日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 408
会議情報

空間的・時間的視点からみたAEDのアクセシビリティの評価
*伊藤 航木村 義成服部 良一堀 英治渡部 和也日根野谷 有宇己山本 啓雅溝端 康光
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

研究背景  日本では,年間約12万人の心停止(CPA)傷病者が発生している.そのうち心室細動や無脈性心室頻拍の症状を呈している場合には迅速に自動体外式除細動器(AED)を使用し除細動を行うことが,傷病者の生死や予後を大きく左右する. 日本では2004年に非医療従事者によるAED使用が認可されて以降,公共施設や学校などに多くのAEDが設置されてきた.しかし,AED設置台数の増加とは裏腹に,CPA傷病者に対してAEDが使用された事例は極めて限定的である.AEDの設置や管理に関する法的整備が進められておらず,CPA傷病者の発生傾向を考慮しないAEDの配備が進められてきたことがその原因の1つとして考えられる. 日本では市民のAEDに対する意識向上や,バイスタンダー(傷病者発生に居合わせた人)によるAED使用率の向上のために,さまざまな法人や自治体,民間企業などによってAEDマップが作成されているが,情報の網羅性や精度,公開手法などは統一されておらず,またこうした観点に対する学術的な裏付けが十分でない状況である. 研究目的 以上のような背景をふまえて,本研究では,救急記録から取得したCPAの発生時刻,発生地点の情報に基づき,現状のAED配備体制によって,どの程度CPA傷病者をカバーできているか空間的・時間的観点から明らかにすることを目的とした。 研究手法 本研究では,堺市消防局管轄地域のうち堺市および高石市で2020年1月1日~2021年6月30日までの期間に発生したCPA発生動向と,当消防が運用する「まちかどAED」の設置地点および使用可能時間を分析し,時間帯ごとのAEDアクセシビリティの変化および研究対象地域内における格差を比較検討した.具体的には,CPA事案の発生地点の住所をジオコーディングした.「まちかどAED」の位置情報に関しては,AEDマップ上にプロットされている座標の緯度経度情報を使用した. そして,AED設置地点から半径100m,200m以内の圏域で発生したCPA事例について,近接AEDの使用可否を分析集計した.さらに,AEDのアクセシビリティが時間帯によってどの程度変化するかを明らかにするために,全CPAが同時間に発生した場合の近接AED使用可否を分析,集計した. 研究結果と考察 AED設置地点から半径100m以内で発生したCPA件数と,200m以内で発生したCPA件数を比較した結果,約3.4倍に増加することが明らかになった.すなわち,CPA発生地点とAED設置地点の間を往復するのではなく,AEDを設置施設からCPA傷病者の元まで輸送することができれば,同時間内にAEDが使用できる圏域が大幅に広がることが明らかになった.この結果は堺市消防局が口頭指導の一環で実施している,AED設置事業者へのCPA傷病者発生地点までのAED輸送の依頼が有効であることを示している. また,実際のCPA発生時刻に基づいた近接AEDの使用可否だけでなく,実際のCPA発生地点における平日/休日および昼間帯/夜間帯のAEDアクセシビリティの検証を行うことにより,平日と比較して休日において,また昼間帯と比較して夜間帯においてAEDアクセシビリティが有意に低下するということについて,より多角的に実証することができた.

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top