日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S304
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小学校社会科の学習内容に含まれる防災教育的要素
*小野 映介
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キーワード: 小学校, 社会科, 防災教育
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抄録

小学校社会科には、極めて多くの地理的な学習内容が配置されている。そして「人と自然の関係」の理解の延長上に「自然災害」が位置づけられ、防災・減災について学ぶ構造となっている。 小学校における教育は「学習指導要領」に基づくことが求められるため、防災・減災に関する新たなカリキュラムを開発して実践することは難しいという現場の声を聞く。しかし、特別に身構えなくても社会科の内容をもとに発展的な防災・減災教育を行うことは十分に可能である。 近年、地理学においては地理的学習内容についての高大連携の重要性が指摘されている。筆者は、そうした動きを尊重しつつも、児童生徒の学習能力の発達段階を十分に考慮しながら、小学校社会科で学んだ地理的知見が中学校社会科や高等学校「地理」(「地理総合」)にうまく連結することこそが防災・減災教育の充実につながると考えている。 以上を念頭に、本報告では小学校社会科の学習内容に含まれる防災教育的要素を紹介する。

 小学校社会科における学習内容の特徴としては、学年を経るにしたがって、対象とする事象の空間スケールが拡大する点にある。第3学年においては自分たちの市を中心とした地域、第4学年においては自分たちの県を中心とした地域、第5学年においては我が国の国土や産業、第6学年においては我が国の政治の働きや歴史上の主な事象、グローバル化する世界と日本の役割が学習対象として取り上げられる。第3~5学年では地理的分野が大半を占めており、人々の暮らしや自然環境、それらの相互関係を学習する。ちなみに、歴史的分野や公民的分野が本格的に扱われるのは、第6学年になってからである。

 自然災害については、第4学年の中盤に学ぶことになる。学習指導要領では、災害の中から一つを選択して取り上げることになっている。教育出版の教科書(自然災害にそなえるまちづくり:pp.82-115)では主に地震・津波災害が取り上げられ、「せんたく」として水害・火山災害・雪害が用意されている。東京書籍の教科書(自然災害からくらしを守る:pp.76-99)でも同様に地震・津波災害を取り上げ、「ひろげる」として風水害・火山災害が用意されている。また、日本文教出版の教科書(自然災害から人々を守る活動:pp.70-103)では水害を主に取り上げ、「せんたく」として地震・津波災害・火山災害・雪害が用意されている。いずれも、過去に生じた災害をもとに、防災・減災に向けた取り組みについて詳細に述べられている。自助・共助・公助という用語は用いられていないものの、それらを強く意識した学習内容となっている。第5学年の終盤で再び自然災害が扱われ、その発生メカニズムを学ぶほか、ここで「防災」や「減災」という用語が登場する。第6学年においては、自然災害や防災・減災についての記述は減るが、国内政治との関係、地球規模の課題のなかで扱われる。

 小学校社会科は、スケールチェンジしながら世の中の仕組みを学ぶ構造になっており、自然災害や防災・減災については、学習段階を踏まえて発展的な繰り返し学習を行う設計となっている。平易な記述ではあるが、取り扱われている内容は、中学校や高等学校の内容と比較しても遜色はない。小学校社会科は、防災・減災教育の要として機能することが期待される。

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