日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 536
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発表要旨
室蘭市における土地利用変化と津波災害リスク
*川村 壮橋本 雄一
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抄録

1.研究の背景と目的

 港湾は国民生活と産業活動を支える重要な物流・生産基盤であり,地理学の重要な研究対象として林(2017)などの多くの研究が蓄積されてきたが,これらの研究において港湾と災害との関係に注目したものは稀である.その中で川村・橋本(2021)は北海道太平洋沿岸の代表的な港湾都市である苫小牧市,室蘭市,釧路市を対象に,日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震による建物被害を都市計画基礎調査の建物データを用いて推計し,土地利用変化と津波災害リスクの関係の解明を試みた.しかし,分析単位として1/4地域メッシュ(1辺約250m)を使用し,小地域で整備された建物データをそのままメッシュに変換していることから,分析の精度に課題があった.特に室蘭市については過去の建物データに小地域で整備されたものを用いており,土地利用変化の分析が低い精度に留まっていた.そこで本研究では室蘭市を対象に高精度な分析を実施し,土地利用変化の空間的特徴と津波災害リスクの関係を明らかにすることを目的とする.なお,研究対象地域の概要は図1のとおりである.

2.使用データと研究方法

 建物データは1994年から2015年までの都市計画基礎調査を使用し,津波浸水データは2012年と2021年に北海道から公表された津波浸水想定を使用する.都市計画基礎調査は1/10細分メッシュ(1辺約100m)に集約する.また,小地域で整備された建物データの延床面積等の数値をメッシュに面積按分する際に,国土数値情報の土地利用細分メッシュデータで建物用地であるメッシュにのみ配分することで高精度化を図る.このようにメッシュごとに集計した数値を用いて,鉄道駅や港湾からの距離で市内を区分して地域別に集計することで,室蘭市の土地利用変化の空間的特徴を確認する.次に,この結果と津波浸水データを重ね合わせ,建物構造別の津波被害率関数を適用して津波による建物被害面積を算出する.

3.分析結果と結論

 室蘭市全体では,1994年から2015年まで延床面積は微増傾向にある.地域別では室蘭駅周辺ではあまり変化が無いが,臨港地区内では大きく増加している.被害面積は室蘭市全体では2001年まで増加し,以降は減少している.地域別では室蘭駅周辺や港湾と鉄道駅のいずれからも離れた地域では減少しているが,臨港地区内では増加している.室蘭市では図2のとおり無被害の地域が室蘭駅や東室蘭駅から離れた内陸部の高台に分布しており,郊外化による津波災害リスク増大は生じていない.一方で臨港地区内部や東室蘭駅周辺での開発は場所によって津波災害リスクの増大につながっている.このように,都市計画基礎調査を用いることで建築構造による被害の程度の差を踏まえて被害面積を算出し,複数の年次間の土地利用変化の空間的特徴と津波災害リスクの関係を明らかにできた.

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