主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2022年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2022/03/26 - 2022/03/28
1.はじめに
発表者は2019 年、⻘森市郊外に⽴地する東北新幹線・新⻘森駅の⼀帯を対象地域に、新幹線駅を新たな協働の拠り所とする営みとして、ニュースレター「はっしん︕ 新⻘森」の発⾏を始めた。同駅に近い⻘森県⽴⻘森⻄⾼等学校と⻘森⼤学の⾼⼤連携事業でもあり、⻘森学術⽂化振興財団の⽀援を3 カ年にわたって受けている。⼀連の経緯は⽇本地理学会の2019 年秋季学術⼤会、ならびに翌2020 年の秋季学術⼤会で報告した。本研究では、それ以降の経緯を概観するとともに、2031 年春に予定されている北海道新幹線の札幌延伸を視野に⼊れた道南・⻘森エリアの交流、そして開業対策やオンライン社会の連携のヒントとなり得る取り組みについて報告、展望する。
2.2020 年度から2021 年度への概観
ニュースレターは⽉1 回、A3 版両⾯カラーの印刷版を発⾏し、関係機関・施設に配布するとともに、Facebook ページを開設して画像データ化した紙⾯を掲載、さらにオンラインの独⾃コンテンツを含む記事を定期的に掲載してきた。2022 年1 ⽉現在、発⾏回数は29 回を数える。
コンテンツの中心は、新青森駅のイベントや企画、青森西高校の生徒らがつくる「青西おもてなし隊」の活動、駅の近くに所在し2021年に世界文化遺産に登録された三内丸山遺跡、および遺跡に隣接する青森県の代表的観光スポット・青森県立美術館である。
2020 年以降、COVID-19 によって印刷版は再三、休刊を余儀なくされた。 それでも、⼩康状態の時期には⽇常の暮らしと活動が戻り、紙⾯も順調に制作できた。
3.⻑万部⾼校との交流
⼀連の活動で特筆すべきは、⻑万部町や⻑万部⾼校と新⻘森駅、そして⻘森⻄⾼校のつながりが⽣まれたことである。起点は、⻑万部⾼校⽣らが2021 年7 ⽉、新⻘森駅を視察したことだった。
⻑万部町は、2031 年春の開業に向けて建設が進む北海道新幹線・新函館北⽃-札幌間の中間に位置し、⻑万部駅は在来線と新幹線の乗換駅になる。町は新幹線開業対策の⼀環として2016 年、「⻑万部町まちづくり推進会議」を設置した。2021 年には、町⺠の要望や意⾒を採り⼊れて駅舎のデザインを考える「駅デザイン検討委員会」の活動が始まり、⻑万部⾼校⽣7 ⼈が会議のファシリテーター役を担った。そして、駅の構造や機能が⻑万部駅に共通する新⻘森駅を⾼校⽣らが視察することになり、発表者が現地案内講師を務めた。
視察は、北海道新幹線札幌延伸に向けた道南・⻘森エリアの交流事例として注⽬され、その様⼦は地元メディアでも報じられた。この際、⻘⻄おもてなし隊の⽣徒らがサプライズで⻑万部⾼校⽣を歓迎し、引率者らも予期しなかった交流が⽣まれた。その後、両校の公式の交流はなかったものの、⽣徒たちはSNS を活⽤して交友を深めていたという。
4.オンライン・フォーラムの開催
発表者らは2019 年11 ⽉、⻘森⻄⾼校で「おもてなしフォーラム」を開催し、同校やJR 東⽇本、国の出先機関、⻘森県庁、住⺠団体など、多様な組織から参加者があった。2020 年は開催を⾒送ったが、2021 年11 ⽉、⻘森⻄⾼校を会場にその第2 弾を実施した。
オンライン社会に対応した、パブリック・ビューイング⽅式とZoom を組み合わせたハイブリッド形式とし、⻑万部⾼校の校⻑と⽣徒がオンラインで参加した。2019 年に続いて、地域連携DMO・信州いいやま観光局の⼤⻄宏志⽒がオンラインで講師を務め、新⻘森駅⻑やJR 東⽇本盛岡⽀社の社員、住⺠団体メンバーがリアルで参加した。さらに、⻘森運輸⽀局、⻘森県庁などからオンライン参加があった。今回も充実した
意⾒交換が⾏われ、その様⼦は地元メディアで報じられた。
5.意義と展望
COVID-19 の影響もあり、当初の⽬的だった「新幹線駅のメディア化と新たな協働づくり」は、必ずしも順調に進展していない。しかし、逆⾵を乗り越える形で、北海道新幹線の延伸地域と⻘森エリアの交流が⽣まれたことは、想定を超えた収穫と位置付けている。管⾒の限り、北海道新幹線をめぐる、延伸地域の⾃治体や学校と、⻘森市内の学校との直接的な交流は前例がない。
北海道新幹線の沿線は、札幌エリアを除き、⼈⼝減少と⾼齢化が⽇本全体の平均を上回るペースで進⾏している。10 年後に予定される札幌延伸時には、現時点では予測困難な社会的、経済的課題が発⽣している公算が⼤きい。それを克服していくには、次代を担う世代とともに、沿線同⼠が⼿を携え「地域に⽣きる⼈々⾃⾝が現状を⾒定め、課題を発⾒し、対策を考えていく仕組み」を整える必要があろう。
⾼校⽣同⼠の交流が今後、どのような将来像につながるか、また、地理学にどのような⽀援ができるか、意⾒や助⾔を求めたい。
☆⻘森学術⽂化振興財団・令和3 年度助成事業