日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P048
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1990年代後半以降の東京都心部における居住・就業機能の変化
*谷 謙二
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抄録

1.はじめに

 1990年代後半以降,居住・就業両面において東京都心への集中が進んだ。都心には大型のオフィスビルが多数建設され,就業機能が高まっている。一方谷・春原(2020)では,東京都中央区のマンションの立地動向から,1995年時点で業務地区化していた地区の一部で人口が回復していることが明らかにした。そこで本研究では,国勢調査と事業所・企業統計調査,経済センサスの小地域統計を使い,1990年代後半以降の東京都心3区(千代田区・中央区・港区)の住居地区と業務地区の関係の変化を明らかにする。

2.区単位の動向

 国勢調査によると,1995年から2015年の間で,東京都区部の人口は131万人増加した。そのうち都心3区の増加は20万人(15.3%)を占める。一方,事業所・企業統計調査,経済センサス活動調査から,1996年から2016年の間の事業所従業者数(公務除く)の変化をみると,都区部全体で約27万人増加し,都心3区では約25万人の増加を示した。この間のすべての区で人口は増加したが,事業所従業者数は区によって増減の差が大きく,たとえば港区は17万人増加したのに対し,中央区は1千人の減少となっている。このように人口と従業者数の増加傾向には区によって違いがある。

3.都心3区の小地域での分析

 次に都心3区について町丁別に分析した(図1)。人口では,この間に329町丁のうち減少を示したのは69町丁だけで,減少した場合も減少数は小さく,全体的に増加した。一方,従業者数の変化は,150町丁で増加した一方,179町丁で:減少を示した。また,増加した150町丁での増加数は62.7万人だったが,そのうち上位12町丁の増加で50.3%を占め,増加は一部に偏っていた。 図1 1995/96~2015/16年の東京都心3区における従業者数・人口の増減  これらの結果,従業者数/人口比が低下した地区が増加した。1995/96年では,ほぼ業務地区といえる従業者/人口比10以上の町丁は190町丁(人口0人の町丁を含む)だったが,2015/16年には143町丁に減少した。この傾向は特に中央区日本橋地区東部で顕著である。神田地区は従業者の減少が見られるものの,人口の増加が小さく従業者数/人口比は10以上を維持している。

 従業者の増加が特定の町丁に偏っていることが,多くの町丁での従業者の減少を引き起こしたと推測される。従業者の増加が著しい町丁には,この期間に大型ビルが建設されている。ゼンリンの建物ポイントデータから,2019年現在の20階建て以上のオフィス・商業ビルを抽出すると,229棟立地していた。竣工年を調べると,1995年以前に竣工したものが65棟だったのに対し,1996年から2016年に竣工したビルは149棟にのぼり,この間に都心部のビルの大型化・高層化が進んだことがわかる。さらに,この期間に1万人以上従業者数が増加した16町丁のうち,14町丁で上記の大型ビルが竣工し,149棟のうち74棟を占め,こうした町丁は3区内で分散的に分布する。こうした大型ビルを含む地区に従業者が集中的に増加,それ以外では減少し,従業者/人口比が低下する町丁が増加した。分散的に大型ビルが建てられたのは,個別の地区ごとの開発主体が,さまざまな規制緩和に伴う容積率の上乗せを利用したためと考えられる。

文 献

谷 謙二・春原光暁 2020. 東京都中央区における1997年から2016年にかけての分譲マンション供給と土地利用の変化.埼玉大学紀要教育学部: 69:1, 261-277.

本研究に際しては科研費20K01154を使用した。

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