの範囲に斜面崩壊が最も多く分布し,距離が離れるにつれて崩壊の数が減少する。裸地に近接した場所で斜面崩壊が発生していることを示しており,裸地から谷頭凹地に土砂が供給されたことが要因として考えられる。大丸ほか(2014)は山口県防府地域において,2009年の土石流から過去の裸地までの距離が20 mから30 mの範囲で崩壊面積率が最大となることを報告しており,裸地が斜面崩壊にもたらす影響は長期に及ぶ可能性もある。

    文献:岩佐 2022,JpGU2022年大会発表要旨.岩佐ほか 2021,広島大学総合博物館研究報告13: 123-135.河田ほか 1992,京都大学防災研究所年報35: 403-432.佐藤ほか 1949,地学雑誌57: 54-59.大丸ほか 2014,2014年度日本地理学会春季学術大会発表要旨.広島県土木部砂防課編 1951,『昭和20年9月17日における呉市の水害について』.

    付記:JSPS特別研究員奨励費(JP20J22288)の助成を受けた。

  • 須貝 俊彦, 山野 博哉, 南雲 直子, 長谷川 直子
    セッションID: S305
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1. はじめに 2022年4月に、必履修科目「地理総合」の授業が始まった。開始年度に出版されたすべての「地理総合」の教科書(5社、A~Fの6種類)を対象に、学習内容を調べ、各社が公開している推奨シラバス案を参照した結果、1学期に自然地理、2学期に地球環境問題、3学期に防災を学ぶ生徒が多いと予想された。 そこで、数名の高等学校社会科地理教諭にご協力いただき、1学期の自然地理学習終了後にロングインタビューを実施して、「地理総合」を教え始めて明らかになったことや、2,3学期に向けての課題について調査することにした。シンポジウムでは、調査結果を整理し、「地理総合」における自然地理教育の現状と課題、および、それをふまえた防災環境教育への展望について中間報告する。

    2.インタビューのねらい 「地理総合」は、始まったばかりであるが、実施体制が定まり、生徒の反応や学習達成度を現場で確認できる状況にある。加えて、従来の系統地理(「地理A」)の柱の一つであった地形・気候を中心とした自然地理学習が、既に進められている。系統地理的な知識や考え方は、2学期以降に展開する防災・環境教育、国際理解教育、持続可能な開発のための教育(ESD)の地理学的基礎として位置付けられるべきものである。災害脆弱性の克服、温暖化対策、自然資源の持続的利用などの課題学習を深めるための科学的な枠組みとして、地形・気候等で構成される自然環境システムや生態系の概念を分かりやすく教授することが求められる。 こうした新たな位置づけによって、従来の学習では気づかなかったポイントや重視すべき内容を、1学期の終了にあわせて仮総括し、「地理総合」の学習効果を高めるうえでの留意点を明らかにすることをねらいにする。

    3.インタビュー調査の内容 以下の内容を中心としたインタビューを行う。 ① 勤務先での地理教育体制 ② 「地理総合」になって変わった点 ③ 1学期に自然地理を教えた感触、反省 ④ 2学期以降の環境や防災に向けての準備状況 ⑤ 補助教材として必要なもの ⑥ 大学教育や地理学界へ期待すること 今回の調査の規模は限定的であるが、私立、公立(都立、県立、国立)、共学、別学、中高一貫など、多様な高等学校の先生方に協力いただく予定である。系統地理学習を基礎に、1年間かけて、防災教育やSDGs学習を展開していく新しい教授方法を確立するための重要な局面にあると考えられる。そこで、今回の調査では、「地理A」「地理B」の教授経験を有し、地理を専門とされる先生方の意見を伺うことに主軸を置いた。 まずは、あるべき姿をクリアにして、次のステップとして、歴史や公民の先生が「地理総合」を受け持つことに起因する課題や、すべての生徒の学習意欲を高めるための工夫など、現場が抱える諸課題へのアプローチを考えたい。

  • 天神地下街を事例として
    安田 奈央
    セッションID: P022
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    地下街は,主に二つの機能を持ち,一つは公共通路的機能,二つ目は百貨店や地上商店街のような商業機能である. 地理学では,主に商業機能に着目した研究が行われてきた(杉村1983).公共通路的機能が地下街の商業機能の特徴に深く関係していることが示唆されたが,管見の限り地理学における地下街研究は山澤(1986)以降行われておらず,現代における地下街の実態は明らかにされていない.

     そこで,本研究では地下街の内部の変化と都心における地下街の役割を明らかにすることを目的とし,地下街の周辺施設とも関連づけながら考察する.また,地下街という公共的かつ商業的空間における人々の利用形態の変化を考察する.地下街の公共通路的機能に着目し,地下街の歩行空間をネットワークグラフとして捉え,歩行者の移動利便性を考慮する点や,地下街の長期的な変化をみる点で新規性があり,約35年間空白である地理学の地下街研究の更新と現在における地下街の課題の発見に貢献できると考える.

     研究の対象である天神地下街は,福岡市の都心の一つである天神に位置している.都心部の地上交通の緩和と歩行者回遊性向上を目的とし,1976年に開業した.その後,地下街と接続する福岡市営地下鉄空港線天神駅が開業し,2005年には地下鉄七隈線天神南駅の開業とともに,地下街の延伸が行われた.地下街の大規模な延伸は全国でも珍しい.

     天神地下街の構造や利用状況の変化,周辺施設との関係から,天神地下街は天神地区の個々の施設を繋ぎ,天神地区を一つの商業空間・都市空間としてまとめる役割を担っているといえる.この役割を担うためには周辺施設をつなぐ通路としての機能だけでは成り立たず,利用者を惹きつける商業機能も必要である.天神地下街はその二つの機能と、周辺施設との良い位置関係を持ち合わせており,都心天神において重要な施設となったといえる.しかし,地下街内部を細かくみると,特に2005年の延伸後において,地下街店舗とその周辺の施設の利用に偏りが生じていることが示唆された.今後,天神地下街がより長く利用され続けるためには,地下街の公共通路としての機能を考慮した商業機能の強化が必要であろう.

  • CIA機密解除文書を用いた試行
    原 裕太, 佐藤 廉也
    セッションID: 414
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1. 背景と目的

     1950~1960年代における発展途上国等の地表面環境を高分解能で把握する重要なツールの一つに米国の偵察機U-2による偵察空中写真がある.米軍偵察衛星による撮影頻度が比較的低い1960年代前半以前は,土地被覆を把握する有力な選択肢であり,1960年代以降は偵察衛星を補う目的で撮影が続けられ,貴重な情報が蓄積されている.しかし,機密解除された写真フィルムはアーカイブ化が進んでおらず,近年当該写真を紹介する先行研究がいくつか発表されているものの(Sato et al. 2016; Hammer and Ur 2019),経路,頻度の全容解明は道半ばである.本研究では U-2に関する米国中央情報局(CIA)の機密解除文書を用い,東アジア,中央アジアにおける偵察飛行の地理的特徴の解明を試みた.

    2. 対象地域と調査資料,研究方法

     主な対象は日本,中国,朝鮮半島,ヒマラヤ山岳地域,中央アジア(ソ連領)である.調査資料は米国情報公開法により開示されたCIA機密文書で,当局の電子データベースにミッション名等を入力して網羅的に収集した.なお開示資料には現在も白塗りの非公開情報が多数含まれる.また一部飛行経路は米国立公文書館Ⅱで収集した.得られた経路情報はArcGISで線データに変換し密度解析を行った.

    3. CIAによる世界でのU-2偵察回数(国・大地域別)

     まず,CIAによる偵察飛行の実施回数を示すとみられる一覧表を発見した.当該表では「ソ連」「衛星国(東欧)」「中東」「インドネシア」「ラオス・ベトナム・カンボジア」「NEFA・ネパール・チベット・中国」「北朝鮮・マンチュリア」「キューバ」「南米」の9地域に区分されていた.

     最多の偵察は1950年代後半の中東で,次に1958年のインドネシア,さらに1960年代のキューバと中国の順であった.ヒマラヤ~中国は1958~1960年と1962年以降に偵察され,1962年以降は継続的に20回/年近く偵察されたとみられる.

    4.国未満の空間スケールでの飛行経路と頻度の傾向

     1957~1963年の期間,上記偵察回数に対して実際に飛行経路を把握できたミッションは,中国~ヒマラヤ~朝鮮半島が93.1%(53/58),ソ連領が76.2%(16/21)であった. 重要な発見として,偵察頻度の高い地域が,台湾海峡周辺(>10回)の他に内陸部でも複数抽出された.具体的には,甘粛省中部,チベット自治区東部,ヒマラヤ山岳地域が最も高く(>6回), 次に四川盆地,東南アジア諸国と中国の国境地帯,カシミール~新疆西部等が挙げられた(>4回).

     また,対ソ連ミッションに関して,大地域別のリストでは記載のないモンゴル領内でも偵察飛行が実施されたこと,対ソ連ミッションのなかで偵察機が新疆やチベットにも飛行していたこと,アラル海やシルダリア川沿い,キルギス等でも複数回にわたり飛行が試みられたこと等を確認した. 以上は,U-2偵察写真の利用可能性を,国未満の空間分解能で議論,検討することをはじめて可能にする成果である.

    文献

    Hammer, E. and Ur, J. 2019. Advances in Archaeological Practice 7(2):1-20.

    Sato, R., Kobayashi, S., and Jia, R. 2016. Teledetekcja Środowiska Tom 54: 61-73.

  • 大森 直登, 飯島 慈裕
    セッションID: 315
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    近年、地球規模の温暖化が進行しており、特に北半球の

