長大な活断層系は,いくつかの区間に分かれて活動することが多く,将来発生する地震の規模を予測するために,活動区間の推定は活断層研究の重要なテーマとされてきた。糸魚川-静岡構造線活断層系(以下ISTL)は,全長160kmの国内最大級の内陸活断層系であり,断層分布,変位様式,平均変位速度,活動履歴等に関する多数の研究によって,活動区間の議論がなされてきた。しかし,2014年に最北部の神城断層で発生した地震(Mw 6.2)は,それまでの研究に基づいて推定されていた規模よりもひとまわり小さな地震であった。地震後の調査からは,過去に同規模の地震やさらに広範囲に連動した地震が発生していた可能性が示され,現在みられる変位地形の形成には多様な活動区間を持つ地震が寄与してきた可能性が示唆されている。 活動区間の区分を検討するためには,個々の断層の活動時期や地震時変位量とともに,隣接する断層どうしの分布形状や変位様式の関係を明らかにすることが重要である。ISTL南部の白州断層付近付近は,逆断層と左横ずれ断層が隣接し,走向の違いによって変位様式が変化すると考えられている(澤,1985)。しかし,同様の走向を持つ南側延長では,鳳凰山断層に左横ずれ運動が推定されるなど,走向と変位様式の関係は十分明らかにされていない。森林地帯に分布するため,変位地形の分布や形状が十分に把握されていないことが理由と考えられる。また,既往のトレンチ調査はトレースの並走区間で実施され,それぞれで異なる活動時期が報告されており,周辺に分布する活断層との関係を議論する上で,白州断層を代表する十分な古地震データが得られていない。 そこで本研究では,トレースの連続性や変位様式を検討するために,航空レーザ測量(LiDAR)に基づく高解像度DEMのステレオ判読によって,変位地形の詳細な分布と形状を明らかにした。また,トレースと最近の断層活動との関係を検討するために,トレンチ調査を実施して活動履歴と地震時変位量を推定した。