主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2022年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2022/03/26 - 2022/03/28
湖底堆積物には過去から現在に至るまでの湖の変遷情報が保存されている.堆積物は大きな撹乱を受けなければ毎年,様々な「情報」が堆積していく.この「情報」の中には植物の種子や花粉,貝殻片などの動植物遺骸が残っており,微化石・花粉分析などにより古環境復元が行われている.しかし,堆積物中にはこれらの遺骸が含まれていないこともあり,必ずしも正確に復元できているとは限らない.そこで本研究は近年利用が盛んになった環境DNAに着目した. 近年,水域を対象とした生物調査では,直接採捕などの従来の方法に代わり,環境DNAが用いられるようになってきた.環境DNA(以降eDNA)は水中,土壌,大気中に存在している生物由来のDNA断片を採取し,分析することで対象生物の在・不在を判断できる技術である.eDNA研究例の多くは河川や湖沼などの水を用いて,魚類を対象にしたものが多い.水中に存在するeDNA断片は生物から放出されて数時間~数日以内には分解されるため,リアルタイムの情報を得るには適しているが,過去の情報については水からは得ることはできない.一方で堆積物には土粒子などと共に水中のeDNAが毎年堆積し,さらには貧酸素環境下であることからeDNAの分解が起こりにくいため古環境復元に利用されている(Capo et al. 2021). 宍道湖では戦後にそれまで豊富であった水草が消失したが,2009年頃から回復し,現在では漁業被害が生じるほど大繁茂している.宍道湖の過去の水草の繁茂状況を示したものとしてはKasaki (1964)やKomuro et al.(2016)によって藻類の車軸藻類が繁茂していたことが明らかとなっている.Komuro et al. (2016)は宍道湖湖底堆積物を使用して,水草の種子を採取し,車軸藻類の卵胞子が存在していたことを明らかにした.しかし,堆積物からは車軸藻類の卵胞子のみが採取された.戦前の絵葉書や風景写真を確認すると水面まで水草(維管束植物種)が生えていた写真が確認できるため,堆積物中にも水草のDNAが残っている可能性がある.そこで,本研究では植物化石ではなく堆積物中に保存されているsedaDNA(sediment ancient DNA)を用いてChara brauniのDNAの検出を試みたので,その報告を行う.