    高緯度地域ではその影響が顕著に現れている。2005 年から

    2008 年にかけて、東シベリア・レナ川中流域では夏季から

    秋季にかけての降水量の増加がみられた。夏季の降水量の

    増加は、永久凍土表層の融解を伴って活動層を厚くすると

    共に、活動層内の土壌水分量の大幅な増加をもたらした。

    その結果、土壌の過剰な湿潤化によって湛水状態が続き、

    地表面上に生育する北方林の生育環境を悪化させ、森林の

    荒廃が進行した(Iijima et al.,2014)。

     飯島ほか(2013)では、永久凍土並びに森林の荒廃をもた

    らす一連の現象を継続的・広域的に捉える手法として、異

    なる年代(2007 年から 2009 年)の ALOS/PALSAR 画像の

    後方散乱係数を使用した解析が有効である可能性を示した。

    しかし、2010 年以降の情報を加えて広域的な水域・植生変

    化域を抽出はされていない。そこで、本研究では、上記の解

    析手法を用いて東シベリア・レナ川・中流域の 2007 年から

    2017 年までの時系列水域・植生変化域図を作成することを

    目的とし、経年的な解析の有効性について検討を行った。

     本研究では、JAXA が打ち上げた人工衛星 ALOS/ALOS-2

    に搭載されている合成開口レーダ PALSAR/PALSAR-2 が取

    得した 2007 年から 2017 年のデータのうち、夏季(7 月か

    ら 9 月)に取得された計 16 シーンのデータを用いた。

     ALOS/PALSAR および ALOS-2/PALSAR-2 が取得したデ

    ータから後方散乱強度画像(dB 値)を作成し、スペックル

    ノイズを軽減するために平滑化処理を行った。平滑化処理

    は 5×5 ピクセルの平均値を求め、平均値を中心ピクセルに

    付与した。平滑化処理後、2007 年時点の画像と、2009 年と

    2007 年の差分画像および 2009 年時点の画像と、2015 年・

    2017 年と 2009 年の差分画像の閾値に基づき、水域・植生変

    化域の抽出を行った。閾値には、飯島ほか(2013)が設定し

    たものを使用した。

     マイクロ波の後方散乱係数の閾値をもとに、解析対象地

    域の ALOS/PALSAR および ALOS-2/PALSAR-2 画像を分類

    し、2007 年から 2009 年および 2009 年から 2015 年・2017

    年の時系列水域・植生変化域図を作成した(図 1)。加えて、

    水域・植生変化域の凡例別の面積割合を算出した。

    夏季降水量の増加に伴い、永久凍土の融解が進み、土壌

    の湿潤化がみられた 2007 年から 2009 年においては、森林

    (湛水弱+衰退)の割合が最も高い結果となった。以降、経

    年的に森林(湛水弱+衰退)の割合は減少し、2009 年から

    2017 年には、森林(湛水なし+回復)の割合が最も高くな

    った。これは、2005 年から続いたような湿潤年が近年は起

    こっていないことが要因として考えられる。一方で、回復

    傾向にある 2009 年から 2017 年においてもレナ川右岸では

    森林(湛水強+枯死衰退)に分類される地域が一部見られた。

    この地域において水域・植生変化の時空間特性をさらに

    明らかにするため、高解像度の DEM データによる地形解

    析や NDVI のトレンド解析を行うとともに ALOS シリーズ

    の他時期の画像を整備し、凍土荒廃と水域・植生判別の精

    度向上、変化域図の広域化を図りたい。

  • 森田 匡俊, 小野 映介
    セッションID: P031
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    現在の世界における人口分布についてみると、アジア地域への集中が認められる。そのアジア地域では、標高10m未満の臨海地域、すなわちLECZ(Low Elevation Coastal Zone)に多数の都市が立地しており、人口の集中が認められる。日本においても、そうした傾向は確認されている。ただし、日本における人口の垂直的分布を明らかにしたデータとしては、2000年の国勢調査をもとにしたもの(日本統計協会2010など)が最新であり、以後の動態については示されていない。

    本発表では、1995年・2000年・2005年・2010年・2015年の国勢調査をもとに明らかにした日本列島における人口の垂直的分布を提示する。このデータは、人々による居住地選択の傾向、自然災害に対する脆弱性などについて検討するうえでの重要な基礎資料となり得ると考える。

  • 増山 篤
    セッションID: 638
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    買い物、医療受診、娯楽などの活動機会を提供する施設へのアクセシビリティは、常に地理学と隣接する分野における重要な関心事であり続けてきた。具体的には、近づきやすさの程度を計量的に把握するためのさまざまなアクセシビリティ指標が提案されてきた。そして、実社会における近づきやすさに関する不公平や課題を解き明かすべく、さまざまな場所に対してアクセシビリティ指標を算出する実証研究が行われてきた。 アクセシビリティを左右する要因はいくつか考えられる。アクセシビリティ指標は、特に重要な要因を適切に組み入れた形で定式化される必要がある。私たちの生活は、一定の時刻までに自宅を出発し、一定の時刻までに職場や学校に到着しなければならない、といった時空間制約下におかれており、アクセシビリティはこれに大きく左右される。以下、時空間制約を考慮した指標を「時空間アクセシビリティ指標」と呼ぶことにする。 時空間アクセシビリティ指標を実証研究で用いるとなると、さまざまな場所に対してその値を繰り返し算出することになる。その際、時空間制約下にある個人に関する現実を反映させる必要がある。特に、私たちの移動行動が道路・交通網に規定されていることから、経路ネットワークを考慮すべきである。施設に関しては、その運営時間を考慮する必要がある。 また、時空間アクセシビリティ指標値の繰り返し算出は、可能な限り少ない計算量で実行できることが望ましい。特定の場所について時空間アクセシビリティ指標値を計算するには、そのときの時空間制約下で到達できる施設を特定したり、その施設で最大滞在可能な時間を算出したりする必要がある。その際、経路ネットワークを考慮するとなれば、何らかのネットワークアルゴリズムを実行することになる。特に工夫しない限り、時空間アクセシビリティ指標を多数の場所に対して計算するとなれば、その都度、Miller (1991) で提案された方法などのネットワークアルゴリズムを実行し直す必要が生じ、いかにも計算量が膨らむ。 さらに、時空間アクセシビリティ指標値の算出方法は、広く利用可能な形で実装できることが望ましい。特に、研究の再現性の担保という観点から、オープンな計算環境下でどのように実装されるかを明らかにすることが望ましい。 Delafontaine et al. (2012) などのいくつかの先行研究では、経路ネットワークを考慮した時空間アクセシビリティ指標を計算するためのアルゴリズムがいくつか提案されている。ただし、いずれのアルゴリズムも、活動機会を提供する施設の運営時間を考慮しなかったり、多数の場所について指標値を計算する際の効率性という視点に欠いたりするなど、改善や拡張の余地を残す。 多数の場所に対して時空間アクセシビリティ指標を算出した実証研究はこれまでにも少なからずみられる。これらでは、計算量が極度に嵩むことに言及していたり、分析が限定的・近似的なものとなることを余儀なくされたりしている。今後もこのような実証研究がますます重ねられるためには、時空間アクセシビリティ指標値の効率的な算出方法とその実装の詳細を明確化することが求められよう。 この研究では、経路ネットワークに対する前処理を行うことで、道路・交通網と施設の運営時間を考慮し、時空間アクセシビリティ指標を多数の場所に対して効率的に計算する方法を示す。また、この方法を、オープンソースプログラミング言語Pythonによって実装したケーススタディを示す。

  • 池田 誠
    セッションID: P026
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    災害が発生した際には、緊急支援活動や復興復旧のため、速やかに被災地の状況を把握する必要がある。しかしながら、アジア地域において甚大な災害が発生した場合、日本のように被災地を撮影する航空機を使用することが難しい場合が多い。また、豪雨による洪水など、被害が拡大した際は、正確な被災地域を迅速に把握することは困難で、大きな課題となっている。

    そこで、宇宙技術を活用した防災分野への貢献、地球観測衛星によって取得された衛星画像や、衛星画像を用いた解析図の提供は、この課題を解決する大きな手助けとなる。

    アジア太平洋域の自然災害の監視を目的とした、国際協力プロジェクトである「センチネル・アジア」は、同地域において災害が発生した際に、地球観測衛星を保有する日本、ベトナム、タイ、台湾、インド、シンガポール、アラブ首長国連邦などと連携し、災害時において衛星画像が撮影され、提供されている。また、アジア工科大学を中心とした研究機関が、提供された衛星画像を用いて解析図を作成し、被災国及び被災地域の関係機関にデータ提供を行っている。これら提供されたデータが、迅速な緊急支援活動や復興復旧活動に、役立てられている。この、「センチネル・アジア」を通じたデータ提供に関する支援活動は「緊急観測」と呼称され、2007年から活動が開始された。2020年12月時点において、341件の災害発生に対して、衛星画像や解析図のデータ提供が行われてきた。災害種別では洪水が48.9%と最も多く、地震が13.4%、地滑りが7.0%である。時期的な特徴としては、7月か10月の雨季におけて対応が集中している。国別でみると、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどの東南アジア諸国に対する対応件数が多い。これは、東南アジア諸国が他の地域(東アジア、南アジア、中央アジア、太平洋島しょ国など)と比較しても、災害の発生する頻度が高いこと、また、発生する災害の種類の多岐にわたることが原因であると考えられる。

    他方、災害時においてデータ提供が行われる一方で、解決すべき課題がある。ひとつは、アジア各国における研究機関と防災機関との連携である。上述した、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどは、国としての規模が大きく、災害頻発国であるという背景から、宇宙技術を防災分野に活かす、リモートセンシングや地理情報システム(GIS)に関する、大学等の研究機関での活動が比較的活発に行われている。また、国の公的機関として防災に関する省庁(例えば、防災省、防災担当局)が存在し、災害時の緊急対応や、啓発等の防災活動が積極的に推進されている。これら研究機関や防災担当部局の連携が強い国々がある一方で、アジアにおいては、関係機関の連携が不足している国や地域も多くある。これにより、提供されたデータが適切に共有されず、被災地にフィードバックされないという現状もある。もうひとつの課題は、提供されるデータに要する時間である。近年においては、データが提供されるまでの時間は改善傾向にあるが、それでも、災害発生から解析図が現地機関に提供されるまで、おおよそ5日の時間を要している。これは、災害発生から被災地の現地情報を得る時間を必要としていること、また、衛星画像を取得後に解析図を作成するデータ分析の時間を要していることが原因として上げられる。災害時においては、現地防災担当機関は支援活動等に多くの時間を要するため、国や地域を越えた、横断的な国際的連携の仕組みを強化することが重要であると考えられる。

    このような状況を鑑みて、現在においては、「センチネル・アジア」に参画している宇宙機関、大学の研究機関、各国防災担当機関は、国際会議を通じた情報交換や、初動手順書(SOP)の策定など、積極的な活動を行っている。且つ、被災地調査がより困難となっているコロナ渦において、リモートセンシング技術の有効的活用について認識を深め、「センチネル・アジア」の活動の重要性が周知され、よりよいネットワークの構築が進められている。

  • ~生活に密着した気候値を追究して~
    千葉 晃
    セッションID: P011
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では,1年間のうちに降水現象が観測される時間がどれだけなのか調査した.都内にあるアメダス府中を解析対象とした.降水のデータは,気象庁ホームページの気象統計情報のアメダス1時間値を使用する.解析対象期間は2009年~2021年までの13カ年と設定した.そこでの年間降水時間数は581時間(2013年)~811(2015年)時間であった.これらを百分率に換算すると年間8760時間(閏(うるう)年は8784時間)のうち6.63%~9.26%の範囲であった.午前7時と8時に注目してみる.1年間で午前7時に0.5mm以上の降水が確認できた回数は,25~34回,同様に8時は25~38回で総じて年間30回ほどであることがわかった.

