日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 433
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ドイツ中等社会科教科書における単元「気候変動」の特質
―防災学習の視点からの分析―
*阪上 弘彬
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抄録

本研究は,ドイツの中等社会科教科書における学習単元「気候変動」の分析を通じ,「気候変動」の特質およびそこでみられる防災学習の特徴を明らかにし,日本の中等社会系教科における防災学習への示唆や提案を試みるものである. 気候変動教育は,「人々に変化の行為者として行動するために必要な知識,技能,価値観,態度を与えながら,人々が気候危機の影響を理解し,対処することを支援する」ものであり, ESDの中で取り組まれる(UNESCO n.d.).環境先進国で知られるドイツにおいても,連邦教育・研究省(BMBF)のESDを説明したウェブサイトにおいて,ESDのテーマの1つとして「気候」が紹介され,気候変動対策における教育の役割が指摘されている(BMBF n.d.). ドイツでは各州の社会系教科カリキュラムで「気候変動」が学習テーマとして掲げられていることが多い.たとえば,統合型社会科(ゲゼルシャフツレーレ)を前期中等教育の全学校種で採用するNW州では,学校種で文言は多少異なるものの,「天気と気候」「エネルギー供給と気候保全」などの学習領域において「気候変動」が言及されている.また気候変動に関わる学習テーマは,中等教育第9・10学年(日本の中学校3年,高校1年に相当)に配置される場合が多く,前期中等教育のまとめの学習に相当するテーマとして位置づけられていると考えることもできる.加えて授業実践,特に地理では,学習手法ミステリーを用いて気候変動教育が取組まれていることが高橋・ホフマン(2019)によって報告されている. 「気候変動」が収録されたProjekt G Gesellschaftslehre(以下,Projekt G)は,「地理」,「歴史」,「政治・社会・経済」(以下,便宜上「公民」)の3領域が統合される形で編成される3巻1セットの教科書である.「気候変動」は,3巻の10番目に当たる.単元「気候変動」は,9つの小単元から構成される.期待されるコンピテンシーからみると本単元は2つのパートに分けることができる.1つは,シナリオ作成という手法等を用いて気候変動の原因および身近な地域および地球規模への影響を探究するパートであり,もう1つが気候変動への政治的対策を吟味,判断するものである. 防災学習の視点からみた単元の特徴として,以下の4点が指摘できる.1つ目が,地球規模で自然災害の発生や影響の関連性を考える点である.2つ目が,1つ目の特徴と関わるが,システム思考の育成・活用が意図されている点である.3つ目が,長期的視野に立ち,今後の自然災害の発生や被害を予測する学習過程である.4つ目が,気候変動の結果を探究したうえで,政治的決定や行動を吟味したり,判断したりする学習過程である.日本の社会系教科における防災学習に対する示唆を提示する.1つが,個々の自然現象・災害を扱う学習に加え,「気候変動」のという観点を入れ自然災害間のつながりを考える学習が必要である.2つが,将来起こりうる自然災害の規模や被害を長期的視野から予測する学習の導入である.前述と関連して,ミステリーやシナリオ作成といった学習手法を導入することもまた必要である.

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