日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S401
会議情報

西シベリアにおける極端現象指標の長期トレンド
*渡邊 貴典松山 洋Kuzhevskaia IrinaNechepurenko OlgaChursin VladislavZemtsov Valerii
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1. はじめに  

 近年ロシア連邦では異常気象が頻発しており,2010年に発生した熱波では犠牲者が1万5千人に達するなど大きな被害が発生している(Lau and Kim 2012)。また西シベリア地域では2012年に深刻な干ばつ(Pokrovsky et al. 2013; Ryazanova and Voropay 2019),2014年に豪雨による壊滅的な洪水(Sukhova et al. 2020)が発生しており,今後もこの地域で異常気象が発生すると予想される。ロシアにおいて発生している極端現象の発生頻度や強度の長期的な変動傾向について地域間の違いに着目した研究は十分には行われていないことから,本発表ではロシアにおける極端現象の長期トレンドについて,西シベリアとその他の地域を比較した結果について述べる。

2. 研究手法・使用データ

 極端現象の発生頻度や強度を求めるために,本研究では世界気象機関で採用されている27の極端現象指標(WMO 2017)を算出した。この指標は16個の気温に関する指標と11個の降水量に関する指標で構成されている。これらの極端現象指標の中で極端な高温・干ばつ・大雨に関する指標(表1)をロシアの気象観測データベース(RIHMI- WDC 2020)に基づいて計算した。対象期間は多くの観測点で観測が行われている1950年から2019年とし,観測データの欠測率が5%未満の観測点のデータのみを使用した。対象地域はロシア連邦全域とし,各地域の極端現象の特性を明らかにするために対象領域を4地域(ヨーロッパロシア:ER, 西シベリア:WS, 東シベリア:ES, 極東:FE)に分割した。極端現象指標の長期トレンドの検出にはMann-Kendall検定を用いた。また長期トレンドの変化率の算出にはSen's slopeを使用した。

3. 結果

 図1に,各地域における極端現象指標の長期トレンドの増加・減少を示している地点数の比率を示す。まず極端な高温日数(TX90p)の長期トレンドは全地域において増加傾向が顕著であることがわかる。西シベリアでは他地域に比べ有意な増加傾向を示す地点数の割合が高いが,一方で指標の時間変化率は他地点よりも小さい0.78 %/decadeとなった。次に継続的な乾燥日数(CDD)は全地域で減少傾向となっている。特に西シベリアはその傾向が顕著であり,地域全体で湿潤傾向となっているといえる。トレンドの平均値では西シベリアでは-0.8 days/decadeとなっており,ウラル山脈以東の地域でCDDの減少が目立つ結果となった。最後に極端な大雨(R95p)は観測点ごとのばらつきは大きいものの全地域で概ね増加傾向を示している。ただしシベリア地域では減少傾向を示す地点も20%前後存在し,トレンドの平均値もヨーロッパロシアや極東に比べるとその増加傾向は弱いことが明らかになった。

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top