日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 517
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チベット高気圧と北太平洋高気圧が日本の暑夏・冷夏の発生に及ぼす影響
*井上 誠宇賀神 惇木口 倫山下 陽介小峰 正史山川 修治
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抄録

1.はじめに

 干ばつや冷夏などの気象災害は、稲や果樹などの農作物の収量に大きな影響を及ぼす。日本の夏季の天候は、対流圏下層から中層で発達する北太平洋高気圧とオホーツク海高気圧との関連が強いことは知られているが、それらの挙動だけでは正確な暑夏・冷夏の予測につながっていないのが現状である。西森(1999)は、上部対流圏から下部成層圏に発達するチベット高気圧と北太平洋高気圧の強化による日本への張り出しと関連した暑夏の事例を報告しており、対流圏中下層より上空の高度分布にも着目する必要がある。そこで本研究では、日本の暑夏年・冷夏年における高度場の統計解析を行い、夏季に発達するチベット高気圧、北太平洋高気圧の張り出しと暑夏・冷夏の発生との関係を明らかにする。

2.方法

 まず、日本を6地域に分類し、気象庁データを用いて1980~2017年の夏季(6~8月)における各地域の気温の時系列図を作成し、38年間のうち気温が高かった10年を暑夏年、低かった10年を冷夏年と定義した。次に、暑夏年から冷夏年を引いたものを偏差と定義し、NCEP/NCAR再解析データの高度場データを用いて偏差分布図を作成した。2種類の母集団(暑夏年と冷夏年)における平均値の差の有意性を調べるためにウェルチのt検定を行い、差が95%で有意な領域を図に示した。

3.結果と考察

 その結果、北日本日本海側の暑夏年・冷夏年の偏差分布図には、日本上空の150hPa面で有意な高圧偏差が確認できた。これは、チベット高気圧が日本に強く張り出すと、暑夏が発生しやすいことを示している。一方、日本の冷夏の発生にはこれらの高気圧の張り出しの弱化が関わっていると考えられる。両高気圧の緯度方向の張り出しに着目すると、チベット高気圧が日本の本土方面に張り出す場合、北日本、東日本、西日本で暑夏になり、南方面に張り出すと南西諸島で暑夏の傾向となった。同様に、北太平洋高気圧の張り出しの方向もその地域の暑夏の発生に深く関わることが示唆された。

文献

西森基貴 (1999) 天気 46: 269-280.

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