日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 338
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地域包括ケアシステムにおける「地域」とは何か?
*畠山 輝雄
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抄録

1.はじめに   日本では,団塊の世代が後期高齢者となる2025年を目処に,「地域包括ケアシステム」の構築が目指されている。  厚生労働省によると,地域包括ケアシステムとは「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される」ものとされる。また同システムは,「保険者である市町村や都道府県が,地域の自主性や主体性に基づき,地域の特性に応じて作り上げていくことが必要」とされている。このように,地域包括ケアシステムでは「地域」がキーワードとなっているが,「地域」については適正規模論(人口・面積)が中心であり,「地域」が具体的に何を意味するかという定性的な議論は少ない。  地域という言葉は抽象的であることから,地理学では伝統的に地域の概念や類型化について多くの議論が重ねられてきた。本報告では,これらを踏まえ,地域包括ケアシステムにおける「地域」とは何かについて明らかにし,より地域の実態に即した地域包括ケアシステムが構築されるための指針を示すことを目的とする。 2.地域包括ケアシステムにおける「地域」とは   地域包括ケアシステムは,広島県御調町(現・尾道市)の公立みつぎ総合病院における理念が基になっており,2003年に高齢者介護研究会によって発表された「2015年の高齢者介護」で最初に用いられたとされる。そこでは,「新たな「住まい」の形を用意すること,施設サービスの機能を地域に展開して在宅サービスと施設サービスの隙間を埋めること」とされ,「地域」は施設外という意味で用いられている。 現在,地域包括ケアシステムを定義する厚生労働省は,地域包括ケアシステムの英訳に,「Community-based」を用いている。つまり,地域を単なる空間と捉えるのではなく,そこで生活する住民や組織なども含めた地域社会を念頭に置いているものと考えられる。 他方,厚生労働省が定義する地域包括ケアシステムは,前述の通りである。その定義では「住み慣れた地域」とあるが,この地域とは何を示すのだろうか。これは,高齢者の住み慣れた地域であるから,高齢者の生活圏(結節地域)と捉えることができる。厚生労働省は,これを「日常生活圏域」として「おおむね30分以内に必要なサービスが提供される単位(具体的には中学校区)」と定義している。しかし,上記の文言から,地域包括ケアシステムの構築を目指す中心的役割の市町村は,政策を実行する単位として中学校区や旧市町村域などの形式地域を前提としている。 3.市町村における地域包括ケアシステムと地域  地域包括ケアシステムに関わる現場(都道府県,広域組織,市町村,地域包括支援センター等)においても「地域」という用語は頻出する。これらの現場でも,厚生労働省が定義する地域包括ケアシステムの枠組みをそのまま用いて構築しているケースが多く,「地域」についても同様の使い方をしている。 前述のように,厚生労働省により日常生活圏域の空間的範囲が明示されており,他方で地域包括ケアシステムの中核を担い,多くの場合において日常生活圏域単位で設置される地域包括支援センターの設置基準(65歳以上人口3,000~6,000人に専門職3人)があるように,地域と位置づけられる日常生活圏域は空間的規模で検討されている。 しかし,地域包括ケアシステムにおける「地域」は結節地域的な理念を持っているため,地域社会を構築するネットワーク(人的・組織的なつながり)が形成される空間的単位を前提とする必要がある。政策実行上,形式地域的な単位とする必要はあるものの,ローカル・ガバナンスを構成するアクター間で異なるスケールのネットワーク型「地域」を想定した地域的枠組みで,地域包括ケアシステムを構築していくことが望まれる。   本研究は,科研費補助金(基盤研究(B)「ローカル・ガバナンスにおける地域とは何か?地方自治の課題に応える地理的枠組みの探究」20H01393,代表者:佐藤正志)を使用した。

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