日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 311
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在日外国人の集住と社会的統合
インターネット調査の結果を用いて
*滕 媛媛中谷 友樹埴淵 智哉
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抄録

1. はじめに  

 少子高齢化の急速な進行を背景に、日本は留学生や外国人労働者の受け入れを拡大してきた。コロナ禍前の2019年12月における在日外国人数は293.3万人であり、過去最高の水準に達していた。多文化共生社会の構築において、在日外国人の統合状況の総合的把握およびその影響要因の解明が不可欠である。なお本研究における統合状況とは、外国人の元々の性質を失って溶け込む同化ではなく、成功した人生や充実した生活をホスト国で送るために必要となる、知識および能力を身につけている度合と定義する(Ager and Strang, J Refug Stud 2008; Kymlicka, Oxford Political Theory 2012)。  日本における外国人の統合状況およびその関連要因について、社会学の観点からの分析が蓄積されてきたが(例えば、永吉ほか 日本の移民統合 2021、是川 移民受け入れと社会的統合のリアリティ2021)、その統合状況と地理的状況(例えば、居住地域の状況や集住の度合)との関連性に関する分析はまだ少ない。定論はないものの、欧米においては移民の集住とその統合との関連性について多くの議論がある。移民はその社会経済的統合や文化的統合の度合が高くなるにつれ、集住地域から転出し、空間的に分散するようになる(空間的同化論)。また、移民の集住またはセグリゲーションは、その社会的・経済的な孤立を強化させ、統合を阻害するとの主張がある。一方、集住地域で形成されたインフォーマルなネットワークが、移民に心理的サポートや生活、雇用に関する情報などを提供できるため、集住は移民の統合を促進できるとの主張もある(Drever, Urban Stud 2004)。他方、外国人人口が多い地域において、外国人に対する行政サービスが他地域と比較して充実する傾向があるため(井澤・上山 地域イノベーション2018)、外国人の集中は、そのホスト社会への定着に正の効果をもたらす可能性もある。日本では、外国人集住地区に居住する外国籍人口の割合が増加する傾向があるものの(是川 都市住宅学2020)、その集住と統合の関係性は必ずしも明確ではない。そこで、本研究は、在日外国人に対して質問紙調査を実施し、集住と統合との関連性の検証を試みる。

2. 方法  

 2021年10月に日本全国に居住する20歳以上の外国籍住民に対してインターネット調査を実施した(①基本属性:女性61%、平均年齢37歳、大学以上学歴65%、東京都居住29%、②回答言語:日本語84%、英語10%、やさしい日本語7%、③国籍・地域:中国本土+香港+台湾50%、韓国+朝鮮16%、ベトナム6%、ブラジル6%、アメリカ4%、ヨーロッパ5%)。本分析では、日本以外の国で生まれ、かつ、調査時に日本での滞在期間が1年以上であった1,455サンプルを使用した。  在日外国人の統合状況を測るため、移民政策研究所による統合指標(Harder et al., PNAS 2018)の短縮バージョン(IPL-12)を利用した。この指標は、心理面・経済面・政治面・社会面・言語面・生活能力面の6つの方面から統合状況を総合的に把握できる。また、集住については、①居住地(大字・町名レベル)における外国籍人口の割合(10%以上かどうか)、②近所におけるエスニックネットワーク(近所における日本人以外の知り合いが多いかどうか)の2つの指標を用いた。

3. 結果  

 外国人人口の割合が10%以上である地域に居住する回答者の割合は約5%であった。外国人の割合が高い地域に居住することで、各面の統合状況に差があるかについてt検定を行ったところ、社会面の統合度合においてのみ有意差がみられた。集住地域に居住する回答者の社会面の統合度合は比較的低かった。

 また、11%の回答者は近所に同国出身または他の国の出身の知り合いが多かったと回答した。これらの外国人の特徴として、20代、滞日年数10年未満、出身国が低・中低所得国であることがあげられる。近所に外国人の知り合いが多いかどうかで、各面の統合状況に差があるかについてt検定を行ったところ、総合的統合度合(6つの面の点数の合計)には有意差がみられなかったが、心理面、経済面および生活能力面の統合度合において有意差がみられた。近所に外国人の知り合いが多い人において、経済面および生活能力面の統合度合が比較的低かったものの、心理面の統合度合が高かった。すなわち、社会経済的状況が比較的優れていない、および、日本での生活に慣れていない外国人は集住する傾向があるが、彼ら彼女らの総合的統合度合は必ずしも低いわけではない。集住地におけるエスニックネットワークは、新規外国人などの日本社会への適応が比較的低い外国人をサポートする役割を果たしている可能性が考えられる。

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