日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P046
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社会正義を志向したジオ・ケイパビリティーズ・プロジェクト第3段階の動向
~欧州の学校教師の活動に焦点を当てて~
*伊藤 直之
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抄録

1.問題意識

 高等学校における新科目「地理総合」の必履修化とともに,コンテンツ・ベースからコンピテンシー・ベースへの転換が叫ばれ,日本の学習指導要領においても,資質・能力の育成を旗印にして,育成するべき目標を「思考力,判断力,表現力」というアウトカム形式で定められるようになっている。これらの動向へのアンチテーゼとして注目されるのが「強力な学問的知識(Powerful Disciplinary Knowledge; PDK)」や,それに依拠したジオ・ケイパビリティーズ(GeoCapabilities)プロジェクトである。

本発表では,同プロジェクトにおける第3段階「社会正義(Social Justice)」に向けた取り組みを考察する。なかでも,欧州の研究者と学校教師による協業の成果である「ツールキット」,そして,学校教師による「移民」を題材にした授業実践を分析し,同プロジェクトが示唆する社会正義の意味,ならびに教育的な意義について報告する。

2.ジオ・ケイパビリティーズ・プロジェクト第3段階

 同プロジェクトの第3段階では,下掲の図に示すように,教師が踏む4つのステップを明確化し,良質の地理教育を提供すること自体が,社会正義に間接的に寄与すると考えられている。

(1)ステップ1:地理的に考える

アカデミックな地理に関与して,インスピレーションを得て,自分の考えを明確にするためにヴィネットを書くことで自分の考えを明確化する。

(2)ステップ2:授業のプランニング

 PDKプランニングツールを使用して,学生の現在の知識を評価し,どの「強力なペダゴギー(Powerful Pedagogies)」を採用するかを検討することへと接続する。豊富なリソースやカリキュラムの「成果物(artefact)」を見つけ,それを基に授業を構築する。

(3)ステップ3:教育実践

 教える前に生徒が何を知っているかを評価してから,授業を実践する。

(4)ステップ4:評価と反省

地理的な概念,文脈,手続き的な知識とスキルが授業実践からどのように発展したかを見取り,評価する。ヴィネットに戻り,当初の考えがどの程度,そしてなぜ変化したかを振り返る。

3.ポスター発表における分析対象

 同プロジェクトのウェブサイトには,欧州諸国における学校教師による授業実践や,教師が選択した成果物の例,そして,生徒を対象にしたアンケート例,教師によるリフレクション例などが,随時アップロードされている。

 本発表では学会当日のポスターにおいて,先述の4つのステップに照らして,欧州の学校教師がどのような教育実践を提供し,自身の実践を反省したかについて報告する。そして,欧州の事例で用いられているフレームワークの紹介を通して,今後日本でも援用する可能性を探るとともに,本発表を契機に日本地理学会に参加する中等教育段階の学校教師に,同プロジェクトへの参加を募る予定である。

本研究は「社会正義を志向する社会科教育の創造:学校教師との協働的授業開発とアジアへの普及」JSPS科研(基盤B)21H00867(研究代表者: 伊藤直之)の成果である。

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