日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S406
会議情報

ロシア北極域における気候変化と永久凍土環境変化
*飯島 慈裕佐藤 友徳檜山 哲哉Fedorov AlexanderGroisman PavelGulev Sergey
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

北極は、地球全体の温暖化傾向に比べて、約2倍の強さで温暖化が進行していると言われている。北極の気候の影響を強く受けるロシア北極域においても温暖化傾向に伴い、異常高温や降水量の変化が陸上の様々な環境に大きな影響を与えている。特に、東シベリアに分布の中心をもつ連続的永久凍土地帯では凍土の温暖化や融解による荒廃減少が報告されている。

 このような自然環境変動に対して、現地ロシアの研究者との協働で、自然環境変化の科学的理解に加えて、そこに住む人々への影響、さらには日本を含む全球への影響を考慮した共同研究が、最近10数年間で進展してきた。本発表では、最近の共同研究の進展により得られたロシア北極域での自然環境変動の現状理解と今後の取り組みの方向性について紹介する。

 かつて北極域で見られた20世紀半ばの温暖期(1935~1945年頃)には、シベリアの温暖化は地域的で、北極海沿岸のツンドラ帯で温度上昇の傾向を示すのみであった。しかし、20世紀末(1990年代以降)から、広域に温暖化が進む傾向が明確となり、2000年代に入ると、シベリア全域で年平均気温が上昇する状況となっている。これは、夏季の積算温度(融解指数)の増加と、逆に冬季の氷点下の積算温度(凍結指数)の減少をもたらし、北ユーラシアの雪氷環境を特徴づける永久凍土が地表層から温められる環境になりつつあることを意味している。

 また、北極の温暖化傾向と連鎖して、ロシア北極域への大気場や水蒸気輸送に関連した特徴的な変化が生じている。2000年代以降、夏季の北極海氷の融解と関連したシベリア沿岸側の低気圧偏差の継続によって、シベリア域では夏季後半から冬季前半にかけて降水量の増大が発生した。これは2004~2008年にかけての東シベリアの継続した湿潤年や、2010年代のコリマ川流域での積雪の大幅な増加などの現象と対応し、現地の地表面環境を複数年にわたって大きく変えた。 また、再解析データや予報データを使用した水蒸気輸送の解析結果から、2020年6、7月の東シベリアで発生した熱波には、ユーラシア大陸北部を東西に縦断する波列状の高度偏差が出現し、この偏差は、大気の内部変動の成分に加えて温暖化成分が少なからず影響していることが示された。

 東シベリアの永久凍土地帯には、凍土層内に含氷率が極めて高く、それが数十mの深さで堆積する地域が広がっている。前述の気候変化に伴い、地表面から地温の経年的な上昇傾向が続くことで活動層の深化が進み、それが地下氷にまで達すると、氷の融解と消失(蒸発や流出)が始まる。氷がなくなった部分では、地面が不均質に沈む「サーモカルスト」と呼ばれる地形変化が進行する。

 地表面の活動層から表層の永久凍土にかけては、温暖化に対応して地温の上昇が認められる。東シベリアでは、気温よりも上昇傾向が強く、それは冬季積雪深の変動が重なっている。また、東シベリアのレナ川中流域のように北方林下に連続的永久凍土が広がる地域では、20世紀中の伐採や森林火災など人為的な土地改変の履歴を受けたところで活動層の深化にともなう地下氷の融解が進行し、年間数cm程度の地形沈降が21世紀にはいり顕在化している。これらの地域では、草原・水域の拡大が不可逆的に進んでおり、その影響評価に基づく対応が必要になっている。

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top