日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 246
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奄美大島宇検村における台風高潮時の避難対象の検討
全住民避難計画の基礎資料
*岩船 昌起
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抄録

【はじめに】地球温暖化による「猛烈な」台風の襲来に備えて,沿岸の低標高地域では高潮対策を講じる必要がある。また,2022年1月15日フンガ・トンガ–フンガ・ハアパイ火山大規模噴火に伴う潮位変化等,突発的な津波への備えを強化する必要がある。奄美大島宇検村では,南西諸島「高島」の模試的な地形特性を有し,山地と海に囲まれた沖積低地が居住域で,大半が標高5m以下であり,台風高潮や津波等の急激な潮位変化での浸水が想定される。演者は,鹿児島県防災アドバイザー制度等を通じて,2020~2021年に宇検村での住民ワークショップ等を4回行い,特に台風高潮対応に関するリスクコミュニケーションを重ねている。本発表では,湯湾区での浸水段階ごとの避難対象や避難可能場所等を検討し,これにかかわる全住民避難計画実施上の課題を挙げる。

【方法】宇検村は,人口1,621人,高齢化率43.2%である(令和2年10月1日現在)。宇検村最大の行政区・湯湾区は,240世帯,人口458人(男214,女244)であり(令和3年12月末日現在),役場や消防分駐所等の行政機能が立地する。ここで,現地調査等から構造(木造・鉄筋造・RC造)や階層から家屋を分類し,水準点および地形特性から居住地の標高を凡そ把握する。また,高潮警報・注意報の基準値,「災害に係る住家の被害認定基準運用指針/浸水深による判定」等も活用する。

【結果】家屋分類の結果,湯湾区では,木造1階の家屋が多く,RC造2階以上の建物が役場や村営住宅等に限られる(図1)。地盤高が未測量であるものの,役場前の一等水準点(標高 2.7364 m)から(国土地理院HP),居住地が広がる沖積低地では標高2~4 m程度と推測される。また,高潮警報と高潮注意報の潮位は,2.4 mと1.5 mである(気象庁HP)。

【考察】津波襲来に対しては,自家用車等を活用して高所避難が可能だが,「猛烈な」台風襲来時には,暴風も伴い,車中避難ができない。また,新型コロナウイルス感染症対策も考慮すると,村内の頑強な建物を有効活用して,避難者生活空間(個人占有区画一人当たり4 ㎡以上,通路幅1 m)十分に確保した分散避難が,台風時の避難場所として望ましい。

 上記の結果と,「災害に係る住家の被害認定基準運用指針/浸水深による判定」を参考に,浸水段階ごとの避難対象家屋と避難可能場所等が表1にまとめられる。潮位1.5 m以上2.4 m未満が高潮注意報発表時で,レベル3(高齢者等避難)相当である。潮位2.4 mに達すると高潮警報が発表され,レベル4(避難指示)となる。さらに潮位が上昇すれば,防潮堤の高さを潮位が上回り,海岸・河川沿いの家屋で床下浸水が始まる。この時道路が既に浸水しており,レベル4以降他家屋に徒歩移動できない場合が生じる。レベル5(緊急安全確保)では,潮位が高い程,家屋の被災度合い(床下浸水~倒壊・流失)が大きくなる。従って,レベル3までに,後の潮位最高値が明確に予報され,避難可能場所が的確に判断されないと,潮位上昇に伴い死傷者が発生する恐れがある。

 課題として,次が挙げられる。①高潮警報の基準値前の潮位で,防潮堤の切れ目や河川を遡って浸水する事例が奄美大島内で生じており,行政区(集落)ごとに浸水箇所を測量等して,高潮警報の基準値を見直す必要がある。また,②各家屋の安全性の確認のためにも,居住域での標高をパーソナル・スケールで把握する。以上を克服しつつ,③浸水想定ごとの避難対象と避難者数を特定し,④堅固なRC造2階以上の建物を基本として,避難所定員との兼ね合いから,個人宅避難の整備を進める。一方,⑤自主防災組織の再編成等を進め,住民連携をさらに強化する。

【おわりに】台風高潮避難計画にかかわり,浸水段階ごとの避難対象と避難可能場所等を整理した。宇検村では避難行動要支援者の個別避難計画今年度策定を目指している。今後避難計画全体の社会実装を進めたい。

<謝辞>本研究の一部は,科研費基盤研究(C)(一般)「避難行動のパーソナル・スケールでの時空間情報の整理と防災教育教材の開発」(課題番号:1 8 K 0 1 1 4 6)の一部である。

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© 2022 公益社団法人 日本地理学会
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