日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P028
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沖縄島南部における湧水の集水域の地質および土地利用条件が水質に与える影響
*今井 あやめ鈴木 秀和
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抄録

1.はじめに 琉球石灰岩はその多孔質な地質条件のため透水性に優れており、蒸発分を除いた降水の大部分は地下水として貯留される。このような性質を有するため、地表河川の発達が悪く、琉球列島の島々は近年まで生活水に湧水・地下水を利用してきた。水道が広く普及した現在でも、災害時の非常用水源にもなり得るこれらの湧水は、地域にとって貴重な水資源であることから、その性状を明らかにすることは、今後の利用や保全を考えていくうえで必要不可欠である。湧水の水質は、その集水域における様々な環境条件を反映した特性を持つことが予想される。そこで本研究では、おもに湧水の集水域における地形地質および土地利用条件と水質との関わりについて議論する。 2.調査方法 本研究では、対象地域を北部地区(那覇周辺)と南部地区(南城周辺)にわけ、それぞれ7地点ずつ計14ヵ所の湧水を対象に、2020年2月~2021年6月にかけて採水調査を実施した。現地では水温、電気伝導度(EC)、pHを測定し、実験室へ持ち帰った水試料は、一般水質とSiO2について分析を行った。湧水の集水域については、ArcGIS Desktop 10.7.1を用いて、DEM(国土数値情報の5mメッシュ)から集水域の推定を行った。また、既存の図をもとに、集水域内の地質および土地利用別面積を求めた。 3.結果および考察 3.1. NO3-濃度について NO3-濃度が高い湧水は、北部・南部両地区に認められた。NO3-濃度が高くなる要因として考えられるのは、畑地における施肥と生活・畜産排水の影響である。そこで、各湧水の集水域内の農業的土地利用面積とNO3-濃度の関係をみたところ、その面積が1000m2以上の地点については、非常に高い相関関係(R2=0.84)が認められた。最もNO3-濃度が高いギーザバンタ湧水は、地下ダムの水が途中で合流した水である。GISを用いてDEMから作成した集水域に地下ダムは含まれないが、地下ダムの集水域にはサトウキビ畑が広がっており、実際の集水域には広大な農業的土地利用地域が広がっている。一方、農業的土地利用の少ない那覇周辺において高濃度の地点がみられるのは、生活排水の影響が考えられる。 3.2. SiO2濃度について SiO2濃度は、北部で相対的に高く南部で低い傾向を示した。SiO2はケイ酸塩岩に由来する成分であり、石灰岩に代表される炭酸塩岩には表面を覆う土壌層を除き、基本的には含まれない成分である。調査地域の地質をみると、北部の那覇周辺には泥岩質の島尻層群が広く分布し、琉球石灰岩の分布域は狭く限定的である。一方、南部の南城周辺には琉球石灰岩が広く分布し、一部ではより厚く堆積している場所もみられる。対象地域における多くの湧水は、基盤岩となる島尻層とその上にのる琉球石灰岩の不整合面から湧出している。このような地質特性と湧出機構をもつため、北部の湧水はケイ酸塩岩である島尻層との接触時間が相対的に長くなり、SiO2濃度が高くなると考えられる。それに比べ、琉球石灰岩がより広くしかも厚く堆積する南部では、湧出までの間に地下水が島尻層と接触する機会が少ないため、SiO2濃度が低くなるものと考えられる。 3.3. 琉球石灰岩の層厚とCa2+濃度の関係について 廣瀬・金城(2019)では、本研究対象地域に含まれる南城市の湧水について、その電気伝導度(EC)と湧出地点の標高の間に逆相関の関係がみられることから、地下水が石灰岩体中を流動する時間が石灰岩の溶食の進行と関わりが深いことを述べている。溶食の進行を検討するにあたり重要になるのは、その結果地下水中に供給されるCa2+とHCO3-の含有量であり、これらの成分濃度が高いほど、より長い間石灰岩中を流動してきた湧水であると考えられる。このような考え方は、湧水の集水域がほぼ同じ地形地質条件を有している際には有効であるが、湧出地点の標高が同じでも、集水域の条件が異なれば、標高に基づき湧出するまので時間や距離を評価することは難しい。今回採水した水試料を用いてCa2+濃度と標高の関係を求めたところ,明瞭な相関関係はみられなかった。そこで本研究では、石灰岩の溶解量(溶食作用の度合い)について検討する際には、涵養域における石灰岩の層厚を利用する方がより正しい評価ができるものと考え、石灰岩の広がりとDEMで求めた標高分布に基づき,湧水の集水域内における石灰岩の最大層厚を求めた。Ca2+およびHCO3-濃度と層厚の関係を求めたところ、それぞれに明瞭な正の相関関係(R2=0.55、R2=0.69)が認められた。これは、石灰岩の層厚が厚いほど石灰岩体中を流動する時間(すなわち石灰岩と水との反応時間)が長くなり、石灰岩が多く溶解(Ca2+濃度が上昇)したことを示唆している。

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