主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2022年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2022/03/26 - 2022/03/28
1.研究の背景
現在、日本では国土交通省と経済産業省が中心となりMaaS(Mobility as a Service)の推進を行っている。MaaSとは「複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを適切に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス」(国土交通省,2021)である。また、交通・移動サービスのみならず、観光や医療などと連携することにより、観光者の移動の利便性向上や交通弱者の移動支援など、観光振興や地域問題の解決が目指されている。
観光については、伊豆エリアの「IZUKO」や小田急電鉄が運用するMaaSアプリ「EMot」など、観光との連携が全国で進んでおり、MaaSを活用した地域振興に期待されている。今後、MaaSを活用した観光振興を進めていくためには、MaaSと観光との連携状況を把握したうえで、そこでの課題を明らかにする必要があると考えられる。そこで、本研究は観光とMaaSの連携状況を把握するとともに、観光と連携したMaaSでの連携移動手段と提供サービスを明らかにすることで、観光と連携したMaaSの特徴を検討する。
2.調査方法
本研究では、平成31年4月から開始された国土交通省と経済産業省が進める「スマートモビリティチャレンジ」の採択事業から96事業を対象に、両省および対象自治体、関連企業・組織の発行する資料を収集した。その情報をもとに、観光、商業、医療・介護・福祉などとの連携の有無、連携移動手段(鉄道、タクシー、バスなど)および提供サービスの種類(予約、決済、情報提供、オンデマンド交通、インセンティブの付与など)を調査した。
3.日本におけるMaaSの状況
日本でのMaaSは観光、商業、医療・介護・福祉、その他(災害対策、教育支援など)との連携が確認でき、半数が観光との連携がなされている。ただし、そのうち半数以上は観光単独で連携したものではなく、商業などとも並行して連携したものである。MaaS内で連携される移動手段の状況を城福(2021)に基づいて整理すると、バス、タクシー・ハイヤーが上位に位置している。これは過疎化の進む地域における交通網の再編という位置づけでMaaSが導入されているからと考えられる。一方で、MaaSで特徴となるカーシェアやシェアサイクルの取組みは目立たない。提供サービスでは、オンデマンド交通が最上位に位置し、続いて情報提供、経路検索・案内、インセンティブの付与が続く。
4.観光と連携したMaaSの特徴
3.で確認した観光との連携状況をもとに96事業を、観光のみ連携が確認された「観光単独連携型」、観光と商業の組み合わせなど、観光を含む複数の連携が確認された「観光複合連携型」、観光との連携が認められなかった「観光非連携型」、交通の取組みのみの「交通単独型」に分類し、それぞれの連携交通と提供サービスの差異を検討する。全体として、観光との連携が認められる事例ほど、バスやタクシー、旅客鉄道など既存の移動手段のみならず、シェアサイクルなど新たな移動サービスを用いる傾向にある。また、提供サービスについても経路検索・案内やキャッシュレス決済、電子チケットなどMaaSの核となる交通・移動サービスの統合も、観光と連携した事例において割合が高くなる。ほかにも、地域情報の提供や、割引やポイントといったインセンティブの付与など、移動を促す取り組みも観光と連携した事例の方が高い割合で取り組まれている。
以上のように、観光と連携したMaaSはより多様な移動手段の統合、およびより多様なサービスの提供に結びついている。今後、観光とMaaSの連携におけるより具体的な課題と効果について事例分析を行っていく。