  • オランダ・フリースラント州の初等教育における言語
    池庄司 規江
    セッションID: 337
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    2.背景

    地域言語(Regional Language)は,国家において公用語とされるコトバ以外の言語を指す。1992年に「多様性のなかの統合」を掲げて発足したEUでは,多文化主義に基づき多言語主義が採用された。これにより,国民国家の形成とともに広がった単一言語主義が,ヨーロッパの複言語主義を含む複文化主義政策下でダイグロシアまたはポリグロシアなものに揺戻されつつある。オランダの公用語はオランダ語であるものの,オランダ北東部のフリースラント州では地域言語であるフリジア語もまた公用語となっている。

    2.研究対象地域と研究方法

    2020年のオランダの総人口は1,740.7万である。このうち,65.0万人がフリースラント州居住者である。仮に,フリースラント州居住者全員がフリジア語話者と仮定すると,オランダ国内におけるフリジア語話者の比率は3.7%である。しかし,オランダにおける複言語主義は,ヨーロッパにおける展開よりも相当に早くから行われてきた(de Graaf 2016)。2022年現在,州内のすべての初等教育学校にフリジア語とフリジア文化の学習が義務づけられている。しかしながら,社会・経済的要因をはじめとした様々な要因により,フリジア語の継承はますます困難になっていることが指摘されている。そこで,言語継承機能を持ち合わせる学校教育における教育言語に着眼して,フリースラント州における地域言語(フリジア語)の現状について検討する。

    3.現状

    教育言語により州内の小学校を分類すると,モノリンガル・スクール,バイリンガル・スクール,トリリンガル・スクールの3つに分けることができる。図1はフリースラント州内の小学校における教育言語を示している。発表では,図1をはじめとした図表からフリースラント州における地域言語と教育言語の現状について報告する。

  • -浙江省湖州市の現地調査に基づいて-
    莫 勇強
    セッションID: 410
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    中国は改革開放政策の下で、今日まで高い経済成長を遂げてきた。しかし、農業は厳しい状況に置かれており、家庭請負制度下の小規模農家にとっては、市場への参入が難しくなった。小規模経営農家は、農産物販売や生産資材の購入において、企業等の農外資本に対抗することが非常に難しく、常に"弱者"の立場に置かれている。

    このような状況を解決するために、農業組織「農民専業合作社」(以下、合作社と略す)の設立が中国政府によって推進された。合作社は、生産性や品質の向上等を図り、小規模農家の競争市場へ参入をサポートすることができる。中国政府は、2006年10月に「農民専業合作社法」を成立(2007年7月1日から実施)させ、法人格を持った合作社が誕生し、合作社数も大幅に増加した。合作社の運営などが法律で保障されており、合作社の持続可能な発展に有利であると考えられる。

    本稿では、浙江省湖州市を事例に農民専業合作社の機能と組織形態を検討し、その特質と課題を明らかにした。

  • 「地域の在り方」を通して
    池下 誠
    セッションID: S203
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    平成29年に学習指導要領が改訂され,その総則に,予測困難な時代に一人一人の生徒が豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが示されるなど,ESDの視点を位置付けた指導がすべての教育活動に求められるようになってきた。

     豊かな人生を切り拓き持続可能な社会の創り手を育成するには,従来のような内容中心の学習ではなく,育成すべき資質・能力中心の学習指導を行うことが必要であるとされるようになった。そのため,すべての教科等で「主体的・対話的で深い学び」の授業改善が推進されるようになり,「深い学び」を実現する鍵として,それぞれの教科等で「見方・考え方」を働かせることが求められるようになった。

     そのため,平成29年版中学校社会科地理的分野の学習は,ESDの視点を位置付けるとともに,社会的事象の地理的な見方・考え方を働かせた科学的探究のプロセスを経ることを通して,個別的知識を概念的知識に高めること。それを踏まえて持続可能な社会に生きて働く資質・能力を育成することが求められるようになり,価値判断,意思決定する学習指導が求められるようになった。そのため,地理は地理科地理ではなく社会科地理であることが明確になったと言える。

     ところで,社会的事象の地理的な見方・考え方を働かせるには,どのような学習指導を行ったらよいのだろうか。地理は学部(学科)が設置された大学によって,理科系に含まれる大学と文化系に含まれる大学とがある。このように,地理は理科的な要素と社会的な要素の両方を兼ね備えた教科だといえる。しかし,地理の学習がどうあるべきかを考える際に,理科的な視点から考察した例は少ない。そこで,地理の学習指導の在り方を考えるに際して,理科ではどのような資質能力や学習方法が求められているのかを改めて考察することが必要だと考えた。

     理科では,自然の事物・現象を,質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え,比較したり関係づけたりするといった理科的な見方・考え方を働かせる際に,観察や実験などの科学的探究のプロセスを踏まえることが求められている。

     しかし地理では,理科が理科的な見方・考え方を働かせる際に重視している観察や実験にあたるプロセスについては,必ずしも重視されているとは言えない。観察や実験にあたるのは,地理ではフィールドワークにおける景観観察や地図における分布の考察などである。地域の景観を観察することや,地図の分布の変容などを捉えるには,ICTを活用することが有効である。そこで,「ICTを活用した中学校社会科地理的分野の授業実践-地域の在り方を通して-」について,発表したい。

  • 岡田 ひかり
    セッションID: 416
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では、農林水産省による食育推進計画の分類と財政力指数や完全給食実施率などで示される地域の食問題の実情を比較することで、食育推進上の課題を明らかにする。 食育基本法はBSE問題に端を発し、現在では生活習慣の改善や農林水産業の活性化など様々な食の問題の解決を図るものとなっている。しかしながら、すべての地域で食育基本法が扱う広範な問題意識が当てはまるかといえばそうではない。地域の産業基盤や医療基盤、学校などの地域の実情に応じて、地域の食問題は異なり、それに基づいた地域ごとの食育推進が望まれる。本論では農林水産省は都道府県・市町村食育推進計画の位置づけを基に分類を行っている。以下、これら自治体の食育推進計画の区分と地域の産業基盤や財政力指数、高齢化率といった地域の実情を具体的に比較する。 結果として、都道府県及び市町村食育推進計画の位置づけは必ずしも地域の実情と関連していないことが明らかになった。食育は政策であるがゆえに、それは問題解決手段でなければならない。地域の実情に応じた食育推進計画の作成が望まれる。また、都道府県と市町村の間では食育推進の姿勢が異なっている。都道府県と市町村間で重視する食問題は異なる場合がある。両者の効果的な関係を検討する必要がある。

  • 「地理総合」に関するWEBアンケート・カリキュラム調査の最終報告
    竹内 裕一, 浅川 俊夫, 志村 喬, 今野 良祐, 小橋 拓司
    セッションID: S302
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    「地理総合」に関するWEBアンケート・カリキュラム調査の最終結果に基づいて,新必履修科目「地理総合」の効果的な支援の在り方を報告する.

  • 南雲 直子, 傳田 正利, 原田 大輔, 小池 俊雄, 江頭 進治, 新屋 孝文
    セッションID: 240
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    洪水災害対応を十分に機能させるためには、住民や自治体関係者があらかじめ河川や洪水氾濫の特性を学んでおくことが重要である。この学びの基礎となるのは地理的な見方・考え方であり、避難の危機意識を醸成するための手段の一つとして、仮想現実(VR: Virtual Reality)に代表される可視化技術がある。本研究は、熊本県熊本市において、住民や関係者らを対象に仮想避難体験プログラムを提供し、洪水特性の理解や避難意識の向上に役立つか検証した。その結果、このようなプログラムは洪水災害のような非日常現象に関する想像力を養い、避難意識を高める学びの機会となるばかりでなく、地域を見つめ直し、強靭性や持続可能性を向上させる足掛かりとなる可能性が示唆された。

  • 「国際理解と国際協力」について
    中澤 高志
    セッションID: S304
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    Ⅰ.問題の所在  学習指導要領が想定する「地理総合」,あるいは地理教育研究者や指導的地理教育者が考える「地理総合」は,理想や理念としての「地理総合」である.いっぽう,社会的現実としての「地理総合」は,一般人が考える「地理総合」であり,実際に教室で教えられ,教わる「地理総合」である.「地理総合」の必履修化を契機として地理学に対する社会的関心が高まるか否か,さらには「地理総合」が今後も必履修の科目であり続けられるか否かを左右するのは,「地理総合」の理想・理念ではなく,その社会的現実である. 本報告は,社会的現実としての「地理総合」に関するパイロット・スタディである.一般人の「地理総合」観は,メディアの報道によって創り上げられる部分が大きいであろう.そこで,新聞報道を分析することにより,「地理総合」がどのような特徴をもつ科目であると認識されているのかを推察する.一定の期間が経過した後に,教員や生徒の経験から社会的現実としての「地理総合」について理解を深めることは不可欠である.ひとまず本報告では,「地理総合」の教科書分析を通じて,教室において教えられ,教わる「地理総合」の内容を予察する.時間的制約もあることから,本報告では,学習内容のうち,「国際理解と国際協力」に焦点を当てる. Ⅱ.新聞報道にみる「地理総合」  朝日,読売,毎日,日経各紙のオンラインデータベースから,現行の学習指導要領の骨子案が示された2015年8月から「地理総合」の授業が始まった2022年3月までに掲載された記事のうち,「地理総合」を含むものについて,計量テキスト分析を援用しつつその内容を分析した.  学習指導要領の改訂に伴って必履修化された「地理総合」の新機軸とされているのは,災害・防災を学ぶことと,GIS(地理情報システム)の技能を学ぶことである.学習指導要領に従い,日本固有の領土に対する政府見解が教科書に明記されることについて,竹島,尖閣諸島,北方領土などの具体的な地名を挙げて報じた記事も目立つ.いっぽう,「地理総合」の重要な柱であり,教科書において最もページが割かれている「国際理解と国際協力」に関しては,ほとんど触れられない.このように,「地理総合」にかかる新聞報道は,応用的側面と日本固有の領土に関する学習に偏った「地理総合」観を生みかねない. Ⅲ.教科書における「国際理解と国際協力」  「地理総合」の教科書における「国際理解と国際協力」の構成は,1社を除いてほぼ一致していた.生活文化の多様性を学ぶ「国際理解」の部分では,まず,生活文化の多様性をもたらす要因として地形や気候が取り上げられるが,自然地理学的内容を盛り込むための方便になっている例もままある.続いて,各地域の人間集団固有の生活文化を形成する要因として,言語や宗教,歴史が取り上げられる.そして,産業と生活文化の部分では,経済の発展段階に応じて生活様式が変化することが説明される.「地球的課題と国際協力」は,さまざまな「地球的課題」が,先進国と途上国で異なった現れ方をするといった整理になっている.  登場する順序とは前後するが,「地理総合」の教科書からは,生活文化の多様性=自然環境+発展段階+言語・宗教・歴史といった構造が見て取れる.アカデミックには単純すぎるきらいがあるにせよ,意識的にそうした構造の下で授業を組み立てるならば,法則定立的認識(自然環境と発展段階)と,個性記述的認識(言語・宗教・歴史)を併せ持った,生活文化の多様性の見方・考え方を養うことができるかもしれない.これに対して,「地球的課題と国際協力」については,先進国と途上国の区分に立脚して発展段階論に傾斜した説明になっていることや,言語・宗教・歴史との関連が深い民族問題などを取り上げる教科書が少ないことなど,改善の余地があると考える. 【付記】本報告は,日本学術会議 地理教育分科会 地誌・国際理解教育小委員会における議論を踏まえたものである.

  • 吉田 圭一郎, 比嘉 基紀, 石田 祐子, 若松 伸彦, 瀨戸 美文
    セッションID: 314
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    I はじめに

    自然撹乱は森林の更新動態に影響し,植生の空間分布を規定する.そのため,自然撹乱による森林破壊の状況やその後の植生回復を明らかにすることは,植生分布や森林生態系の成立機構を検討する上で非常に重要となる.しかし,大規模な自然撹乱は発生頻度が低く,これまで研究を行う機会は限られてきた.

