日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P017
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南海トラフ地震 被害想定地域における集落立地の地形特性
東北地方太平洋沖地震被災地域との比較を通して
*楮原 京子桐村 喬小林 茉由松多 信尚
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抄録

1 はじめに

 近い将来発生するとされている南海トラフ沿いの巨大地震による災害規模は,東日本大震災と比べても甚大なものとなることが報告されている.また,発災後の救援・復旧の段階においては,地震と津波による直接的な被害もさることながら,サプライチェーン・ライフラインの寸断による障害を考慮しなければならない.特に,現在の暮らしは,自給的というよりも,広域流通網に支えられて他地域からの供給に依存している状況である.

 荒木ほか(2017)は,このような状況から,発災直後にいかに物資を被災地に届けられるのかということも喫緊の検討課題であり,その課題解決に地理的視点が重要であることを説いている.その中で,南海トラフ地震の被害が大きいとされている四国地方や紀伊半島は,集落が山間部に分散し, それらにつながる道路の多くが地すべり多発地帯を通っていること,主要道路は沿岸部に巡らされていることが多く,高速道路の整備は不十分であることなどを挙げ,東日本大震災の物資輸送の方法(くしの歯作戦)が,そのまま適用できるかについては,検討の余地があるとしている.

 このように東日本大震災の被災地域と南海トラフ地震の被害想定地域では,さまざまな条件が異なることが明らかであるが,その点を踏まえた実証的研究は,十分に蓄積されているとは言いがたい.また,調達地から広域物資拠点への輸送に関しては,いくつかの検討等を目にするが,広域物資拠点から集落や自治会避難所への輸送については乏しく,合わせて具体的に検討する必要がある.

2 研究方法

 本研究では,集落の地形特性を整理し,救援物資輸送計画上の課題点を明確することを目的に,以下の手順で研究を進めた.

 まず,本研究において,集落は住家の集合とみなし,国土基本情報の建物ポリゴンから50mのバッファを作成して,集落の概形(以下,集落ポリゴン)を捉えることとした.地形特性については,国土基本情報の数値標高モデル(50mDEM)をもとに,いくつかの地形量を試行した結果として,地表の曲率を表す収束指数(Convergence Index,以下,CI)を指標として用いることとした.続いて,集落ポリゴン毎にCI値の統計量(平均,最頻,分散など)を付与し,集落がどのような地形上に立地しているのかを読み解くデータとした.以上の処理にはQGISを使用し,解析範囲は,南海トラフ地震の被害想定地域のうち,紀伊半島3県(三重・奈良・和歌山県)と四国地方4県(徳島・香川・愛媛・高知県),くしの歯作戦がとられた東北地方太平洋岸3県(岩手・宮城・福島県)である.

3 四国地方および紀伊半島の集落立地

 四国地方および紀伊半島の集落の立地条件はいくつかに区分され,その中でも特徴的な4つを紹介する.1)地すべりの緩斜面上の集落,2)段丘面上の集落,3)やせ尾根上の集落,4)谷沿いの集落である.CI値は概ね1)および3)は正で分散する傾向があり,2)および4)は負あるいはゼロに近い正となる傾向がある.また,分布形態は1)は斜面中腹で散逸的,2)は段丘面の発達の良さに依存し,断続的,3)は点在,4)は段丘面上の集落よりも連続的であった.

 これらの集落のうち,1)は四国山地で,3)は紀伊山地で顕著に認められた.付加体からなる急峻な山地という地形・地質条件がよく似た四国・紀伊山地ではあるが,集落の立地パターンは異なっていた.また,3)は脆弱な地域と考えていたが,高野龍神スカイラインのように尾根に敷設された道路も多いことを考えると,道路が正常な限り,孤立は免れる可能性がある.一方,1)は主要な道路に近接している場合もあるが,道路の形態が非常に複雑で折り返しが多く,経路距離が著しく長くなることを考慮しなくてはならない.

 以上のように,本研究では集落と経路の地形特性をもとに,くしの歯作戦と四国おうぎ作戦等との比較検討を進め,救援物資輸送を戦略的にみる.

謝辞:本研究は科研費(課題番号18H00772)の助成を受けたものである。

文献:荒木一視ほか 2017.『救援物資輸送の地理学 被災地へのルートを確保せよ』ナカニシヤ出版.

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