主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2022年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2022/03/26 - 2022/03/28
1. はじめに
筋状雲は主に海上などで主風向と平行に延びる積雲列である。その中でも太平洋側で見られる筋状雲は,地形の力学擾乱によって形成されたものである(Kang and Kimura, 1997, Kawase et al., 2005)。筋状雲に限らず,地形によって発生する雲は限定された地域で発生するが,関東地方で発生する筋状雲は房総半島から御前崎までの広範囲にわたって発生する。河村(1966)は,どこで形成されるかは中部山岳 周りの流れ場によって決まると報告しているが,それ以外の環境場の特徴については明らかになっていない。筋状雲は,時間とともに移動をするため,その形成域と環境場の関係を理解するためには,時間・空間ともに高分解能なデータを用いた解析が必要である。本研究は,東海〜関東地方で発生する地形性の筋状雲出現時の気候特性について明らかにすることを目的とする。特に筋状雲の出現域による環境場の違いに着目して議論する。
2. 手法
1993年~2012 年の静止気象衛星赤外データを用いて,中部山岳から延びる筋状雲を抽出した。抽出条件は,積雲列が中部山岳から風下に延びていること(ただし小低気圧を伴うものは含めない),筋状雲の吹走方向に沿って雲が動いていることとした。また,筋状雲の出現域を駿河湾域,伊豆諸島域,房総半島域の3領域に分類し,それぞれの環境場の特徴を調査した。環境場の解析には,ECMWF Reanalysis v5(ERA5)とJRA-55領域ダウンスケーリング(DSJRA-55)を用いた(Kayaba et al., 2016)。
3. 結果
筋状雲の月別出現頻度を調べた結果,12月~3月の出現頻度は25%を越え,特に12,1月には40%に達していた。地域毎に着目すると,伊豆諸島域での出現頻度は60%と大半を占めており,駿河湾域,房総半島域はそれぞれ28%,12%だった(図略)。筋状雲出現時の環境場,具体的には中部山岳周辺における850hPa高度の風について調べた結果,駿河湾域で出現する事例は 5~10 ms-1の北西風の時に出現しやすいのに対し,伊豆諸島域では同様の風向で10 ms-1を越える時に出現しやすい。また房総半島域で出現する事例は,10ms-1を大きく越える西北西風でのみ出現していることから,出現域が風向と風速の両方で決まることが示唆される(図略)。ブラントバイサラ振動数から大気の安定度を見ると,房総半島域で出現する時は日本海側を中心に弱い安定となっているが,駿河湾域では全体的に強い安定であり,両者の値は平均で0.003s-1異なる(図 1)。前者については大陸からの強い寒気移流に覆われている時に発生すると考えられるため,今後は寒気移流の強度について調査する予定である。
謝辞:気象衛星データは千葉大学環境リモートセンシング研究センターから提供された。また,DSJRA-55データセットは気象庁により作成されたものであり,文部科学省の委託業務により開発・運用されているデータ統合・解析システム(DIAS)の下で収集・提供されたものである。