    発表者らは,亜寒帯針葉樹林の空間分布やその成立過程を明らかにする目的で,2012年より利尻島を対象に調査研究を行ってきた.その中で,利尻岳西向き斜面において,ごく最近に強風による大規模な自然撹乱を受けて森林が広範囲で破壊された箇所を発見した.台風による撹乱の頻度が高い東アジアの亜熱帯林や温帯林に比べて,北東アジアの森林では強風による大規模撹乱は稀である.そのため,この大規模な自然撹乱は亜寒帯針葉樹林の成立過程を検討する上で貴重な機会になると考えた.

    そこで,本発表では,利尻岳西向き斜面における強風による大規模な自然撹乱の状況を,その発生要因とともに報告する.また,大規模な自然撹乱を受けた跡地での亜寒帯針葉樹林の更新動態を推察し,森林植生の空間分布との関連性を検討する.

    II 調査地と方法

    利尻島(N45°11’,E141°14’)は北海道最北部の日本海上にある火山島で,中央に成層火山である利尻岳(1,721m)が聳える.利尻岳には自然度の高い森林植生がみられ,山腹は標高500m付近の森林限界までトドマツとエゾマツが優占する亜寒帯針葉樹林が分布する.調査対象とした大規模な自然撹乱を受けた森林は,利尻岳西向き斜面の標高150~250mに位置する.

    大規模な自然撹乱による森林被害の状況を把握するため,本研究では小型無人航空機(UAV)を用いて取得した画像の判読を行なった.また,現地調査を行い,壊滅的な被害を受けた範囲の中に5×5mの方形区を5ヶ所設け,出現した木本種および常緑針葉樹の更新個体(樹高1m以上)の樹高を記載した.UAVによる画像取得および現地調査は2019年10月に実施した.

    III 結果と考察

    森林の被害面積は25ha以上の広範囲に及び,ほとんどの立木が被害を受けていた(写真1).また,UAV画像から倒木の方角は北東~東で,西〜南西からの強風が原因と考えられた.

    本泊のアメダスでは,発達した低気圧により2015年10月2日に最大瞬間風速43.7m/s(南西)を記録した.また,同じ低気圧による亜寒帯針葉樹林での大規模な撹乱がサハリンで報告されている(Korznikov et al. 2019 doi: 10.17581/bp.2019.08115).したがって,利尻岳西向き斜面における大規模な撹乱は,この低気圧の強風によるものと推察された.

    大規模撹乱の跡地では,エゾマツとトドマツの稚樹が10~20個体/25m2の高い密度で更新していた.樹高から更新個体の多くが撹乱を受けた直後に定着した4~5年生の個体と考えられ,前生稚樹が生長した樹高3~4mの個体も含まれていた.一方で,落葉広葉樹の更新個体は常緑針葉樹に比べて少なかった.これらのことから,この大規模撹乱の跡地には,今後,エゾマツ・トドマツによる一斉林が形成されていくものと考えられた.

    亜寒帯針葉樹林で大規模な撹乱が発生したのに対し,隣接するダケカンバ優占林での風倒木はほとんど見られなかった.このことは,強風による撹乱の受けやすさが,地形などの立地条件だけなく,森林の優占種によっても異なる可能性を強く示唆している.今後も継続調査を実施して亜寒帯針葉樹林の更新動態を明らかにするとともに,今回のような発生頻度の低い大規模な撹乱が植生分布に与える影響についても検討する必要がある.

  • 石巻市防災主任研修の成果と課題
    村山 良之, 桜井 愛子, 佐藤 健, 北浦 早苗, 小田 隆史, 熊谷 誠
    セッションID: 242
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1 学校防災の自校化を担う教員のための研修  発表者らは,2019年,石巻市教育委員会防災主任研修会でワークショップを担当し,受講した防災主任は読図力が上昇したとこを自ら認める等,成果をあげることができた(小田ほか,2020;Sakurai et al.,2021)。翌2020年度は,新型コロナウィルスがまん延するなか,オンライン研修プログラムを作成,公開した(村山ほか,2021)。そして,2021年度はそれまでの成果と課題を踏まえて,6月と9月の石巻市防災主任研修で,中学校区ごとのグループワークを主体とする,地形図類とハザードマップの読図と避難に関するワークショップを行った。 2 2021年度石巻市防災主任研修 ・6月研修 オンライン講座の動画視聴も交えて,ハザードマップ,地形図,地形分類図の読図法を学ぶ。それをもとに,グループで相談しながら,各自の学区に関する地形とハザード(マップの想定外まで含む)についてまとめる。 ・9月研修 6月研修に基づく各校の成果を持ち寄ってグループでチェックしあう。次に,大谷地小学校を事例として,グループごとに在校児童の避難先とルートを検討する。  市立学校の半数以上が浸水エリアにあって「避難確保計画」の作成が必要であることに基づく課題設定であるが,それが不要な学校も含まれ,またすぐに自校について検討することは難しいと考えられたため,全員で事例校について検討することとした。  各回終了後にオンラインアンケートを行い,概ね肯定的な評価を得たが,課題も見つかり,次回の設計に活かすこととした。 3 2021年度研修の理解度:1月アンケート結果と考察  1月(2022年),2回の研修内容の理解度に関するオンラインアンケートを実施した。(全20問,○×で回答,N=56,右表)  その結果,正答率90%以上の質問が8/20,80%以上が11/20である。全体の正答率は77.2%で,極端に低いものが平均値を下げたと思われ,研修全体としての成果ありと評価できるだろう。台地と自然堤防に関する質問(9と14,とくに前者)への正答率が低く,研修において地形のポジティブな側面への言及が不足していたことが明らかである。一方,研修でめざした,ハザードマップの想定外まで考えるについては,低地の微地形に関する質問(13と15)への正答率が高いことは研修の成果と言えるが,想定条件に関する質問(4と9)への正答率が低く,改善が必須である。  正答率は,教員の高校や大学での授業選択や専攻,勤務校種等との関連が不明瞭で(データ割愛),このことから,教員研修の重要性がさらに強く示唆された。  アンケート結果から,これまでの研修(および動画)の改善すべき点が明らかになった。2022年度研修ではこれを踏まえて,大雨時の避難に関する1回目研修を実施した(6月)。次回以降の研修では避難のタイミング等への展開を検討している。

  • 長谷川 直子, 三上 岳彦, 平野 淳平, 小口 徹
    セッションID: 219
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1. はじめに/研究目的・方法  長野県諏訪湖では冬季に湖水が結氷しその氷が鞍状に隆起する御神渡りと呼ばれる現象が見られる。これが信仰されてきたことにより、その記録が600年近くにわたり現存している(三上・石黒 1998, 石黒2001ほか)。御神渡りは元々神が御渡りになった跡と考えられており、その方向性から翌年の豊凶を占っていた。そのため、この記録には毎年の結氷・御神渡期日とともに御神渡りの起点と終点の地名が記載されている。  演者の一人(小口徹)は,この地名を特定し、その経路(方向性)を記録が存在する全期間にわたって調査した結果,その地点が時代によって変化していることが示唆された。そこで,諏訪湖結氷・御神渡記録のデータベース化の一環として,御神渡り経路の長期変遷に関する一考察を報告する。

    2. 御神渡りの経路(走向)変化  古来,御神渡は諏訪大社上社の男神が下社の女神の元に通った道筋と言い伝えられてきた。御神渡に関する各種文書(御神渡注進録,御渡り帳,ほか)にも,「御下り」(渡り始め),「御上り」(渡り終わり)の地名が記録されている。これらの史料に基づいて,毎年の御神渡地点(両岸)の地名と場所を特定し,経路(走向)を推定した。 御神渡り記録の出典(および観測者)が時代によって異なるため(石黒2001),出典ごとに地名を特定して地図化した。御神渡りの記録は諏訪市教育会(1932)を使用した。湖の地名については、諏訪大社の現人神である諏方大祝家が1700年ごろに作成したと思われる地図(浅川1995、諏訪市教育会1932)などの古い地図に掲載されている地名を参考にした。湖面積の推定には金井(1973)を参考にした。図1と図2にそれぞれ、1397年〜1559年、1750年〜1871年の記録に基づいて図化した御神渡りの経路(走向)推定図と、当時の湖水面の環境を示す。これを見ると、1800年代になると御神渡りの発生場所が東側に偏っていることがわかる。」この変化要因として考えられるのは湖の面積の変化と温泉の湖内での湧出量の変化などであるが、特定は困難だと考えている。その一方で、このような変化が、演者らが中心的に興味を持っている当時の気候の復元にあたって、結氷や御神渡りの発生期日にも変化を与えている可能性もあり、合わせて検討が必要だと考える。

    (本研究はJSPS科研費補助金(19K01155)を使用した。)

  • 髙村 楓, 平井 幸弘
    セッションID: 415
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    近年, 世界遺産登録件数は1,150を超え, さらに増加し続けている. しかし, 増加に伴って保全・保護の難しさが指摘されている. 本研究の対象としたベトナム中部トゥアティエン・フエ省のフエの遺跡群は, 14の遺跡で構成され, グエン朝時代(1802〜1945年)の都市計画が評価されている. 本研究の対象としたチャンハイ砦はそのうちの一つで, 最も海岸寄りに位置する砦のみ登録されているが, BAVH(Bulletin des Amis du Vieux Hué 「雑誌 古都フエの友」, 以下BAVH)には総数17の砦が地図上および文中に記載されている. 世界遺産として正しく評価するには, これらの砦群が形成された歴史的背景を理解し, その全体像を把握する必要がある. 本研究では, 1914〜1944年に, ハノイで発行されたBAVH (季刊,デジタルアーカイブとしてWeb上で公開されている)所収の多数の地図や, 掲載された記事を用いて, グエン朝時代の砦群の位置を復元し, その後現在までの各砦の変遷の過程を明らかにする.

    フランス軍による植民地化直後の1889年の古地図には, 17の砦群が記されている. これらの砦群は, フエ京城北東隅に位置するチャンビンダイに繋がる一連のものと位置付けられる.

    これらの砦群について, BAVHに記載された各砦の形態や内部の特徴をもとに, Google Earth画像上でその痕跡の有無を検証した. 例えば, 現在Tan My村に位置するNo.5の砦は1889年当時, 東西195m, 南北111mで, 東を向いた長方形と記されている. その周囲には幅10mほどの深い堀があるとされる. Google Earth画像上ではこの砦とほぼ同じ大きさで, 住宅地を囲む道路が確認できる. なお, 砦の構造は敵を攻撃するために, 水路に面した側はレンガ等で防御されているが, 陸側は脆弱であるため, フランス軍に背後から攻められたと記載がある.

    17ヶ所の砦群の成立と荒廃について, BAVH所収の1819〜1889年の7枚の古地図, 1914年発行のBAVHの記載内容, 1950〜2021年の地形図, Google Earth画像等の情報を整理した.

    砦の建設は1819年頃から始まったが, フランス軍がベトナムに対して攻撃を開始した1850年代半ば以降, 1882年のフランス植民地が完成する間に, 急速に砦の建設が進んだ. その後, Hoa Duan湖口がThuan An湖口に変わった20世紀初頭以降, 多くの砦が荒廃していったことが読み取れる.

