日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S102
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「これから」の中国地誌学習を考える -学習教材の検討と授業の視点-
*本木 弘悌上野 和彦
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抄録

1.はじめに

 本発表では主に高校における中国地誌学習に関して、これまでの「地理B」の動向をふまえ、新たに設置される「地理総合」、「地理探究」における授業の視点を提案する。

 発表者の本木は中国学習の事前に高校生3年生と中学2年生を対象に中国の経済発展に関するアンケートをとった(2021年11月実施)。結果は次の通りである。Q1日本と中国ではどちらが経済大国だと思うか:日本11%・中国89%。Q2日本と中国ではどちらの方が国民は豊かだと思うか:日本98%・中国2%。Q3中国は日本をいつ経済的に追い抜いたか、追い抜くと思うか:30年前3%・20年前13%・10年前26%・数年前26%・数年後8%・10年後8%・20年後 5%・30年後1%・抜かない9%。Q4今日の経済発展につながる変化はいつからだと思うか:50~30年前13%・30~20年前27%・20~10年前34%・10~5年前19%・ここ数年7%。Q5日中関係は現在、政治的に友好的な状態だと思うか(悪いを1、良いを5として5段階で回答):1=13%・2=45%・3=32%・4=9%・5=1%。Q6日中関係は現在、経済的に友好的な関係だと思うか(悪いを1、良いを5として5段階で回答):1=3%・2=12%・3=34%・4=44%・5=7%。自由記述で中国発展の理由はなぜだと思うかという質問には、人口が多いから、低賃金労働力だったから、共産党の一党支配だからが多い回答であった。

 アンケート結果より、中国が日本より経済大国であるという認識は定着しているといえる。一方、国民の豊かさでは日本の方が豊かであるあると思う生徒が多数である。日本はいつ中国に抜かれたのか、または抜かれるのかの回答では、約7割弱が過去のこととしているが、その時期はばらつきがある。そして中国の経済的変化の始まりとなると、ばらつきがさらに大きくなる。身の回りに中国製品があふれ、世界の工場として中国が経済発展した認識はあるものの、いかにして発展したのかという点においては、さらに詳しく認識を深める必要があると考える。

2.探究活動をみすえた授業の視点

 各社地理B教科書の中国地誌単元では、経済発展について農業や工業、都市化、人口などと関連づけて扱われている。地域的経済発展では沿海部と内陸、農村と都市の格差についてふれられている。こうした格差が生まれる背景として労働力の移動に注目することで、理解と認識が深まると考える。労働力移動の把握はこれまでよりもスケールダウンして、省レベルで考察できれば、地域的発展の規模やスピード感をより実感できるではないだろうか。「地理総合」「地理探究」学習をみすえた場合、より地域の実態を事実に即してとらえる学習を進めること、それを生徒(学習者)自身が資料を収集し、加工し、把握することが重要であり、それによって地域理解が深まることが期待される。中国に関する政治、経済、地域に関する多様な情報の出現は、格好の学習対象である。発表では、この視点に基づいた具体的な学習展開例を紹介する。

3.学習教材の検討

 発表者の上野は古今書院刊行『地理』の2021年5月号と12月号の特集「図説中国地誌」において84枚の主題図と13枚の統計表を提示した。特に主題図では省別の分布図は、上記の視点に基づいた学習展開において活用できるものが多い。発表では、これらの資料作成に使用した、中国統計類の扱いと図表作成に関する注意点についても指摘する。

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