日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S301
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災害・防災について地理学は何を教えるのか
小・中・高の防災教育リレーを考える
*前田 洋介森田 匡俊大西 宏治井田 仁康鈴木 康弘
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抄録

1. シンポジウムの趣旨

 本シンポジウムは,地理総合の必履修科目化を踏まえ,防災教育に地理学が果たす役割を検討するものである.特に小・中・高を通じた学習内容の積み上げに着目する. 2022年度より「地理総合」が高等学校の地理歴史科の必履修科目としてスタートする.地理総合の内容は,「地図や地理情報システムで捉える現代世界」,「国際理解と国際協力」そして「持続可能な地域と私たち」から構成される.本シンポジウムの主題である防災教育は,最後の「持続可能な地域と私たち」の中で「自然環境と防災」として重要な位置を占めており,地理総合の柱の一つといえよう.地理総合の必履修科目化と並行して,地理学とかかわりの深い中学校社会科地理的分野や小学校社会科においても,2017年の学習指導要領の改定により,たとえば中学校では「日本の様々な地域の学習における防災学習の重視」(文部科学省2017:16)が改訂の要点の一つに挙げられているように,自然災害や防災に関する内容の充実が図られている.中学校では2021年度より,小学校では2020年度より新学習指導要領にもとづくカリキュラムがスタートしている.

 このように小学校から高等学校に至る地理教育において災害や防災にかかわる内容が充実化する中,一貫性をもって積み上げられるような学習内容の構築が必要であろう.学習内容の積み上げをめぐっては,日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会(2020:iv)の地理総合に関する提言の中でも,「地理総合の効果的な実践実現のために,小・中・高における接続と一貫性に配慮すべき」と述べられている.また,2017年の学習指導要領の改訂に伴い,小学校社会科では学習内容が,「地理的環境と人々の生活」,「歴史と人々の生活」,「現代社会の仕組みや働きと人々の生活」に区分して整理されるようになり,中学校社会科や高等学校地理歴史科・公民科への接続がより意識されるようになった.

 地理教育において災害や防災に関する教育内容の積み上げを検討する際には,災害や防災は地理以外の分野でも取り扱われることや,災害・防災の教育内容を社会科や地理歴史科といった教科固有の目標の中に位置づける必要があることを考慮しなくてはならない.本シンポジウムでは,このような学校教育の実情を踏まえつつ,小・中・高での積み上げを見据えた防災教育において,地理学が果たす役割を模索する.

2. シンポジウムの構成

 本シンポジウムは以下の6つの発表と総合討論とで構成される.発表1から4では,小・中・高での地理教育における災害や防災に関する教育内容の位置付けや状況について検討する.そして発表5と6では,地理総合の必履修科目化や小・中での防災教育の充実化という局面における教員養成や大学での地理学教育について検討する.その後の総合討論では,上記の報告とフロアからの質問を手がかりに,防災教育をめぐる,小・中・高の教育内容における接続のあり方や地理学の貢献とともに,その中での大学教育の布置について具体的に検討していく.そして総括コメント(鈴木康弘(名古屋大))により本シンポジウムを締め括る.

<各発表の題目と発表者> 発表1:社会科教育,地理教育,防災教育の違いと接点(井田仁康(筑波大)]/発表2:高等学校「地理総合」につながる中学校社会「地理的分野」の防災に係わる学習とは[山内洋美(宮城県仙台西高等学校)]/発表3:小学校社会科の学習内容に含まれる防災教育的要素[小野映介(駒澤大)]/発表4:小学校における防災教育のカリキュラム上の位置づけと留意点[大西宏治(富山大)]/発表5:「地理総合」時代の大学教育における教員養成の課題[志村 喬(上越教育大)]/発表6:大学の防災教育・地理学教育は今後どうあるべきか[由井義通・熊原康博(広島大)] 文献 日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会2020. 『提言「地理総合で変わる新しい地理教育の充実に向けて-持続可能な社会づくりに貢献する地理的資質能力の育成」』 文部科学省2017『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説社会編』文部科学省.

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