    ここに述べた17ヶ所の砦群のうち, 現在, 世界遺産として登録されている砦はNo.1の一ヶ所のみであるが, これらの砦群としての成立と荒廃の過程を踏まえて, チャンハイ砦群全体を再評価することが重要である.

  • 鈴木 信康, 日下 博幸
    セッションID: 211
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1. はじめに

    日本列島太平洋側で見られる筋状ないし帯状の積雲列は、 地形の力学擾乱によって形成された収束線によって発生す る(Kang and Kimura, 1997, Kawase et al., 2005).その中でも 関東地方で発生する収束線は,東京湾から駿河湾までの広 範囲にわたって発生し,移動を伴うことが知られている. 発生域は河村(1966)や川瀬・木村(2005)によって風向・風速 に関係があるとされているが,その理由については分かっ ていない.本研究は,東海〜関東地方で発生する地形性収 束線の出現域ごとの風系の特徴と地形の力学効果について 明らかにする.

    2. 研究手法

    1992/93 年から 2011/12 年の 12 月~3 月の静止気象衛星赤 外データを用いて,中部山岳から延びる積雲列を出現域別 に東京湾型・相模湾型・駿河湾型の 3 領域に分類した.次 に ECMWF Reanalysis v5(ERA5)と JRA-55 領域ダウンスケ ーリング(DSJRA-55; Kayaba et al., 2016)の 2 つの再解析デー タを用いて,収束線出現時の一般風の風向・風速と,Dividing streamline height (??s)を調査した.最後に,領域気象モデル WRF と Cloud Model 1 (CM1; Bryan and Fritsch, 2002)を用い て収束線の数値シミュレーションを行い,収束線形性時の 流れ場の特徴と力学効果について調査した.

    3. 結果

    出現域別の 925 hPa 高度の一般風の風向・風速別の収束 線の出現頻度を調べた結果,東京湾での出現率は 15 ms-1 以 上の西北西〜北西風時に 25 %以上であるのに対し,相模湾 での出現率は 5~15 ms-1 の北西風で 40 %以上であった.ま た駿河湾での出現率は 5~10 ms-1 の西~北風で 10 %であるこ とから,収束線の出現域は風向と風速の両方で決まること が示唆される(図略).出現域別の Dividing streamline height を見ると(図 1),東京湾で出現する時は風速が強く,大気安 定度が比較的弱いことから??sは低い(1400 m 前後)が,駿河 湾では風速が弱く,大気安定度が強いことから??sは高くな っている(2400m).この結果とDSJRA-55データから算出し た地上風流線を見ると(図省略),Dividing streamline height に 対応した流れ場が形成されており,出現域毎に中部山岳の 障壁効果が異なることが示された.今後は WRF と CM1 を 用いた数値シミュレーションから,Dividing streamline height に着目した風速・安定度の感度実験を行い地形の力学効果 について詳細に調査する.

  • 趙 文琪
    セッションID: 437
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    松本市は,北アルプスをはじめとした山に囲まれた盆地に位置し,女鳥羽川・田川・薄川の複合扇状地の扇端部と奈良井川が重なり合う場所を中心に市街地が形成され,その地下には豊富な地下水が存在し,各地で湧水が見られる.高度経済成長期に周囲の森林地帯の開発や松本市内の都市化・市街地化によって保水の機能が失われ,古い井戸が自噴しなくなるとともに,上水道の普及によって,一度,公共井戸の利用が少なくなった時期があった.しかし近年,松本市では伝統的な水の文化を復元することを目指し,1990年代前後から,公共井戸・湧水のさく井工事や整備事業が行われており,井戸に飲用の機能を復活させるとともに,親水空間や観光資源としての利用も促進されている.そこで本稿では,「湧き水の町」と称される松本城下町の公共井戸・湧水を対象に,行政側および住民側の意識と活動に着目し,最近の井戸・湧水の利用と管理状況を明らかにし,土地利用と井戸の機能や維持管理の関係を分析することにより,住民参加からみた地域への影響を考察することを目的とする.

     本研究における公共井戸・湧水とは,公共の場所において誰でも使える井戸,つまり人々に開放されている井戸を指す.研究対象とした井戸は,松本城下町において市の補助金で整備され市役所によって水量管理されている20箇所と,「新まつもと物語プロジェクト」の水巡りマップに明示されている公共性が高い私設の井戸3箇所の合計23箇所である.筆者は2021年10月25日-29日,2022年5月23日-27日の2時期にわたり,松本市役所(観光プロモーション課・都市計画課・環境保全課・松本城管理事務所),松本市教育委員会文化財課,および23箇所の井戸・湧水をそれぞれ日常的に管理している町会・市民団体・地主を対象に,井戸の整備・利用・維持管理について聞き取り調査を実施した.

     市で管理している公共井戸・湧水は,周辺の土地利用状況によって,松本城管理事務所,教育委員会文化財課,建設部都市計画課と維持課という四つの部署に分けて管理されている.松本城周辺の井戸は松本城の堀の水源を提供し,堀浄化の目的として松本城管理事務所によって昭和後期および平成初期にさく井工事がなされ,一括管理をされている.昭和後期に松本市特別史跡としての「源智の井戸」は放置され汚れており,槻井泉神社の湧泉は冬季に枯れてしまっていたため,平成初期に文化財課によってさく井事業が行われ整備された.都市計画課は災害発生時の生活用水の確保,市内の回遊性の向上,市民の憩いの場の提供という機能を果たすことを目指し,2006-2009年度を中心に,14箇所の井戸整備事業を行った.さらに,松本城観光の王道ルート以外のまちなかの商店街を振興するため,市民と行政が連携して2006年に発足した「新まつもと物語」というプロジェクトの中で「まつもと水巡り」が一つのテーマとされ,2008年から水巡りマップによる観光宣伝が行われている.研究対象とした23箇所の井戸の中で7箇所は行政によるさく井・整備事業前に存在していた井戸である.整備前に存在した古い井戸は飲用ではなく生活用水の機能を有していた.上水道の普及とともに汚れて放置された井戸もあった.古い井戸における整備事業の契機は市民から市へ依頼した場合が多かった.さく井事業で整備後,公共井戸の機能は大きく変わった.

     井戸の属性や周辺の土地利用が井戸の機能と維持管理に関連していることが分かった.水量が大きく,駐車しやすい場所の井戸は水を汲みに来る人が多く,飲料水機能が大きいとみられる.松本城に近い井戸や観光宣伝の水巡りマップで大きく宣伝された井戸は観光客の利用も多い.周辺に位置している喫茶店や神社の行事と関係の生まれた井戸は,コミュニケーションの場になっている.住民参加がみられる清掃の形態は,井戸,水槽,ベンチ等の面積や規模によって異なる傾向がみられる.面積が小さい場合は,町会の一人の担当者や近隣のお店にいる人が毎日清掃するか汚れに気づいたら清掃するかという自主的な行動がみられる.水槽の面積が広い井戸や行事に関わる井戸では住民団体による定期清掃や当番清掃が行われている.清掃の意欲は地元の高齢者の方が高く,飲食店周辺など外来従業者が多い場所は意欲が低いとみられ,地域への愛着によって影響されるとみられる.

     従来の日本では地下水に対して公共の概念がなかったが,私設の井戸の市民への開放や,市の補助金で整備・管理された井戸に対する地域愛着から生まれた自主的な清掃活動を通して,公共財という意識が向上している様子がみられた.一方,近年の社会環境の変化により,町内の人と人のつながりや近所付き合いが薄くなってくると,高齢化によって人手不足の状況になると予想され,住民による内発性を維持する上での課題となっている.

  • 小宮 直子, 福田 泰弘
    セッションID: S103
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー
    電子付録

    1.はじめに

     エスポー市は,近年のEUによる国際調査で最も持続可能な都市に選出され,SDGsに関する先進的な政策を行っている.日本,特に地方における持続可能な活性化についてエスポー市政から得られる示唆があるのではないかと考えられる.

     本研究では,オープンイノベーション2.0(以下,OI2.0)を推進するエスポー市主導の官民複合施設を対象とする.OI 2.0 の成功要素とされている共通の価値やビジョンがどのように構築され浸透しているか,その組織体や政策の特性について検証し,得られた知見から自治体主導型地域イノベーションエコシステムの推進において有用な要素を見出すことを目的とする.

    2.先行研究

     世界的に見ても公共イノベーションについての研究は少なく,公共を主体として扱われたものはほとんどない(後藤, 2007).中でもOI 2.0を自治体に適用した研究は極めて少ない.OI2.0は主に欧州で生み出されたモデルで,企業,大学,研究機関,行政などオープンイノベーションの主要な連携先に加えて,市民を巻き込んで連携・共創するという「ビジネス・エコシステム」を形成し,より大きな課題を解決するという方向に向かって発展している(JOIC 2020).イノベーション推進主体としての公的組織の役割について,早瀬(2016)は,ネットワークづくりやコミュニティ形成とし,社会貢献的な存在意義,サービス業的で汎用的なものに留まるのではないかと述べている.一方 Tukiainen et al.(2015)は,フィンランドの自治体に求められる役割を1)日常生活の改善 2)消費者および市民実験の実施 3)新しい技術やサービスの実験と実装 4)新しいイノベーションと経済の創造とし,自治体がイノベーションの推進において重要で広汎な役割を持った主体であるとしている.

    3.研究方法  

     エスポー市が主導し運営する,官民複合施設イソン・オメナン・パルベルトリ(以下,パルベルトリ)を対象とし調査を行った.2018年7月と11月にパルベルトリの企画や運営に関わるキーパーソン8名に対し,施設の構想・開設準備段階から運営状況までの流れについて,現地にて個別の半構造化インタビューを行った.ナラティブを文字に起こし,各段階のプロセスごとに分け,重要な要素を抽出した.また,分析にあたり藤本&クラーク(2009)の『製品開発力』における「重量級プロダクトマネジャー(以下,重量級PM)」のフレームを参考にした.

    4.結果  

     各段階でコンセプトの承継,敷衍を重視したパルベルトリのマネジメント体制が採られていることがわかった.「共通の利用者:協働を通じて最適なサービスを」というコンセプトのもと,組織,部門を超えた様々な協働により新しい価値が創出され,リビングラボとしてOI2.0を体現した取り組みが行われている.その核となる存在の一つが,市長室所管のサービス開発ユニット(以下,SDU)である.SDUはフィンランド国内でも類を見ない公共サービス開発に特化した部署であり,パルベルトリの構想段階から運営段階に至るまで,首尾一貫したサービスコンセプトを浸透させるために様々なサポートを行い,強い影響力を持ち続けていることがわかった.SDUの働きをプロセスごとに分けて比較すると(表1),藤本&クラーク(2009)の個人をベースとした重量級PMを組織に拡張したものであることが確認された(表2).SDUは重量級PMのように属人的ではなく組織として機能し,トップダウンではなく共創のスタンスを元にコンセプトを創出し,縦割りの排除,コンセプトの首尾一貫性の担保,コンセプトをパッケージ化し他都市や他分野へ応用する等,広範かつ重大な役割を果たしている.

    5.考察 

     エスポー市の政策策定におけるSDUの影響力は大きく,多様なサービス開発においてステークホルダーと共創しながらOI2.0を実践している.つまりSDUのような組織の配置は,自治体主導型の地域イノベーションエコシステムを形成する上で有用と考える.

  • 瀬戸 芳一, 高橋 日出男
    セッションID: P012
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1. はじめに

     夏季晴天日の関東地方平野部においては,猛暑日や熱帯夜の増加など,日中夜間ともに近年の高温傾向が顕著である.気温分布に影響を及ぼす大きな要因として海陸風や山谷風などの局地風系が挙げられる.関東平野の局地風系は,日本付近の気圧傾度とも密接に関係し,夏型気圧配置の出現頻度増加と関連した高温への関与も指摘される.しかし,局地風系や気温分布に及ぼす気圧配置型変化の影響は明らかとなっていない.本研究ではこれらの解明に向け,長期間の高密度な地上観測資料を用いて,夏季晴天日における局地風系の日変化パターンを示し,関東付近における気圧場の特徴および近年の変化について検討した.

    2. 資料と方法

     気象庁アメダスに加えて,自治体の大気汚染常時監視測定局(常監局)237地点における風向風速の毎時値を用い,1978年から2017年まで(40年間)の7,8月を対象とした.前回までの報告(2022年春季大会 P023)と同様に,地点情報の収集や風速の高度補正,品質管理を行って,長期に使用できる地上風データを整備して用いた.地上風は,対数則に基づき統一高度(10 m)の風速に補正し,格子点に内挿して平滑化を行い,収束・発散量を求めた.

     対象日として,晴天で一般場の気圧傾度が小さく,典型的な局地風系の出現が期待される晴天弱風日の抽出を行い,気圧傾度と日照時間の条件から492日を選んだ.

    3. 晴天弱風日の分類と風系の特徴

     平野部における毎時の発散量を用い,晴天弱風日日中(9時~19時)を対象に,ラグを-2~+2時間とした5つの時系列に対して,拡張EOF解析を適用した.その結果,上位(第1~3)の各主成分の負荷量分布および主成分得点の日変化は,晴天弱風日に特徴的な収束・発散場とそれぞれよく対応していた.日ごとに差異のある風系の特徴を系統的に検討するため,毎時の主成分得点(第1~3主成分)に対してクラスター分析(Ward法)を適用し,晴天弱風日をA~Eの5類型に分類した.コンポジット解析の結果,Eは東風が関東平野に広く卓越する分布となるが,A~Dでは,午前中には沿岸部で海岸線に直交する海風がみられ,午後になると,広域海風の発達とともに全域で南~南東寄りの風向に変化した.海風前線の内陸への侵入や南寄りの広域海風の発達はAで最も早く,B,C,Dの順に遅くなった.また,期間を10年ごとに分けて各類型の出現頻度を求めたところ,南風が卓越するA,Bは近年増加傾向にあった.

    4. 気圧場の特徴

     各類型における気圧配置を,JRA-55長期再解析を用いて検討したところ,A,Bでは日本の南への太平洋高気圧の張り出しが晴天弱風日の平均よりも強かった.また,午後には中部山岳域に熱的低気圧が発達し,関東南岸の気圧傾度はAで最も大きかった.平野スケールの気圧場を検討するため,内陸地点を含む関東周辺の気象官署(前橋,水戸,網代,勝浦)における09時と15時の海面気圧から地衡風を算出した.各類型は特に地衡風の東西成分との関係が認められ,熱的低気圧に伴う気圧傾度に高気圧の張り出し方による南岸の気圧傾度が加わり,一般風の向きが変化すると考えられた.各年の晴天弱風日における地衡風向の出現頻度は,09時と15時ともに2010年以降に平均より西寄り風向の日がやや多く,気圧配置の出現頻度に対応してA,Bの頻度増加にも関連すると考えられた.一方,15時の地衡風速は1990年以前に弱く,それ以降ではやや強い傾向にあった.この傾向は09時には不明瞭であり,日中の熱的低気圧の強まりによる影響も示唆された.

     今後,風系型や気圧場の近年における変化に加え,気温分布との関係についても検討したい.

  • ―静岡県南伊豆町の事例―
    谷 優太郎, 柳澤 雅之
    セッションID: 512
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    Ⅰ.はじめに

     過疎化する日本の農山漁村の地域活性化を目的とした政策の中で,2014年の「増田レポート」を受けて内閣府に設置された「まち・ひと・しごと創生本部」による政策導入は,2020年から第二期に入った。その過程で,移住者の中でも特に移住事業者を対象とする政策的支援が2019年,開始された。移住事業者は移住先で事業をおこなうため,関連する地域住民との関わりは不可避であり,両者の直接的な関係性が地域活性化のための社会的・学術的な焦点となった。しかし,移住事業者を受け入れる地域社会には多数の住民が存在する。そうした人たちが,移住事業者とそれに直接関連する地域住民の双方と関係性を築いているし,地域社会の運営にも関わっている。そこで本研究では,移住事業者と直接関連する地域住民の関係だけでなく,地域社会全体における日常的な関わりに着目し,包括的な視点から移住事業者と地域住民の関係性を考えることを目的とする。

    Ⅱ.調査方法

     調査対象地は,2018年以降移住事業者が相次いで流入した,静岡県南伊豆町の沿岸部に位置するA集落である。現地調査は2011年4~10月に実施し,移住事業者と地域住民から聞き取り調査を行った。またA集落の辿った歴史的背景を理解するために,南伊豆町立図書館及び南伊豆町の歴史を研究する「南史会」の事務所において文献調査も実施した。

    Ⅲ.調査地域概要

     A集落は,1960年代以降,南伊豆地方の観光地化に伴い民宿業が盛んとなった。しかし1980年代以降,客離れと集落の高齢化とにより,民宿数は激減した。A集落は1970年に過疎地域指定された南伊豆町内でも最も過疎化が進行した集落の一つであり,2021年の世帯数は74,人口123人,65歳以上の高齢者の割合は65%であった。若者は都市に居住し,90歳を超える高齢者は集落外の施設に入っているため,実際に集落内に居住するのは107人であった。

    Ⅳ.結果および考察  

     A集落に居住する移住者は9世帯14人(集落全人口に対する割合は13%,以下同様)であり,うち5世帯6人(6%)が移住事業者,4世帯8人(7%)がリタイア後の移住者であった。調査期間中,移住事業者が集落内で事業を営む地域住民と観光客を斡旋し合う経済的繋がりを構築し,また集落で定期的に開催される清掃活動に積極的に参加し,高齢化の進んだ集落の労働力として貢献するなど,集落にポジティブな影響を及ぼしている事例が見られた。その一方,移住事業者と地域住民との間では,コロナ禍における観光客の受入や騒音を巡り何度かトラブルが発生した。その際,地域住民93人(87%)のうち,移住事業者に直接抗議をするなど,声高に抗議活動を展開するのは3人(3%)であった。残り90人のうち,35人(33%)は集落外で就労している。そのため,日常的に移住事業者と接する地域住民は55人(51%)となり,そのほぼすべてが65歳以上であった。すなわち,既存研究が対象とするような,移住事業者と地域住民との間の目立ったトラブルや事業成功の事例で注目されているのは,A集落の場合,移住事業者の6人(6%)と直接抗議者3人(3%)であるが,実際には,日常の大半を集落で過ごす55人(51%)の地域住民が,双方の間で,トラブルを回避したり事業を成功させたりする調整役になっていることがわかった。調整の方法は,日常生活時とトラブル発生時とで異なった。日常生活では,集落内の清掃活動参加や路地での立ち話などで社会的経済的繋がりを保持しながら,地域住民は移住事業者から情報を収集し,ポジティブ・ネガティブ両面での助言を行っていた。トラブル発生時には,意図的に無視するなど日常的な社会的経済的繋がりを断つことを通じて移住事業者に圧力をかけることもあれば,過大な表現をする少数の直接抗議者を抑制することもあった。A集落の半数を占める地域住民の調整の方法は,移住事業者との日常的な繋がりを基盤とするものであった。調整の判断基準は,基本的には移住事業者の活動をサポートしようとするものの,直接間接に情報を収集し,高齢世帯が中心の集落の生活の安定を確保しようとするものだと考えられた。そしてそのために,移住事業者と地域住民の間のコンセンサス共有のための日常的駆け引きが重要であった。

  • 大髙 皇
    セッションID: S202
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    2017 ・ 2018年告示の学習指導要領ではプログラミング教育を含む情報活用能力の育成などのICTに係る教育内容が盛り込まれ、2019年時点にはSociety5.0 時代に生きる子供たちにとって、PC 端末は鉛筆やノートと並ぶマストアイテムだとされた。大学での教員養成においても教員養成においても、ICTを活用するための知識・技能を習得する取り組みが進められている。 社会科教育の中でも地理教育においてはGIGAスクール構想以前から地理情報システム(GIS)を活用した実践が多く報告されてきたが、これからの社会科教育・地理教育においては、例えば答申「令和の日本型学校教育」が示すような1人1台端末によるスタディ・ログを活用した個別最適な学びの実現など、遠隔授業に留まらないICTを活用した実践が求められると考えられる。 そこで、本発表ではまず、地理情報システム(GIS)を活用した実践をはじめとするICTを活用した地理教育実践について先行研究を整理し、GIGAスクール構想に対応した地理教育、特に地誌学習の在り方を探る。

    さて、GIGAスクール構想は、2020年以降の新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)感染拡大を受けて前倒しで進められることとなり、初等教育・中等教育においては2021年3月末までに 全国の96.5 %の自治体で1人1台端末の納品が完了した。感染拡大を防ぐため、こうした1人1台端末を活用したオンラインによる遠隔授業も急速に普及し、従来型の授業を示すレトロニムとしての対面授業なる言葉も生まれた。 しかし、社会科教育関連の学会誌に掲載された研究論文の分析により、2020年度における社会科教育研究の動向を明らかにした大髙(2021)は、2020年度には家庭学習やオンラインによる遠隔授業のあり方をはじめとするCOVID‑19感染拡大に対応する社会科教育・地理教育に関する研究は、日本地理教育学会『新地理』の緊急特集「withコロナ、postコロナにおける地理教育のあり方オンライン交流会(2020年5月16日)報告」以外に見られなかったことを指摘し、COVID‑19感染拡大に対応する(した)ICTを活用した社会科教育・地理教育実践が求められているとした。同報告では遠隔授業の実施事例について取り上げられているが、「withコロナ」から「afterコロナ」へと移行しつつある現在、感染拡大が深刻であった2020年から2021年にかけての、遠隔授業による地理教育実践、特に地誌学習の実践の実態を明らかにする必要もあると考えられる。 そこで本発表では、学校現場での遠隔授業による地理教育実践の事例を複数挙げ、地理授業実践における遠隔授業と対面授業の差異について検討する。

  • 小田 理人, 小寺 浩二
    セッションID: 312
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    Ⅰ はじめに

     河川水の硝酸イオンは人為的な活動の影響の指標となる。硝酸イオンが河川水に存在する理由には様々な要因があり、硝酸イオン濃度の分布を明らかにし、その理由を考えることは、その流域の特性を把握することに繋がり有益であると言える。多摩川水系浅川では高度経済成長期後の生活排水による水質汚濁が問題視され様々な研究が行われてきた。現在では下水道の整備により生活排水の流入は大幅に減少したが、現在でも河川水中には多くの硝酸イオンが存在し、その原因を解明する必要がある。本研究では浅川流域全域の硝酸イオンの分布状況を明らかにし、その原因を解明することを目的とする。

    Ⅱ 研究方法  

     2020年6月~2021年9月にかけて月に1回の頻度で浅川流域内の34地点において河川水のサンプリングを実施し、現地で水温、電気伝導度、水素イオン濃度の計測を行った。サンプリングした河川水のうち、2020年7月、10月、2021年1月、9月のものはShimazu社製のイオンクロマトグラフィーを用いて硝酸イオンの計測を行った。

    Ⅲ 結果と考察

    1. 各支流  

     山田川の下中田橋では全地点の中で最も高い中央値である18.0mg/Lを記録した。この地点のすぐ上流には下水処理場があり、その排水が流入していることが分かっており、これの影響とみられる。しかしながら下水処理場より上流の地点でも比較的高い値を示していることから、他にも原因が存在するとみられ、原因の解明が必要である。山田川流域は非常に人口密度の高い地域のため何らかの人為の影響によるものと思われる。 川口川最下流の川口川橋の硝酸イオン濃度の中央値は、山田川の地点を除くともっと高い11.0mg/Lであった。川口川は支流の中で最も農用地の割合が高い流域であり、農業活動の影響によるものと考えられる。下流で流入する湯殿川の栄橋と大橋では、それぞれ10.8mg/Lと8.8mg/Lと比較的高い中央値を記録した。湯殿川の流域は、流域内の浄化槽整備区域の割合は低いが、浄化槽整備内の建物用地割合が最も高い支流であり、浄化槽排水の流入が高い硝酸イオン濃度の原因とみられる。

    2. 本流及び南浅川上流域  

     本流の上流部の中央値は4.7~5.7mg/Lであった。上流部は全域が浄化槽整備区域となっているため、浄化槽排水の影響が考えられる。しかしながら民家の分布しない地域でも5mg/L前後の硝酸イオンがみられていることから、森林生態系の窒素飽和による森林土壌からの流出が考えられえる。南浅川では本流の上流部より高い値を示し、中央値で5.8~7.3mg/Lの値を示した。また、南浅川支流の木下沢では森林中の渓流水にもかかわらず7.2mg/Lの中央値を示した。上流には民家は存在しないため、森林土壌からの流出と考えられ、相当量の窒素が森林中に蓄積されていることが示唆された。

    Ⅳ おわりに  

     流域内の硝酸イオンの空間分布には、下水処理場排水、浄化槽排水、農用地、森林生態系の窒素飽和などが影響を与えていることが示唆された。今後はより詳しい要因の解明のため、季節変化等の検討も行う必要がある。

    参考文献

    小田理人・小寺浩二(2022):多摩川水系浅川の水質に関する水文地理学的研究(4).日本地理学会発表要旨集,2022s(0),56.

  • 京都府福知山市中心部の事例分析
    桐村 喬
    セッションID: 413
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    I はじめに

     都市の内部構造の長期的な変化の分析は,主に居住者特性の観点から行われてきた.一方,長期的に入手可能な統計データは限られており,それらから把握できる変化は,都市内部構造の長期変化の限定的な側面に過ぎない.都市内部構造の長期的な変化は土地利用の変化からも観察できるが,ミクロな変化を追うには膨大な作業が必要になる.そこで,ある程度ミクロな視点も持ちつつ,都市の内部構造の長期的な変化の分析が可能となる資料として,空中写真から把握できる高さ情報に注目する.

     空中写真からの高さの把握は,目視ベースであれば実体視によって可能であるものの,データとして取得するには写真測量技術を利用する必要がある.近年,SfMと呼ばれる計算技術の開発が進み,写真測量ソフトウェアの利用が容易になってきた.そのため,過去の空中写真から高さ情報を取得し,GISで空間分析を行うこともできる.米軍撮影の空中写真は精度の点で難しいが,国土地理院によって撮影されてきた空中写真であれば高さ情報を一定の精度で取得し,長期的な変化を分析できる.

     そこで本研究では,高さの視点から都市内部構造の長期的変化を検討することを目指し,国土地理院撮影の空中写真から得た街区別の平均高さの長期的な変化の分析を行う.分析対象地域は,1960年代以降,2020年代まで一定の間隔で空中写真が撮影されてきた京都府福知山市である.

    II 対象地域・データ・分析方法

     福知山市の2020年の人口は約7万7千人であり,DIDの人口は合計で約3万9千人である.利用する空中写真データの関係上,対象地域は,旧来の中心市街地である由良川・土師川左岸の地域とする.この地域は,2020年のDIDのうち,最も人口の多いもの(26,719人)の範囲におおむね相当する.使用する空中写真は,1964年,1975年,1986年,1996年,2005年,2021年の6時点のものであり,撮影縮尺が1万分の1である1975年と2021年は国土地理院の地図・空中写真閲覧サービスからダウンロードできる400dpiの画像を,残りの年次については1270dpiの画像を用いる.

     写真測量ソフトウェアによって得られるDSMは,GCPの設定によって一定程度の位置精度を持たせることができるものの,高さ方向については誤差が生じやすい.また,非デジタルの空中写真では,写真自体の精度や劣化にともなう誤差も含まれており,ある程度の平滑化処理も必要である.そこで,まず,各年次のDSMのラスターデータから,街区の周辺の高さの下位2.5パーセンタイルの値を取得し,それを街区の基盤の高さと考える.この基盤の高さを街区内の各セルで差し引いて,マイナスでないものについてセルの面積と高さを掛け合わせたものを合計し,街区全体の総容積を求める.そして,総容積を面積で割り,街区別の平均高さを算出する.この方法の場合,樹木の高さも含まれてしまうものの,市街地であればおおむね建物の高さを取得できる.また,傾斜地については適切な値を求めることができないため,分析対象の街区から除外する.

    III 街区別の分析

     各年次のDSMから街区別に平均高さを求めると,1964年時点では,福知山駅周辺ではそれほど高くはなく,商店街のある広小路通り沿いで高く,由良川に架かる音無瀬橋のたもとをおおよそのピークとして,南・西方向に低くなる傾向であった.1975年になると,広小路通り沿いの高さは維持されているものの,福知山駅前(北側)で大きく上昇し,この地域の高層化が進んだことがわかる.また,西部にも市街地が拡大している傾向が読み取れ,高さという点では,都市の中心が駅前に移動し始めていることがわかる.1986年では,駅前へのシフトが進むとともに,周辺への市街地の拡大もみられた.1996年では,福知山駅前が最も高くなっているが,周辺でも一定の高さをもった街区が散見されるようになっている.2005年には,福知山駅の高架化と周辺の再開発が行われつつあり,一時的に,駅周辺の平均高さが低下しており,南部などでの高さの上昇もみられる.2021年では,福知山駅の南北で一定の高さをもつ街区がみられる一方,広小路通りに近い地域では,高さが低下しているところもみられ,空洞化しつつある状況が観察された.

    IV おわりに

     DSMから得られた,1964年以降の街区別の平均高さの推移からは,高さのピークとなる街区が,旧来の城下町の商店街から,福知山駅前や郊外へと移り変わり,旧来の城下町の空洞化が生じてきている傾向が明らかになった.DSMを用いることで,統計データや土地利用を中心とする従来の分析資料に,高さの視点を加えることができ,都市空間の立体化の実態を定量的に再検証することができるだろう.

  • 山元 貴継, 鎌田 誠史, 浦山 隆一, 澁谷 鎮明
    セッションID: 435
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    報告の背景と目的

     現在も土地登記等で用いられる地番(土地地番)が明治後期に確定されるまで,それとは異なる地番が用いられていた地域は少なくない.そうした地番の存在は多くの地域で忘れ去られ,むしろ,土地台帳などの記載においてのちの地番と混用され,地籍混乱の原因ともなっている.その中で沖縄では,その名の通り,土地に対してではなく屋敷ごとに付与された「屋敷地番」が,1899(明治32)~1903(同36)年に近代土地調査である「土地整理事業」によって地番(土地地番)が付与されるまで用いられていた.

     この沖縄の「屋敷地番」であるが,それとのちの地番(土地地番)といかなる対応関係があるのかについては,現地でもあまり知られていない.しかし,これら「屋敷地番」は,その付与目的に加えて,地番に先んじて付与され続けていたことで,明治30年代までの沖縄県内各地の状況を示す資料性を持ち合わせている可能性が期待される.そこで本報告では,「屋敷地番」の実態について,主に宮古諸島の多良間島においてと,沖縄本島のグシ宮城村,勝連南風原村などにおいても検討した結果を示す.

    「屋敷地番」と地番(土地地番)の付与原則の違い

     「屋敷地番」は,「土地整理事業」開始前の1898(明治31)年までは,世帯の増減に応じて,地番のくり下げやくり上げがなされていたが,「事業」以降は変更が加えられなくなって固定化したのち,廃された.今回,土地台帳上での記載関係などから,その最終的な「屋敷地番」と,「事業」後の地番(土地地番)との対応関係を把握した.そして,「事業」後に宅地地筆となったところの「屋敷地番」がほぼ全て確認できた.「戸籍地番」の並びを空間的に見ると,基本的に隣接した宅地地筆に付与されたものどうしは連番となっているものの,各所で飛び番が生じており,また,枝番の付いた「屋敷地番」が付与された宅地が挟まっていたところもある. 多良間島中心集落全体での「屋敷地番」の付与原則を見ると,同集落のうち西側の仲筋村においては,かつての番所(のちの役場)を起点とし,そこから南北方向の街路に沿って一気に北上するように順に付与され,集落北端で折り返すといったように,集落全体を南北方向に行き来する千鳥式となっていた.一方,東側の塩川村では,同じく街路に沿って集落全体(ただし仲筋村との村境まで)を,こちらは東西方向に行き来する千鳥式での付与であった.

     これに対して地番(土地地番)は,島の北端の,両村境の東西をそれぞれ起点の地番1(1番地)としていた.そして,いくつかの街区をひとまとめにした「里」が設定された中で,地番は「里」内ごとに千鳥式に付与されていた形となる.また,「横一列」型街区が卓越する塩川村内の方が,比較的単純な配列となっていた.

    両地番の違いが示す各屋敷地の状況  

     多良間島中心集落内では,「事業」開始以降に世帯が移動すると,「屋敷地番」は移動先の所在となる一方で,移動元の屋敷地の同地番は飛び番となったようである.一方で,同地番が付与された世帯が「事業」開始後に分家するなどして複数世帯となれば,その分家側の同地番は枝番を付けて処理したものとみられる.それらの,枝番の付いた「屋敷地番」となっていた世帯の屋敷地は,「事業」時には完全に独立した宅地地筆となっていた.

     また,同集落では,原則からすれば「屋敷地番」が付与されているはずながらそこが飛び番となっていた宅地地筆などと,のちに「拝所」となったところとがしばしば一致した.これらの地筆の状況は,かつては特定の居住者のいる屋敷地であったのが,「事業」以降に無人化し,現地で言う「ムトゥ(沖縄本島などではムートゥヤー(元家))」として「拝所」化していった過程を示す可能性がある.

     また,「事業」後の塩川村の範囲に一部,仲筋村の「屋敷地番」が付与された屋敷地がみられる(図2中央南寄り.この状況は,属人的であった本土各地の藩政村が行政村となった際の飛び地発生過程とよく似ている.

    期待される分析視点と課題

     いったん「屋敷地番」が付与されたであろうところが「拝所」化しやすい宮古諸島に対し,勝連南風原村などでは,最初から「拝所」に同地番が付与されていなかった.同地番の付与原則の違いは文化的差違にもよるのではないかといった,地域性の分析も期待される.

     ただし前提として,「屋敷地番」が把握できる地域は限られる.また,同地番自体に時期的変化があり,把握には思いのほか労力を要する.

  • IGRいわて銀河鉄道の通院支援サービス
    櫛引 素夫, 大谷 友男
    セッションID: 538
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    1.はじめに

      整備新幹線の開業は地域に、高速・高規格鉄道の運行と同時に、並行する在来線のJRグループからの経営分離をもたらす。発表者らは新幹線と地域医療の関係に着目し、整備新幹線開業が沿線の医療機関にもたらす効果について2021年度から研究を進め、少なくとも3つの病院が常勤・非常勤医師の確保に成功した事例を確認した。

     本研究は並行在来線に焦点を当て、地域医療への貢献事例としてIGRいわて銀河鉄道(本社・岩手県盛岡市)の総合通院サービス「IGR地域医療ライン」を取り上げる。2022年7月中旬に実施した、沿線調査および同社へのヒアリングに基づいて、誕生の背景と経緯、利用状況、将来像、課題について報告・考察する。

    2.IGRいわて銀河鉄道と地域医療ラインの概要

     IGRいわて銀河鉄道は2002年12月の東北新幹線八戸開業に伴い発足した第三セクター会社である。JR東日本から経営分離された旧東北本線・盛岡―目時(青森県)間82.0kmの運行に携わる。

     岩手県北に位置する沿線地域は人口密度が低い上に人口減少が著しく、直近6年間の人口減少率は3.6%に達する。一方で入院患者の3割が盛岡医療圏に流出し、退院後の通院需要も存在する。

     これらの事情を背景に、地域医療ラインは利用者確保策として2008年11月スタートした。現在は、①朝、盛岡へ向かう上り列車2本を「対象列車」に設定してアテンダントが乗車、②2両編成の後ろ1両を全車「優先席」化、③各駅に専用無料駐車場を開設、④割引の「安心通院きっぷ」販売、⑤盛岡駅から格安の乗合タクシー運行、というサービスを組み合わせている。2009年度の日本鉄道賞を受賞した。

     これまでの延べ利用者は約5万5千人に達し、2010年代半ばは毎年5千人台の利用があった。その後、漸減したところへCOVID-19が拡大し、直近の2年は2000人台で推移している。

    3.導入の背景

     取り組みの端緒は通勤・通学と並ぶ「第三の利用の柱」を開拓しようという20代男性社員の発案だった。コンセプトの核は、公共交通機関の使命、および「安心感の提供」である。「見守られての通院」、さらに「何かあった時に鉄道を使える、という選択肢の提供」を強く意識している。

     積雪寒冷地域における冬期間の運転リスク軽減に加えて、高齢者の病院送迎を担う患者家族、特に子どもやその配偶者の負担軽減と、軽減によって生まれる余剰時間の活用、さらには今後、増加が見込まれる運転免許返納者の利用を視野にサービス浸透を図っている。

     アテンダントは、あえて医療に関する資格や特殊な技能を期待しない方針を採り、人件費と人材確保のハードルを下げている。ただし、盛岡駅から病院への乗合タクシーは、患者が支払う運賃と本来の運賃との差額を同社が負担しており、利用が伸びるほど持ち出しが膨らむ。

     このため、地域医療ラインは利用者確保につながるものの、収益の柱とは位置づけられていない。PRにも費用を投じず、もっぱらポスターやチラシ、口コミを頼りとしている。あくまでも既存のダイヤなど「所与の条件」を活用し、組織的にも財政的にも負荷が過大にならないよう、運用していく方針という。

     COVID-19拡大に伴って利用は落ち込んでいるというが、今年7月中旬、地域医療ラインの設定列車に乗車して調査した時点では、高齢者を中心に少なくとも5人程度が利用していた。その1人との会話では、地域医療ラインの存在が非常に貴重であるとの評価を確認できた。

    4.考察

     地域医療ラインの基本理念は「地域に密着した公共交通機関としての責務を全うしつつ、地域との信頼関係を構築および堅持すること」と位置づけられよう。

     ヒアリングでは「地域医療ラインの思想」、「レールの外に人は住んでいない」といった言葉が聞かれた。鉄道会社として経営問題を、単なる利用者の増減や収支の構造からだけでなく、地域や住民の暮らしを広く俯瞰する視点から捉えている様子がうかがえる。

     見方を変えれば、地域医療ラインの利用者は岩手県北の医療圏から盛岡圏へ流出した人々であり、将来的な医療圏のデザインと地域医療ライン利用のバランスも視野に入れておく必要があろう。

     同社は地元バス会社と提携して2021年12月、妊産婦の移動支援を目指す割引サービス「ハグパス」も開始した。利用実績はまだないが、当面、ニーズの実態を確認しながら、サービスを継続する方針という。

    5.おわりに

     地域医療ラインのモデルは、他の並行在来線や地方鉄道に移転できるかどうかは検討の余地がある。しかし、IGRいわて銀河鉄道が地域との関わりの原点に「信頼関係」や「選択肢の提供」を置いている点は、特に今後、整備新幹線の開業に伴う「巨大な条件変更」に直面する地域に対し、有益な示唆を与えると考えられる。

    ☆本研究はJSPS科研費21K01020の助成を受けたものです。

  • 髙橋 裕, 川久保 典昭, 井上 明日香, 長谷川 直子, 柴田 祥彦
    セッションID: 419
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    地理総合オンラインセミナーは,地理教育フォーラム主催,日本地理学会・日本地理教育学会共催でオンラインで実施している,高校地理歴史科科目「地理総合」に関する研修会・講習会である.2022年4月からの地理総合の実施にあわせて,2022年3月26日に第1回を行い,毎月最終土曜日に全10回で開催中である.セミナーでは年間計画をもとに毎回テーマを設定し,地理を専門としない高校社会科教員が扱える入門レベルの授業内容や授業方法の解説を高校教員が,テーマに関連する地理院地図の使い方の説明を国土地理院職員が,そしてやや発展的な専門知識の解説を大学教員などの専門家が行い,最後に全体的な質疑応答と交流会の時間を設けている.本発表では,セミナーの核となるコンテンツを提供している高校教員による「地理教材共有化の会」の活動や,そのメンバーの考え・働きに着目し,どのようにしてセミナーが実現して継続可能となったのか,諸要因を検討した結果を報告する.

    高校教員有志の共有化の会への参画動機や組織運営などを調査分析・省察しておくことは,今後地理教育の底上げを進めたり,同様の取り組みを行ったりする上で,重要なポイントだと考える.

  • 伊藤 恵
    セッションID: S204
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/05
    会議録・要旨集 フリー

    ドローンを活用した高等学校「地理総合」における授業実践

    Class practice of "Geography synthesis" in high school using drone

    伊藤 恵(仙台育英学園高等学校)

    Megumi ITO(Sendai Ikuei Gakuen High School)

    キーワード:ドローン,地理総合,地理院地図,世界遺産,世界の地形,防災

    Keywords: Drone, Geography synthesis, GIS Maps, World Heritage Sites, World Topography, Disaster Prevention

    Ⅰ はじめに

     平成30年告示の高等学校学習指導要領において,「イ 地理的な見方や考え方及び地図の読図や作図,衛星画像や空中写真,景観写真の読み取りなど地理的技能を身に付けることができるよう系統性に留意して計画的に指導すること」とあるように,高等学校の地理の授業において,衛星画像や空中写真,景観写真の読み取りの地理的技能をとおして,地理的な見方・考え方を身につけることの重要性が示されている。また,井田(2000)は,「地理は空間を対象としているが, その原点は景観であり, 地理学習においては景観から様々な事象を読み取ることが必要不可欠である」と指摘している。  

     このように,景観写真を活用した地理の授業実践は,新鮮な驚きや好奇心を奮い立たせ,グローバルな視点,あるいはローカルな視点双方において,地理的考察への関心を高める手段となる。

     筆者はかねてより,景観写真を用いたフォトランゲージの授業実践を行っていたが,動画の方がよりリアリティで学習者にとってはイメージしやすいと感じ,国土交通省認定ドローン技能操縦士の資格を取得するとともに,日本のみならず海外にも足を運び,現地で空撮したドローンの映像を素材に授業を展開している。

    Ⅱ 研究目的

     上述のように,ドローンは地理の授業において有用なツールであると考える。そこで本研究は,ドローンを活用した授業実践をとおし,その有効性と活用方法を考察することを目的とする。 まず,ドローンの最大の特徴は,写真だけでなく動画撮影も同時に行える点である。これは,言うまでもなく,セスナ機などの航空写真撮影とは異なる点である。航空写真は,それほど頻繁に更新されるわけではないため,目まぐるしく移り変わる景観の空撮には,リアルタイムで撮影できるためドローンが適しているといえる。また,自分で角度を変えて見たいアングルから撮影することができ,撮影した動画から写真を切り取ったり加工したりするなど,編集が容易な点も魅力である。さらに,機体も小型であるため,人が潜入できないような場所での撮影や,被写体に接近して撮影することが可能である。航空法により高度150mまでしか飛行できないが,それが逆にGoogle Earthとは違った地形の凹凸や臨場感を直に感じることができる。 以上のことから,空間的配置がわかりにくいものでも,ドローンによる視点を加えることによって,理解を促進する効果が期待できる。

    Ⅲ 「地理総合」におけるドローンを活用した授業実践

     実践の主な内容については,以下のとおりである。

    第1部 地図でとらえる現代世界

    ●「地理院地図」の利用とドローンの活用

    ●「世界遺産」学習におけるドローンの活用

    第2部 国際理解と国際協力

    ●「世界の地形」とドローンの活用

    第3部 持続可能な地域づくりと私たち

    ●「東日本大震災」の津波浸水地域とドローンの活用

    Ⅳ 今後の展望

     今後の展望は,フィールドワークにおけるドローンの活用である。実際に巡検により,学習者が自分の目でとらえた視点に加え,上空からの巨視的な視点を付加して観察することで,より臨場感をもってとらえることができると考えられる。ドローンを活用することで,教師がその場で空撮した動画を,見せたいアングルからリアルタイムで学習者に提供することができることは大きな利点である。 このように,「地理的な見方・考え方」をより深く身につけるための,有効な学習方法になり得ると期待できる。

    <参考文献>

    ・井田仁康(2000):『世界を巡って地理教育』,井田仁康編,二宮書店,pp.9-14

feedback
Top